邂逅・2班──You got trouble makers!
◇アルメール/
今日は待ちに待った魔法少女学級の初登校日である。隣の新校舎では一般の生徒たちが入学式を迎える中、魔法少女たちも同じく入学の式典の日を迎えたのだ。くぐり抜ける門は校門ではなく魔法の門だが、やはり雰囲気が違うと緊張してくる。自分は法務局に推薦してもらったエリートなんだぞと、窓に映る自分に向かって頷き、自信を保つ。そして制服のスカートを揺らし、はやる動悸を抑えながら、話し声のする教室の扉に手をかけた。教室の中にいる魔法少女たちの目線がいくつかこちらに向く。
この学級では変身しないのがルール。魔法少女の姿でいる者はいない。そのはずなのに、匹敵しそうだと思うくらい顔立ちが整った者もいて、萌溜は縮み上がった。本当に同い年なのだろうか。なるべく目を合わせないように逸らしながら、座席表のある教卓に急ぐ。場所は、一番前だった。
名前順だ、仕方ない。萌溜の魔法少女名は『アルメール』。五十音順ならかなり頭である。椅子に座り、鞄を椅子に掛けて、必要そうなものは鞄の中から取り出しておいて、ふと顔を上げると、いつのまにか目の前に少女が立っていた。
──外国人、だろうか。長身、金髪、蒼眼、美人、普通の萌溜なら関わらないだろう存在。しかしそんな彼女は、にこやかに笑うと、声をかけてくれた。
「おはようさん」
流暢な日本語だ。外国語を心の内で覚悟していた身としては、驚きで声が詰まる。
「……おっ、おはようございます。ありがとうございます、わざわざ」
「いやあなんもなんも。用あるんは本当やから」
「用……ですか」
「あんたも2班になるんやろ? 私もなんよ」
班……? 聞いていない話で首を傾げ、そんな萌溜に対して彼女もまた首を傾げた。
「なんや聞いとらへんのかいな。あんたんとこのお偉いさん、不親切なやっちゃな」
「えっと……すみません」
「あんたが謝ってどないすんねん。ま、ええか」
彼女は大袈裟に冗談めかしたため息を吐くと、このクラスに所属する12名の生徒は1から3班のどれかに所属することになるらしい。で、その班が一緒、というわけだ。具体的にどういう班活動をする、とかはいまいち不透明だが、クラスの中でも特に仲間になる3人のうちひとりが、その……金髪の彼女。まだ名前を聞いてもいなかった。
「あの、お名前を聞いても……」
「せやった。アーデルハイトや。雷将アーデルハイト」
「雷将アーデルハイトさん! 雷将……さん」
名前が『アー』で始まりながらも五十音順で先に来ないのは2つ名があるからだ。わざわざ着けられたそれは、彼女が何者であるかを示す。魔法少女界で正式名に2つ名が追加される理由はまず間違いなくひとつに絞られる。即ち、彼女は『魔王塾』の卒業生である。
「アーデルハイトでええよ」
優しく声をかけてくれる彼女だが、戦闘に特化した魔法少女だということは間違いない。主宰者であった魔王パムが倒れ、彼女の所属していた外交部門の力は衰えようと、個々人が弱くなったわけではない。非力なアルメールなら片手でひねり潰される。握手のため差し出された手に盛大に戦きながら、そっと手を伸ばした。このまま手が破壊されることまで想定し、優しくぎゅっと握られ、そうはならなかったことに安堵した。
そして今更、自分は名乗り忘れていたことに気がつく。
「あっ、わ、私……! アルメール、です」
「おう、アルメールさんな。知っとる」
「あれ……?」
「座席表見てから来ただけやね」
何のことはなかった。見た目よりずっとアーデルハイトとは馴染めそうだ。胸を撫で下ろし、一時は学校生活への不安は忘れていた。
思い出したのは次の瞬間である。教室の扉が開き、何気なく目を向けた。入ってくるのは美少女だ。アーデルハイトは長身もあって美人という印象だが、彼女はまさに美少女。ロリータを着せたらどれほど似合うだろうというあどけない顔立ち。ウェーブのかかった髪もまたその印象を上乗せしている。
いや、それよりも目を奪われるべきものがあった。縦笛だ。リコーダー……ではない、本格的な、あれは確かオーボエか。教室に入るや否やそれを口に添えた彼女。皆が息を呑み、まさかここで演奏を、と思った瞬間だった。
「──ぷすー……」
「いや吹けないんですか!?」
