魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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学級崩壊の日 結

 ◇雷将アーデルハイト

 

 現れたプリンセス・マスカレイドの一団。アーデルハイトがもはや諦めかけてしまったその時。どこからか、響いてきた声がある。そもそも聴覚を介さずに響いてくる声、即ち心の声だ。それははっきりと、こう言った。

 

『もう大丈夫』

 

 目の前で、構えていたマスカレイドたちが一薙ぎで吹き飛ばされる。大剣の一撃だ。現れたその姿は黒く、白く、そして赤かった。靡く長髪は桜色で、振り向いたその眼は紅かった。その姿には覚えがない。けれどまるでそれは、救世の方舟のような。

 

「なんなの!? 一撃でこの私たちを──」

「そう。そのティアラと宝石。あの子と、同じなんだ」

 

 突如現れた彼女はふわりと優雅に、しかし恐ろしく、剣と薙刀を両手に振るう。マスカレイドを凌駕する速度で斬りかかり、最小限の動作で飛来する飛び道具を躱し、叩き落とし、突撃してきた相手には剣の柄を叩きつけて一撃で昏倒させて、後ずさりする者には薙刀を投げつけて腕を壁に縫い止め、そのまま駆け寄り手刀で意識を刈り取った。壁から薙刀を抜くと、再び構えて、多数を相手にしても怯むどころか優勢にしてしまっている。

 

「このっ! こうなったら!」

 

 蠍の尻尾を生やしたマスカレイドが、大立ち回りする彼女ではなく──アーデルハイトたちの方に狙いを定めて突っ込んでくる。その長い尾は速く、鋭い針の一撃が迫っているのを認識した時には、背中を向ければライトニングがやられる状況だった。ゼリーも間に合いそうにない。苦し紛れの反撃に電撃を放とうとし、目の前で、蠍の動きが止まった。この感じは──。

 

「来たんやな……あんた」

 

 アーデルハイトが振り向くと、確かにそこに予想した通りの少女がいる。キュー・ピット・アイ。今のは彼女の『動きを止める』魔法だ。

 雷撃をもろにくらったマスカレイドはふらつき、それでもなお向かってこようとし、薙刀に尾を切り落とされ、続く大剣の叩きつけで壁にめり込み、動かなくなった。マスカレイドたちの追う勢いは弱くなっており、今ならまだどうにかなりそうだ。

 

「あのとんでもなく強い御仁は?」

「スノーホワイト様ですわ」

「す、スノーホワイトぉ!?」

 

 その名はアーデルハイトも聞いたことがある。魔法少女犯罪史の授業においても、たった数年間の活動にも関わらずその名が取り上げられており、こちらからすれば教科書の偉人みたいな認識だった。

 

「そうスノーホワイトさんは『魔法少女狩り』の異名を持ち悪しき魔法少女を狩る正義の魔法少女でその心を読み取る魔法を使いクラムベリー事件以来監査部門の外部職員として数多の活躍をゲホッゲホッ」

「喋っちゃダメ、沈黙は銀だよ」

 

 いきなり声がして驚いたのは、アイの背中に背負われていたシン・ソニックだった。スノーホワイトのことを早口で語ろうとして激しく咳き込んでいた。何があったのか、先に行かせたはずの彼女がアイに助けられ、しかもボロボロだ。ジュエリーゼリーが背中をさする。

 

「あんたら、ゲートの方から来たんか」

「いつも通りの登校ルートですわ。間に、合いませんでした」

「……待てや。プラリーヌとトーチカは」

「プラリーヌ様も……おうじさまも、姿がありませんでしたわ」

 

 視線を落とすアイ。彼女はずっとトーチカといて、トーチカもアイがいないからか気落ちしているように見えた。彼は無事脱出できたのだろうか。そうだといい、のだが。

 

「きっと無事。落ち着いたら連絡してくる」

「だといいのですけれど……」

 

 マスカレイドの勢いは落ちている。今なら教室に戻ることだって可能だ。教室に残ったのは──と思い出して、ジュエリーゼリーとほぼ同時に声を出す。

 

「先生たち!」

「せや、ベル先もラズ先も心配や……それに、ランユウィと思案は逃がしたらあかん!」

「最強助っ人がいるうちに助けに行きたいわね」

 

 皆の目線がスノーホワイトに集まる。その名のわりに、あまり白くないというか、赤の部分の割合が大きい。これじゃあ返り血のスノーレッドやななんて冗談を思いつき、言わずに奥底に仕舞った。

 

「……確かに赤いです、けど」

 

 しかしスノーホワイトにはバレていた。そうだ、今シン・ソニックが言っていた。心を読む、と。早口過ぎて聴き逃しかけていた。

 

「とにかく……先生たちを助けに行きたいんです。力を貸していただけますか」

「そのために来ましたから」

 

 スノーホワイトは頷き、むしろ先導して駆け出す。速いし、道を間違えないか不安になるが、そこは我々生徒たちの心を読み取って道順を把握したらしく、教室までは一直線だ。ボルケーノのせいで崩落した廊下を乗り越えて、変わり果てた景色の中、教室に辿り着く。

 

 中には人影がひとつ、いや、ふたつだけしかない。せめてラズリーヌ先生とディティック・ベル先生であることを願って飛び込むと、そこにいたのは──血の中に倒れるディティック・ベルと、この数日姿を見なかったマスカット・マスケットだった。

 

「……!? なんや、何があったん!? なんでマスカットがおってラズ先もおらん!?」

「あは、あはははっ……私……やっちゃったんだ。先生を……私も同じだよ、ねぇ、キュー・ピット・アイ、私も」

「貴女に構っている暇はありません! とにかく先生の治療を!」

「待ってて。ゼリーで患部を塞ぐ。応急処置中の応急処置」

 

 クラスメイト総出で、倒れた先生の介抱に向かう。脈はまだある。出血量は、かなり多く、生きていてくれるかは本人次第だろう。

 

「数が多い……さっきの集団で終わりじゃない」

 

 ジュエリーゼリーがディティック・ベルを運ぼうとゼリー製の担架を製作する傍ら、スノーホワイトが呟いた。皆もうボロボロで、怪我人は何人もいる。そもそもディティック・ベルの命が一刻を争う。学級を脱出しなければならないのは、変わらない。

 再びスノーホワイトを先頭に、生徒全員での脱出体勢を組み、すぐにでも出発、しようとした。

 

 が、放心状態でいたマスカットが、ふいに声を出す。

 

「あはははっ……ねえ、待ってよ」

「……なんですの?」

「人殺しって……こんな感じなんだ。ねえ、レモネーを殺した時も、こうだったの」

「……私ではありません」

「嘘つき」

「信じなくてもいいですわ。私は……おうじさまにまた信じてもらうために戻ってきたのです。あなたがどうだろうと、関係ない」

「……」

「マスカット……なあ、あんたも逃げようや。何がどうなってここにおるんか知らんけど……クラスメイトやし、な?」

「うん。レモネーがいたら、ここでマスカに死んで欲しいとは思わない」

「……」

 

 マスカットは答えない。答えはしなかったが、銃を向けてくることもなく、何も言わずに立ち上がった。きっと一緒に来はしてくれる。

 

「今日のところは早退ね」

「また……登校して来よう。必ず。その時は、みんな、一緒で」

 

 ──魔法少女学級最悪の一日は、ようやく終わりを告げる。それがさらなる始まりであったということは、誰も想像もしない。この時想像していたかったのは、これまで過ごしてきた平穏な日々だけだった。

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