魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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第二部:別れの季節
幕間──白をさがして


 ◇(ラブ)・ルールー

 

「そっち、行った! 逃がさないで!」

 

 ターゲットたる魔法少女が廃屋を抜け、木々の中へ逃れていく。格闘戦で敵わないと見るや否や、相手は逃げに切り替えた。こちらとしては面倒でしかない。向こうにとっては賢明だ。逃げ足には自信があったらしく、ルールーだって本気で追っている、それでも距離は離されていく。これ以上は任せるしかない。魔法少女ならまだ息を切らすほどの距離じゃないが、速度を緩めて力を抜いて、そのまま軽く走る。すると途端に目の前の足場がないことを気づき、そこに掘られた落とし穴に飛び込みかけて、壁を蹴って地上に戻る。

 落とし穴なんて、よく作るものだ。振り返ってはぁ、とため息を吐いて、追っていた先からの声を聞いた。恐らくはターゲットの悲鳴。再び駆け出して、到着した時にはちょうど、終わるところだった。

 

 ──木々の間をぐるりと回り、自然には有り得ない軌道を描くは手裏剣だ。

 飛来するそれはターゲットをしつこく追い詰め、ひとつ落とされても二の矢が迫り、ついには手にしていた杖を弾く。ルールーはその状況を理解すると、隙を突いた膝の一撃、からの投げでターゲットを制圧。呻き声を聞いてやるまでもなく地面に叩きつけて、相手の体から力が抜けた。無事今回の任務は完了だ。

 

「お疲れ様。ナイス手裏剣」

「……」

 

 寡黙な女忍者──リップル。隻腕に隻眼と厳つい風貌とそのどこかヒリついた雰囲気から受ける『仲良くなれそうには無い』という印象は、いまだ初対面の時からそのままだ。ただ、樹上からの投擲によるアシストは鮮やかなものだった。協力せざるを得ない事情がある以上、彼女も贅沢は言っていられないというわけだ。

 

「こっちも大丈夫!」

 

 落とし穴で引っ掛けてやったらしいターゲットの仲間を引きずって、手を振りこちらにやって来る犬耳の魔法少女。こちらはルールーとは以前からの顔見知りだ。名はたま。青は欠片もないものの、ラズリーヌの一門で、ここ数年仮弟子入り中の修行中だ。気が弱く、リップルとは正反対に弱々しい雰囲気が見えるが、修行についてくるだけのガッツはあるようだ。

 

 隻腕の忍者に、可愛らしい犬耳ガール。魔法少女らしいバラバラさ、そして性格からも交わりそうにないふたりだが、彼女らを繋げる太い線がある。

 ひとつはクラムベリー。例の事件だ。

 彼女らは『クラムベリーの子供たち』最後の世代。あの音楽家自身でさえ命を落とす戦いの生き残りであり、たまに至ってはその『音楽家殺し』当人だ。実際に会ってみると、暗殺か正当防衛なんだろうという感想しか抱かないが。

 そしてもうひとつの線。それこそが、最後の世代の生き残りたった3人のうち、残ったひとり。『魔法少女狩り』──スノーホワイトだ。

 

 今、スノーホワイトの行方はわからなくなっている。ここ1年の話だ。その血塗られたデビュー以来何かしらの事件に関わり続けていたような彼女が姿を眩ませ、交友関係のあったリップルとたまにさえ何も告げずに1年が経っている。何かが起きたに違いない、というのは彼女らの直感だ。その行方の捜索に、たまと同門の縁から、ルールーが協力にやってきた。

 

 ──と、いうのが筋書きだ。それもオールド・ブルー(師匠)の書いた。ルールーからしてみればその指示さえも信用できない。師匠はスノーホワイトの所在などすでに知っているのではないか。それにラズリーヌの一門は動き出していて、魔法少女学級とやらにかかりっきりなのに、そこでわざわざスノーホワイトの方に手を回すというのはきな臭い。

 あるいは単純に、ルールーは優先度の低い場所に回された、か。その方が気は楽だ。

 

