魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

39 / 93
友と仇と10秒チャージ

 ◇雷将アーデルハイト

 

 ベクトリア自身にその魔法の性質を細かく聞いたことはない。彼女は求められた役なら大抵なんでもこなす、という万能の態度であった。彼女の魔法を奪って使うプリンセス・アローズと対峙して、その意味を理解する。

 互いに作用し合い不規則に向きを変えて飛来する鏃。しかも運動エネルギーだけを与えるか物理的なダメージを与えてくるかは当たるまでわからない。軍刀で叩き落とそうとすれば、後者は落とせても、前者なら武器を奪われる。体で受ければ、前者でも後者でも防御を崩されるか傷を受けるかだ。あまりにもやりにくい。アーデルハイト単身では腕が4本あっても対処しきれなさそうだ。

 だがここには攻略の糸口がある。アーデルハイトに向かってくる矢印を受け止めるこの青いキューブたちの存在だ。ジュエリーゼリーの固有魔法であるこのゼリーは矢印を無力化できる、というのを発見していた。中に閉じ込めたものはうまくエネルギーを発散できず、その状態ならアーデルハイトが打ち返すこともできる。ゼリーはふわふわ浮かび扱いづらいものの、さすがは本人、自在に操ってみせるのがジュエリーゼリーだ。術者自身が触れるとその場に固定される特性、2つ合わさると爆発する特性も合わせ、打ち込まれる矢印を受け止めながら立ち回る。飛来する矢印たちの間を縫い、床に仕掛けられた矢印をかわしながら、壁を蹴って迫る。

 

 ──が、それでも攻略しきったとは言えないのが現実だ。純粋にゼリーの供給が追いついていない。そして、距離を詰めたとして、近接戦闘に持ち込んだアーデルハイトが勝てるかも別問題だった。アローズは伸ばした矢印を剣にして振るい、軍刀を受け止めてくる。もう一度突き通そうとし、これも止められ、今度は仕掛けてくるアローズの重い一撃に軍刀を持つ手が痺れる。その間も矢印は降り注ぐ。マントを靡かせて矢印を弾き、飛んできたゼリーが爆発したのを目眩しに体勢を整え、もう一度切りかかる。

 それも合わせて矢印がぶつけられ、今度は運動エネルギーによって体勢を崩された。アーデルハイトは咄嗟に己の魔法を使い、自分の中に残った運動エネルギーを雷に変えて帯電、それ以上吹き飛ばされるのを防ぎ踏みとどまる。

 

禁城鉄壁(ジークフリートリーニエ)ェ!」

 

 純粋な身体能力でもアローズは明らかに高い。吸収したエネルギーを身体能力の強化に回し、ぶつけ合った刃を押し込んで、矢印剣を突破。踏み込んでの一閃を放つ。アローズはそれを自分に矢印を指すことで飛ばして回避してくる。外したと認識するや否やゼリーと電撃を飛ばして追撃とするも、届かない。着地したアローズは上掛けをばさり靡かせ、矢印剣を振り抜きポーズを決めた。

 

「やるじゃない。そうよね、少しは見せ場をあげないと。せっかくの舞台ですものね」

「……あんたが舞台語んなや」

「敵役にも華々しく、そして残酷な退場を。それでこそ主役が輝くの」

「へい、主役はおまえじゃないぜベイビー。そこに立つべき女優はもういない」

 

 浮かんでいたゼリーが一斉にアローズに迫り、キラキラと輝きながら爆発を起こす。アローズは展開した矢印に乗って潜り抜け、こちらに向かってくると共に矢印剣を振り下ろした。軍刀を突き入れて受け流し、陰からジュエリーゼリーが飛び込む。両手には、これまで捕まえてきた矢印をたっぷり埋め込んだゼリーが2つ。

 

「あなたじゃ代役はできない。キラめきが足りないよ」

 

 ゼリーが破裂すると共に襲いかかる多量の矢印。雨のように降り注ぎ、剣で防御しようとしても追いつかず、両腕に傷を受けながら耐えようとするアローズ。お返しにした矢印の雨は受け切られるが、ゼリーはわざと、運動エネルギーの矢印はアーデルハイトに向けていた。背中を押す矢印、その有り余るエネルギーを吸収、一気に軍刀に乗せる。

 

閃手必勝(カイザーシュラハト)!!!」

 

 斬撃と同時に電光が走る。刃が触れた瞬間にスパークし、ついにアローズの衣装ごと肉を裂く。傷は浅い、が、放電のせいで彼女は声をあげ、感電がゆえに痙攣しながらその場に膝をつく。それでも倒れはしてくれない。矢印剣を杖にして立ち上がって構え、薄ら笑いを浮かべている。

 

「ふふふ……なんてつまらない舞台かしら。こんなに粘られるなんて。ダイジェストでいいのに」

「いいこと教えてあげる。ベクトリアは、そんな役者を蔑ろにするようなこと言わないし」

「その顔でボケたこと言うのも腹立つんや」

 

 いくら魔法がベクトリアといっても、中身はボルケーノと一緒。こんな安い挑発をするのはやりたくないが、それでも乗ってくる相手なら、そうする選択肢を取るしかない。そして、アローズはあっさりと乗り、床に矢印剣を突き刺して、指を鳴らした。

