魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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クラスメイトだから

 ◇雷将アーデルハイト

 

 崩落した天井に焦げた廊下。激しい戦いの跡。その中に埋もれかけて、気絶した少女がふたり。容姿は全く同じで、アーデルハイトからしても全く見分けはつかなかった。衣装が黒いネグリジェのようなものに変わっており、髪も変身前のような黒髪。近くには仮面も落ちている。透明の宝石を嵌め込んだティアラだけは変わっていない。が、その傍らに落ちている宝石の色だけが違う。電光の色、紫がかった白のジュエルを見つけ、その傍らの少女に呼びかけた。

 

「おい! しっかりせぇ! 死んだら許さへん言うたやろ!」

 

 頬をペチペチと叩く。傷自体はそれほど深くない。魔法少女の体ならきっと大丈夫だ。瓦礫を退かし、体が動かないであろうことを考慮して、背負ってやろうとした。宝石は、ボルケーノのものと合わせてジュエリーゼリーが回収する。

 

「見て」

「ん、なんや」

「これがほんとのジュエリーゼリー」

 

 3つ並べて指に挟んでのボケを放り込まれた。やっとる場合かとは言えず、むしろ笑ってしまった。足元の彼女(ライトニング)が少し笑ったのに意識が向いた。咳き込む彼女に大丈夫かと問うが、そこへの返事はない。

 

「……ねえ」

「無理して喋んな」

「ボルケーノに出された命令はクラス皆殺しだったそうよ……私も入ってたのかしらね」

「……さあ、知らんわ」

「何も知らないまま死ぬなんて……嫌、じゃない?」

「そりゃそうやろ」

「私の……懐に、キャンディが入っているはずなのだけど……それ、出してくれないかしら」

 

 動けないのなら仕方ない。アーデルハイトは言われた通り、ネグリジェ衣装をまさぐる。

 

「変なところ触らないでよ」

「触るかいな」

 

 くすくす笑われて、こいつ本当は元気なんじゃないかと思いつつ、見つけ出したのは青い飴玉だ。ジュエリーゼリーは「これまた見事な」なんて言っている。こんな時に出せと言うあたり、これも魔法の代物らしい。

 

「あーん」

「あ?」

「食べさせて」

「このわがままお姫様……」

 

 仕方なく口に運んでやった。飴を舐め始めると、彼女はしばらく目を閉じ、ゆっくりと味わっているらしかった。かと思いきや、急に頷きながら、がりがりと噛み砕いてしまった。

 

「ええ、そう、そうね。そういうものね」

「なんやねん今のアメちゃん」

「思い出したわ」

「は?」

「右手」

 

 ライトニングの右手に目を向ける。ボロボロになった手袋から覗くものがある。刻印だ。しかも、アローズにあったものと同じように、マークと数字がある。彼女のものはハートのマークと『9』の文字。ボルケーノの方に目を向けると、ジュエリーゼリーが確認中だった。彼女の場合、二の腕にクラブのマークと『9』の数字だ。

 

「全員にあるんか、これ」

「ねえ、私、ライトニングじゃあなかったみたい」

「じゃあなんやっちゅうねん」

「……私は──仮面舞踏会(マスカレイド)

 

 足音がした。廊下の向こうから、覚えのある足音。アローズとも、ボルケーノとも、ライトニングとも同じ歩調、靴音、それがしかも複数人ぶん。ハッとして顔を上げた。仮面を着けた、同じ格好の魔法少女が並んでいる。揃って、それぞれ違う色の宝石を掲げ、こう呟いた。

 

「プリンセス・マスク・オン」

 

 仮面が輝きを放ちながら宝石と融合し、衣装となって纏われるとともに、髪色や髪型も変わり、手元には武器が現れる。それはまるで魔法少女から魔法少女に変身したかのようで。

 そして彼女らがこちらに向ける視線は獲物を見るそれだ。ボルケーノやアローズと、やはり同じだった。

 

「アーデル!」

 

 名を呼ばれてハッとして、武器を掲げてくる魔法少女兵団に対し、アーデルハイトは咄嗟に電撃を放って牽制。その間に、倒れていたライトニングを背負って、自分の足も覚束無いながらに駆け出した。ジュエリーゼリーがゼリーの破裂でさらに追っ手を押し留めながら、衝撃の余波をアーデルハイトが吸収、獅風迅雷(ブリッツクリーク)で加速する。けれど背後から飛来した竜巻が足元に当たってバランスを崩し、アーデルハイトはライトニングを背負ったままの体勢で床にぶつかった。擦った顎がヒリヒリするが、それどころではない痛みばかりで構っていられない。ジュエリーゼリーが時間を稼いでくれる間に立ち上がる。

 

「置いていきなさい」

「はぁ!?」

「あれ全部……私と同じ存在よ。私は研究部門の手先、トランプと同じだけいるプリンセス・マスカレイドの1個体に過ぎないわ」

「んなこと言われても!」

 