耐えきれずにアルメールがツッコミを飛ばしたことにより、緊張の空気が弾け、数名が爆笑。どっと明るくなる。少女は満足気に、そのままアルメールのところに来たかと思うと、オーボエを手にしたまま敬礼した。
「ご協力感謝いたします。ナイスツッコミ」
「あ、はい、どうも……すみません」
「あんた、なんでオーボエ持っとるん?」
「リコーダーの上位モデルだと思って持ってきた。吹き方は知らない。へぇ、これがオーボエなんだ」
「今更!? そこまで未知のものを!?」
なおさらなぜ持ってきたのか。オーボエを眺めてああでもないこうでもないとする少女に対しては疑問しか出ず、思わず噴出するのをアルメールにアーデルハイトが大笑いしていた。一旦落ち着いて、ようやくおさまる。
「あー、おもろ。あ、私はアーデルハイト。こっちのツッコミ担当がアルメール」
「いやその、ツッコミ担当ではありませんが」
「アーデルにアルメール。ふむふむ。こちら、まいねーむいずジュエリーゼリー。『MyName』というチームで全国を巡業中。よろよろ」
少女改めジュエリーゼリーはスカートの端を持ち、お嬢様の所作で挨拶をしてくる。独特な口調と行動が微妙に一致せずに混乱し、アルメールは会釈しかできなかった。
「お、ジュエリーゼリーってことは2班のお仲間さんやな」
「アーデルとメルメルがいれば心強い。1たす1たす1で千人力。百倍だぞ百倍」
「……メルメル?」
「アルメール、だからメルメル。ア被りを避けて、可愛らしく仕上げました。……嫌だった?」
「そんなことは! むしろ嬉しいですけど」
そうだ、嬉しい。実は、すごく。
アルメールは真面目な優等生を自分でもやってきているつもりであるが、そのせいか友人は多くない。あだ名で呼ばれるのは初めてだ。
「じゃあメルメル。仲良くしよう。フェアプレーで」
「は、はい、そうですね!」
ジュエリーゼリーの言葉のうち半分くらいはなんのことはわからないが、もしかしたら今もないのかもしれない。固有魔法である『魔法のタブレット』を使わせてもらえたら、超リアルタイム検索ができてよかったのだが。
「席も埋まってきとるな。あと来てないのは、うちらの班やとあとひとり。確か、推薦ちゃう選抜試験に立候補したっちゅう──」
バァン、と勢いよく扉が開かれた。大きな音がゆえに、ジュエリーゼリーの時より皆の視線が集中する。アルメールが気にしていたことを一切気にしない。乱雑どころか、わざと皆の視線を集めようとやっているかのような。
「刮目せよ!!!」
真っ赤な長髪をこれでもかと靡かせ、燃え上がる赤の瞳を輝かせた少女。アーデルハイトに匹敵する長身と顔立ちで、堂々とした一挙手一投足で教室に入ってくる。
「白星、勝ち星、流れ星。指し示すのは、栄光への道」
……何かが始まった。口上? だろうか。教卓に向かい、名簿を見るかと思いきや、見ない。こちらに顔を向け、口上は続く。
「嚆矢は放たれ、火蓋は切って落とされた! 頂を目指すは、覇者たるこのボク!」
自らの胸を叩き、そのキレのある動作で髪が広がり、さながらマントだ。
「魔法少女学級1期生、ベクトリア・エラ!
進む先は唯一つ、"
最後に決めポーズ。はじめは呆然としたが、誰かが拍手を始めたのにつられて拍手をする。そしてアルメールの席は最前列がゆえに、目が合った。合ってしまった。ベクトリアは教壇の上から髪をはためかせて降りてくると、こちらに手を差し伸べた。
「キミの目、わかるよ。さあ、共に舞台を目指そう」
「えっ……」
「同じキラめきに魅せられてしまったのだろう? ボクもかつてはそうだった。その輝きを初めて浴びた時、ボクは──」
「あー、ええとこ悪いけど、あんたがベクトリアやね。2班所属やろ?」
「──あぁ、そうだとも。ああ! キミからもボクと同じ匂いがする。焦げ付くようなキラめきの匂い! 舞台に立つに相応しき輝きと闘志、あるいはそう、情熱と理性、空白と黒塗、衝撃と──」
「こいつはやべーのが出てきちまった。インパクトでこの私に勝つとは。やるね」
ジュエリーゼリーとは別方向に、よくわからないことをしゃべり続けるベクトリア。ジュエリーゼリー本人がそうこぼした直後から、さらにベクトリアの標的が彼女に移り、さらによくわからない言葉の応酬だ。この3人で班員、ということは、つまりこれでやっていかなくてはならないわけで。
──アルメールは頭を抑えて、気を失いそうになった。