◇ディティック・ベル
事件の手がかりを探し、生徒全員とそれぞれ2人きりで話を聞いた。ほとんどはショックで飲み込めていない様子で心が痛む。どうにかできなかったのかと後悔する。探偵に事件は防げない。だが『先生』ならもっと目を配れたのでは、と。
「ま、まだ信じられなくって……あ、そ、そうだっ、アイちゃんとシンソニちゃんがすっごく険悪で……! ふたりに先生から言ってくれない、かな……」
マスカットから、ディティック・ベルたちが現場を調べている間に教室で起きたことを聞いた。犯人探しに疑心暗鬼になって、シン・ソニックとキュー・ピット・アイが衝突してしまったという。確かにキュー・ピット・アイを疑う気持ちはわかるが、シン・ソニックだって猪突猛進すぎる。トーチカは止めに入ったが甲斐なく、レモネードはシン・ソニックの味方につき、マスカットはどうしていいかわからなかったようだ。まだ震えていて、生来の明るさの裏にあった弱さが見えていた。
「わ、私……このままみんながバラバラになっちゃったらって……怖くて」
それを最初に聞いた時は、シン・ソニックとキュー・ピット・アイのふたりはまず相容れないだろうと、半ば諦めの気持ちで聞くしかなかった。少しは考えを改めたのは、その後にシン・ソニック本人に話を聞いた時のことだ。
「監査部門というか羽菜先輩からは待機と聞かされましたが私も監査部門所属ですからできることがあれば協力しますさせてください」
「あ、あぁ、うん」
2班の生徒たちもそうだが、魔法少女学級の中には部門所属だったりして、怯えてパニックにならずむしろ何かしたいと思う子たちがいる。そこまで巻き込むわけには、いかないのだが。
「じゃあ、キュー・ピット・アイのことだけど」
「はい彼女の確保ですか彼女のことなら対策を考えてあります私なら」
「その……表立って敵対するのはやめてあげてほしいんだ。疑わしくても、クラスメイトだし」
「正気ですか相手は凶悪犯罪者ですよ脱獄歴まである」
「でもまだそうと決まったわけじゃない。学校は公的機関。情報局の色々をクリアしてここにいるんだ。だから、それ以上は」
シン・ソニックは目を丸くし、珍しく言葉を詰まらせ、唇を噛んだ後、自分の頬を叩き、そして切り替えた。
「わかりました羽菜先輩にも似たようなことを言われましたしそういうことでしたら簡易的な監視に切り替えます」
意外とすんなりわかってくれたらしかった。切り替えも最速、だったらいいのだが。シン・ソニックは良くも悪くも真っ直ぐだ。不安は残るが、シン・ソニックが多少態度を緩めてはくれるだろうか。信じることにして、次の生徒との面談に移る。その問題の、キュー・ピット・アイだ。
「私がここに来て、二週間ほどでしょうか。このようなことになるとは思いませんでしたわ」
「……一応聞いておくけど、何も知らないんだよね」
「もちろんですわ。殺す理由がありません。私はおうじさまといられるなら満足ですもの」
嘘をついている目ではない。彼女に関しては、殺人事件への関与の線は薄いと見立てている。それよりも懸念は。
「その。トーチカ以外との班員とも、話をした方がいいと思うんだ。みんな、不安で、どうしても疑ってしまうんだと思う。前に進もうとしても過去はついて回ってしまうし」
「なぜその必要がありますの?」
「……えっ?」
こちらは予想外の返答だ。純粋に理解ができないという顔で、眉を寄せている。
「残りの魔法少女なんて、勝手にすればいいじゃありませんか。私とおうじさまの邪魔でさえなければ」
「っ、そんなやり方じゃあ、学級で」
「私はおうじさまがいればそれでいいのです」
この人は何のために学級にまで来たんだろう。それを本人に聞いても、おうじさまのため、としか返ってこないことは容易に想像がついた。ディティック・ベルは頭を抱えるしかなく、シン・ソニックとの相性が最悪であることを改めて思い知らされた。こちらは、どうにもならない。
これは諦めるしかなく、今優先すべきだったのは──。
「……ま、ベル先なら協力するかなぁ」
──事件に繋がる話を持ち、ディティック・ベルならと話してくれたのはプラリーヌだった。彼女はジュエリーゼリーの次に登校し、二番目の目撃者となったわけだが、同時に前日、最後にベクトリアに会ったのも彼女だった。放課後、時間は6時過ぎ。他の生徒もほとんどは帰宅した後の時間である。
「疑われるかなと思って言うタイミングなくしてたんですけど〜……一応、ベクトリアが自分のマスコットつきキーホルダー持ってるはずなんで、それが一応の証拠というか」
確かにベクトリアの所持品を調べた時、ポケットの中からキューティープラリーヌのキーホルダーが出てきた。これだけで本人と関連付けるのはと思ったが、直前に接触した本人から貰ったものだった、と。
「自分は本当に何も知らないんで……あ、学校のゲートの履歴は調べました?」
「うん。確かにプラリーヌは遅い時間まで残ってたみたいだね」
「そんな感じですね〜……」
いつもの雰囲気でありながら、プラリーヌでさえどこか精神的に辛そうだ。ため息も多い。生徒達が皆参っている。これはどうにかしなければと、ディティック・ベルは帽子を被り直す。
◇ジュエリーゼリー
学級は休みになった。
そりゃあそうだ。人死にが出て、監査部門の人が来て、捜査が始まったのだ。なんでも今は研究部門も出張ってきて、犯人発見のために手を尽くしているとか。
彼女が見つかった日は自習という形になって、その翌日からはもうずっとお休みだ。だから誰にも会えていない。MyNameの活動拠点でずっと、どうすればいいかもわからず部屋に籠ってばかりだ。チームメンバーも色々と気を遣ってくれるけど、いつものようにノリで行きたくても、頭の中にベクトリアの普段の姿と無惨な遺体がフラッシュバックして、ノリきれない。
いつもなら絶え間なく出てくるはずの言葉たちも、同室の相方と一緒にいてさえ、普段の半分しか出てこない。しかもキレがないのは自分でもわかっていた。
「これほどまでに落ち込んでいるとは……」
このMyNameの会長でキャプテンで隊長で長でリーダーな彼女もさすがに異変だと思ったのか、様子を見てそう呟くと、どこかに電話をかけていた。連絡先を選ぶ際の操作でわかる、あれは人事部門にかけている。しかもMyNameの名を出して、部門長に繋ぐよう頼んでいた。直通で人事部門長にまで話が飛んでいく。
「いきなり失礼。あぁ、うん、それで、うちのジュエリーがひどく精神的に参っていてね……そもそもエリート揃いのはずの魔法少女学級で殺人事件だなんて魔法の国を揺るがす事件じゃないのか。
……何? 公表はまだ控える? どうしてだ、ちょっと、おい!」
通話は切られてしまったらしい。リーダーは人事部門長を怪しみ、難しい顔で首を傾げた。ベクトリアの死の裏側に何かがある、ということか。大事な班員は何に巻き込まれたのだ。手をぐっと強く握る。だからって何かできるわけじゃなかった。この学級閉鎖の期間、アルメールとアーデルハイト、それに2班だけじゃなく他班のみんなも、無事であることを祈る。それしか、今ここにはない。