 マスカレイドたちから斬撃やら衝撃波やら氷の礫やらが飛来して、電撃で迎撃、しきれないものは受けて吸収しにかかり、致命的なものは頼れる班員がゼリーで防いでくれる。とはいえ相手の数は多い。3、4、5……片手じゃ数え切れず、廊下の奥にも並んでいるかもしれない。教室までは戻れない。こちらはこちらで、門に向かうしかない。

 

「っく、何人おんねん! 追いつかれるで!?」

「私を置いていけば、少しは」

「だから! それはできへんねん!」

「どうして?」

「クラスメイトだからや! わざわざ言わすなや!」

「うん。クラスメイトなのは、ここにいるあなただけ」

 

 ライトニングは心底わからないという顔をしたが、ジュエリーゼリーがサムズアップしてみせると、ふたりの顔を交互に見て、考えるのをやめたらしかった。

 

 直後、背後から自分たちを通り越し、廊下の天井が破壊される。急ブレーキをかけて崩落には巻き込まれないようにするも、行先は塞がれた。そもそも警備の結界のせいで外にも逃げ場はないだろう。振り向くと、そこにはマスカレイドがそれぞれに違う魔法を携えて、横一列に追ってくる。

 見捨てないなんて決めておいて、ここまでか、という思考が過ぎってしまう。どうする、どいつから突破すればいい。そもそもこの量の、しかもどれもライトニングと同等かそれ以上の力を持った魔法少女を前に、各個撃破なんてできるのか。いくらアローズを超えても、この壁は折り重なりすぎではないか。

 背負ったライトニングを支える手に、力が入る。ここまで来たのに。後退りする足からは力が抜けそうだった。

 

 

 ◇キューティープラリーヌ

 

「ん〜、きみわりとカワイイけど、ペンギンちゃんの好みじゃないかも☆」

 

 状況は最悪だった。キューティーペンギンの『氷上で舞い踊る』魔法によって展開された冷気は床を凍りつかせ、シン・ソニックの持ち味である速度は奪われ、むしろキューティーペンギンの速度によって足を潰され、今は傷つき倒れていた。

 プラリーヌは動けなかった。その光景を前にして、魔法でサポートしようとすることもできただろうに、シン・ソニックが痛めつけられるのを見ているしかない。キューティーペンギンはもう飽きてしまったのか、シン・ソニックには目もくれなかった。

 

「ねえプラりん。速度自慢ちゃんはあのザマ。トーチカちゃん? だっけ? は、あんな感じだよ?」

 

 言われて振り向く。トーチカ、そうだ、彼女は──と目を向けて、飛び込んできたのは喉元に刃を突きつけられるトーチカと、突きつけるツインウォーズだった。

 

「安心せい。降伏した生徒には手を出さぬ」

「……降伏してなかったら、どうなるんですか」

 

 トーチカの言葉に、ツインウォーズは歯噛みして、数秒の沈黙の末に答えた。

 

「命はない」

「っ、そんな……そんなの……っ!」

 

 トーチカの目が輝く。ああなる時は魔法が起動している。何かのレシピを検索しようとしたのだ。ここから抜け出すやり方、勝ち方、大方そうだろう。だが理論上のレシピは検索できても、実際の動きまでは伴わない。反撃に動き出そうとして、ツインウォーズに刀を叩きつけられて、ふらついた末に倒れてしまった。

 

「オールド・ブルーは命はなくても良いと言っておった。これ以上は、シン・ソニックともども──」

「っ、ま、待って!」

 

 思わずプラリーヌが声を出していた。このままじゃ、目の前で殺されてしまう。それだけはダメだ。回避しなきゃ。じゃあどうする。プラリーヌがとるべきは……頭を下げること、しかできそうにない。

 

「お願いです……っ、先輩ぃ……! 私たち……何もしてないでしょう!? 降伏します、だから……シン・ソニックにも、トーチカにも……危害は加えないで、くれませんか」

 

 ツインウォーズは歯を食いしばり、キューティーペンギンは眉間に皺を寄せた。そして、思いっきり力を込めて、振り上げた掌でプラリーヌを叩いた。ペンギンの手による一撃は見た目から想像できない威力で、歯が折れて、口の中が切れて血が滲む。呆然と見上げると、打って変わって笑顔のペンギンが、プラリーヌを抱え上げようとしていた。

 

「うんうん。敵わない相手には従うのも正しいよね」

「……」

「プラりんがそうしなきゃって思ったんだから。尊重、してあげる。あぁもう、そんなにカワイイ顔しちゃって」

 

 横を見ると、ツインウォーズは気を失ったトーチカを抱えていた。プラリーヌとトーチカはどこかに連れていかれるらしい。行先はどこだ。わからない。ボロボロのシン・ソニックは倒れたままだ。プラリーヌは何も出来ないままだった。

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