◇キューティープラリーヌ
始めから、学級に行くやる気などなかったプラリーヌ。元々はレイヴンが行くはずだったのに、先輩とショコラがわざわざ熱弁しに言ったせいで予定が変更されて、その結果が今これだ。始まりがそうなのに、殺人事件が連続で起きた学級にいられるわけがない。
だから登校を拒否しようと、そう思ったのに。
「プラリーヌちゃ〜ん、来ちゃった」
「来ちゃいました!」
自宅のインターホンが鳴り、仕方なく扉を開いたその時、思わず「げ」と顔を顰めた。立っていたのは今会いたくない存在。プラリーヌを推薦した先輩であるキューティーペンギンと、お節介な同僚キューティーショコラだった。
「プラリーヌちゃん……! 学校は行かなきゃあ!」
「……なぁんも知らないのに言わないでもらえますぅ……?」
「大丈夫! どんなに辛くてもキューティーヒーラーなんだから! 最悪手を出しちゃっても!」
「いやだから! いじめられたりしてるわけじゃないんだって〜」
ショコラはきょとんとしてみせた。その仕草がやけにわざとらしい。
「困るプラりんはかわいいね」
「っ、先輩……」
このはた迷惑な先輩ことキューティーペンギンは、恐らく全てを知って、わざとショコラに何も知らせないで連れてきている。そしてそれをかわいいから良しと片付ける。とんでもない人間だ。いや訂正、人でなしのペンギンだ。
「というかなんで住所知ってるのぉ」
「ランドおじさんに『おねがい』したの」
「あのオッサン……」
ここにいない部門長に怒っても仕方がない。ショコラに絆される奴に個人情報を渡したプラリーヌが悪い。深いため息。もうそれしか出ない。
「とにかくぅ……学校にはもう行かないのでぇ、仕事の連絡だけお願いします〜」
「どうして!? 私、心配だよ! 外に出られなくなっちゃっただなんて!」
「だからそういうのとは別だってば〜……」
ペンギンのにこにこした表情の中にある威圧感、恐らく学級で起きていることはどこにも漏らしてはいけない。彼女はそれを知っているが、それ以上広めるわけにはいかない。特にショコラなんて、何人に『あなただけに教えてあげるから』と言って広めるかわからない。口から出かけた真実を噛み潰す。これですら、ペンギンの思い通りなのが気持ち悪い。
「うん。やっぱり困ってるプラりん、かわい〜」
「……お世辞言いに来ただけなら、帰ってほしいんですけどね〜?」
「お世辞じゃないってば。でも、もっと追い詰められてるプラりんはもっとかわいい」
ペンギンの布に包まれた両手がプラリーヌを掴み、その見た目からは想像もつかない怪力で引っ張り出される。自宅でも変身しっぱなしなのが幸いして腕がすっぽ抜けることはなく、外に出されただけ。連行されかけて、せめて鍵を取りにいかせてくれという言葉がショコラに通り、彼女同伴でわざわざ戻って、今度は自分の意思で家を出させられる。
「クラスに戻ったとして……どうしろって言うのさぁ」
いくらキューティーヒーラーだからって、現実のプラリーヌにはキューティーレーダーなんてないし、真実に迫るやる気も正義に殉じる覚悟も持ち合わせていない。これまで学級にいた3ヶ月弱、やったことといえば、宿泊云々でじゃれつくことと、机に突っ伏して時間を潰すことばっかり。思い入れがあるわけでもない。それでも行け、というのか。言うのだろう。
「学校は大事だよ! 行かなきゃ学べないことでたくさんだから!」
「同世代に言われても説得力ないけどぉ……ま〜、そこまで言うなら……」
最終的にはこちらが折れる。ペンギンひとり、ショコラひとりならまだどうにかなるかもしれないが、両方来たら無理だ。先輩の圧と同僚の光のオーラのせいで、引っ張り出されるしかない。
「頑張ってね! それじゃ!」
「うんうん、頑張って〜、本当にね」
手を振って見送ってくるふたり。あざとい笑顔が狡い。ゲートをくぐり、もう朝のホームルームが終わっているだろう時間帯の教室にふらっと赴いた。どころかよく見ると一時間目すら終わっていたようで、扉を開くと魔法少女たちの視線が集中する。全員からだ。といっても、やはり欠席者はいる。マスカットもアイも、いまだに姿を現さないようだ。自分の席に、わざとらしくゆらゆら歩いて到着。荷物は下ろして、椅子に身を預ける。
「……はぁ。おはよ〜」
「遅刻なんて珍しいっすね。来ないものだと思ってたっすよ」
金魚めいたコスチュームの少女、ランユウィが真っ先に近くにやってくる。
「いやぁさあ? こんな状況だし〜、来る気なかったんだけどぉ……先輩と同僚に連れ出される、なんてことがあってね〜?」
「なんだ、引っ張り出されたんすね」
「……みんなさぁ、こんなになっても登校って、おかしいと思わない? 結局来た自分が言うのも変かぁ〜……でも」
「あたしは」
プラリーヌはせめてジョークを交えようとしたが、続きを遮るようなタイミングでランユウィが声を出した。プラリーヌも思わず言葉を止め、続きを待つ。
「来なきゃいけないからっす」
彼女の場合はそうだった。何か功績のようなものを欲しがっている素振りは、まあ他の生徒が目立ちすぎていたのもあるが、多少あった、気がする。一番はこういう時の、本人の言動だが。時折、言い聞かせるような言葉が出てくる。
「あら」
ここでふと顔を上げると、班長、つまりライトニングと目が合った。来たのね、なんて言い出すかと思いきや、意味深にふっと微笑むだけだった。彼女に関しては、殺人事件が起きてなお驚くほど動じていない。給食はむしろいつにも増して食べる。皆が残す分まで消化しているのだ。これはもはや、プラリーヌが監査部門だったら態度だけで疑っているレベルだ。
そんなライトニングはというと、わざわざこちらまで来たかと思うと、ランユウィの背面に手を伸ばし、何をするかと思うとついていたものを取った。
「何かついていたわ」
ランユウィの尾びれを模した帯のその端に引っかかっていたらしい。キーホルダーが目の前に出された。全然気が付かなかったのが不思議なほどだ。しかもそれが、自分を象ったキーホルダーだった。
「……? なんすかね、これ」
「アニメ版プラリーヌちゃんキーホルダーだよぉ」
プラリーヌが宣伝用として複数持っているものだが、学級に来てからわざわざ他人に渡したのは、お礼として1回だけ。
無論、プラリーヌちゃんキーホルダーをただ買って、それを引っ掛けていただけ、ということもある。だが今の反応、ランユウィ自身が買っているようなリアクションではなかった。
ならば1回のその彼女に──例えば、プラリーヌよりも後に会っていたのなら。或いは、その魔法が死後もわずかに生きていて、時間差で『矢印』が動いた、としたら。
返すっす、と言われ、手に取った。デフォルメされた自分と目が合う。まさか。ここに来て、それがプラリーヌのすべきことなのか。あの先輩はこの状況にあることをわかっていて、無理やりにでも登校させたのか。
「……さいあくぅ」
顔を貸してアニメに出るのはいい。自分自身が舞台に引きずり出されるのは、ごめんだった。