 ただやることといえば、こういうターゲットの制圧だった。かつて魔法少女狩りが解決した魔法少女賭博事件、その胴元の残党がいるという情報を得て、こうして確保に来たのがこの場だった。

 

「……スノーホワイトの、こと……何か、知ってるでしょ。吐いて」

「ひっ!? な、何も知らない……! 知らないから!」

 

 リップルは捕まえた魔法少女の胸ぐらを掴む。相手は首を振るばかり。どれだけ近づけようとも情報は出てこない。リップルは奥歯を強く噛み締めて、ルールーにも聴こえる明らかな舌打ちをして、ようやく相手を離した。

 

「げほっ、げほっ……! な、なんなの……!?」

「ごめんねー、捕まえろって言われてるんだ」

「っ……! くそっ! 魔法少女狩りのことなんて……知ってたらとうに行動してるっての……!」

「あぁそう。何かするつもりではあった? 魔法少女狩りに親玉がやられてるもんね、あんた」

 

 捕まった彼女、ルーレットの魔法少女ディー・ルーレッタは歯を食いしばり、こちらを睨みつける。この様子だと、彼女は本当に何も知らないのだろう。スノーホワイトに関してはハズレだ。仲間たちのリアクションも概ね同じ、というより、たまがしっかり気絶させているせいで話を聞けるのが彼女くらいだった。ただしルーレッタはひたすらに反抗的、まだ諦めておらず、ルールーに押さえつけられている両手に装着されたルーレット盤が急に回転を始め、押さえていた腕が弾かれる。

 さらに反撃に出ようとしたルールーに対しては、胸元から取り外した回転盤を盾にして、今度はそちらも高速で回転。周囲からは刃が飛び出し、丸鋸のように振り回してくる。コスチュームの端が切られ、飛び込んできたリップルがルールーを突き飛ばして、忍者刀でルーレッタの刃を受け止める。金属が擦れ、火花が激しく飛び散った。空いた手でも彼女は回転盤を取り外して武器にしようとしているのを見て、今度はたまが仕掛ける。突っ込んできた彼女は爪で手を引っ掻く。その瞬間に、ごく小規模に『穴』が作られた。指が弾け、手が潰れる。

 

「ごめんなさい……っ!」

「なッ──」

「さっすが、妹弟子。さあどう、大人しくしないなら、胴体にまで穴を掘られるよ」

「くっ……!」

 

 たまの持つ魔法はほんの少しの傷口でも大きく広げられる一撃必殺の魔法だ。数年前の彼女なら、ルーレッタはあのままクラムベリーと同じ、上半身のない遺骸になり果てていたに違いない。片手だけに絞って発動されたからこそ無事なものの、次はないと彼女も理解したのだろう。リップルに向けていた刃の回転が鈍り、リップルも押し返して武器を吹っ飛ばすと、切っ先を突きつけた。

 

「……何も知らないなら……ただ、捕まえるだけ……」

 

 さすがの彼女も諦めたようだ。血の流れる両手を挙げて、呟いた。

 

「賽ノ目も……スロットも……しくじりやがって、あの時から全部ダメになったんだ……アイツらが好き勝手しなけりゃ……」

 

 傷口の応急処置はしてやりながら、ディー・ルーレッタは監査に突き出すために連行することにした。こんなふうにお尋ね者退治なんて、元々はスノーホワイトがやっていたはずのことだろうが、今はむしろリップルがそれに近いことをしようとしている。スノーホワイトに近い道を選ぶことで、どうなったのか知ろうとしているのか。それは、ルールーとしては構わないが──。

 

「駄目だったね……大丈夫、かなぁ、スノーホワイト」

 

 たまだってずっと心配そうな顔をしている。可哀想になるくらいだ。対するリップルの表情はずっと険しい。これまでも何度不意に舌打ちが聴こえてきたことか。

 

「とにかく。監査部門に突き出しに行こう。ついでに監査の人に話も聞きたいよね」

 

 何も知らないルールーは感傷には付き合えない。できることといえば、その感傷から引っ張る手伝いくらいだ。

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