 

「お望みなら! 味わわせてあげる!」

 

 一体を埋め尽くす矢印の群れ。この量、逐一ゼリーを展開していたのでは対応しきれない。ならば──と。後退し背中合わせとなったジュエリーゼリーから、ふいに声が来る。

 

「必殺技ゲージが溜まった。ボタンを押せ」

「ボタン、どこや?」

「見つけてあげるよ、君だけの必殺技ボタン」

 

 何を言っているかはわからない。けれど、ジュエリーゼリーが何かの擬音を口にし始めたかと思いきや、アーデルハイトとジュエリーゼリーの体を彼女の青いゼリーが包み込んだ。なるほどゼリーの鎧というわけか。これなら、全てを防げずとも、低減はできる。

 やがて、アローズの合図で矢印が一斉に動き出す。ならばとアーデルハイトはジュエリーゼリーを覆い隠すように立った。

 

「っ、アーデル!?」

難攻斧落(フェストゥンマリエンベルク)……!」

 

 受けるエネルギーの全てを防御に回し、矢印の雨を受け続ける。突き刺さってきても吹き飛ばそうとしてきても関係ない。限界まで吸収し、有り余ったダメージには耐えるのみ。ただ耐えて、反撃の機会を待つ。ボルケーノやライトニングと同じ仕様ならば、あるはずだ。

 矢印の頻度が落ちてくる。耐える、皮膚が裂け血がしぶいても、ジュエリーゼリーを抱きしめて耐える。見据える先はアローズのティアラと、上掛けを留めるボタンの宝石だ。輝きが弱まっている。思った通り。()()()だ。

 

「なあゼリー。さっきのまだあるか?」

「さっきの……矢印たっぷり、インゼリーのこと?」

「そんな名前やったん」

「今アローズについてるアームドゼリーを加工すればいける。でも防御はなくなる」

「そんならやってくれるか? 決めるわ」

「アーデル……無理は、しないで」

 

 彼女はアルメールにも何度もそう言っていた。しかしその末に、アルメールは殺された。無茶でも仇を取るのが塾生の矜恃。だがジュエリーゼリーを思うなら、やるべきじゃない。その狭間で揺れる時間さえ惜しく、アーデルハイトは決めた。無茶をしてでも、生き残ってやればいい。

 

「まっ、たく……なんてしぶとい──」

「いくでゼリー」

「……うん」

 

 恐らくはエネルギー補給のために宝石を取り出そうとしたその隙を狙った。矢印が詰まったゼリーを2つ。今度は、アーデルハイトの足元に叩きつけた。弾けるゼリー。その勢いと飛び出してくる矢印を利用し、エネルギーを供給、さらに獅風迅雷(ブリッツクリーク)による脚力強化も乗せ、飛び込んだ。慌てて矢印剣を構えてももう遅い。構えたその斬撃を食らうのも厭わず、腰部を刺されながらも、軍刀を振り抜いた。刃は上掛けを留めていた宝石製のボタンを、アローズの腕ごと切り飛ばす。外れた上掛けが宙を舞う。宝石が床に転がる。アーデルハイトとアローズから血が溢れる。痛みが襲ってくる。耐えて、アーデルハイトは床にそのまま顔から着地しそうになり、ゼリーに受け止められた。

 

 振り向く。その時、ちょうど、アローズが纏っていた赤い舞台衣装が光と消える瞬間であった。

 崩れ落ちるのはアローズ。アーデルハイトは立ち上がり、ジュエリーゼリーと共に、倒れた相手の元へ駆け寄った。変身が解けた、わけではないのに、ベクトリアのようなコスチュームではなくなっている。

 

「なんや、これ……?」

 

 その首筋にはスペードのマークと『Q』の文字。何らかの意味のある刻印なのか。そう考えた時、倒れていたアローズが動き出す。慌てて構えると、彼女はよろめきながら、腰に提げていた仮面を着けると、先程切り飛ばされた宝石のボタンを拾いあげようとした。咄嗟にジュエリーゼリーがゼリーを投げてぽよんと弾き、手元に回収する。アローズは取り返そうと飛びかかってきて、その無防備な体に、アーデルハイトは軍刀を刺し込んだ。仮面の向こうの目が細く歪む。一度つけた傷痕と共にTの字を描くその傷口に、アーデルハイトは吐き捨てた。

 

「……ポジション・ゼロや」

 

 走る止めの電撃。全身を内側から駆け巡る。やがて痙攣の末に動かなくなり、アローズから刃を抜く。

 

「ベクトリア。アルメール。仇はとったで……あっ、いたたた……」

「アーデル。血出てる。力まないで」

 

 ジュエリーゼリーに肩を借りた。この学級にはまだ襲撃者も、助けるべきクラスメイトもいる。それに、アローズの体にあった刻印も気になる。アーデルハイトは、聞き慣れた足音かわして、ライトニングが残った方の廊下の向こうを見つめる。

 

「……すまんゼリー、あっち行かんと」

「うん。ライトニングも、大事なクラスメイト」

 

 そうして廊下を戻る。脱出からは遠ざかるが、その先で、崩落した天井と瓦礫の中、埋もれかけた少女たちを見つけることになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。