魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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邂逅・1班──酸いも甘いもノンストップ

 ◇トーチカ/建原(たてはら)智樹(ともき)

 

 魔法少女だけの学級に通え、と言われた時はそうとは気がついていなかったが。そのルールを聞いた時に初めて、二つ返事で了解する前に気がつくべき、致命的なことに気がついた。魔法少女学級では、変身前で過ごすことがルールとなっている。確かに変身した姿は武装しているようなものであり、揉め事による余波を最低限にするためにもそうすべきだろう。

 得てして、魔法少女になるのは年頃の女の子だ。智樹は数少ない、男子でありながら魔法少女になった存在。そんな珍しいものが身近に複数いるわけもない。

 

 そうした時。何をどうしても、智樹だけが男子で、他はみんなきっと女子なんだろう。つまり──浮く。女子校にひとりだけ男子が放り込まれるようなものだ。

 小学校を卒業したばかりの人生経験しかない智樹でも、女子たちがグループを作りがちで、ほとんど固定の面々と行動しがちであることはなんとなくわかる。姉の智香がそうだったのか、まではわからないが──偏見ながら、女子のグループとは、かなり排他的なイメージがあった。

 普通の魔法少女社会ならまだいい。グループに出迎えてくれる人がいた。けれどここは学校。女子校に単身、智樹がいて馴染むことができるだろうか。できる気がしなかった。友人関係のことはもはや諦めており、いかに以前からの友人と連絡を取り続けるかを考えていた。

 

 そして迎えたその当日。予想通り女の子ばっかりの教室に注目を集めながら入室した智樹は今、女の子に挟まれている。

 

「ねえねえ〜、トーチカくんのこともっと教えてよ〜、知りたいな〜」

 

 右からは、明るい黄緑の髪をした女の子がしきりに話しかけてくる。

 

「……ぁの……」

 

 左からは、鮮やかな黄色の髪をした女の子がじっと見つめてくる。

 

 ふたりは緑か黄か、動か静かの違いを除けば、顔立ちはよく似通っている。もしかしたら双子なのかもしれない。しかもそれが小学校時代ならクラスで上から5本に入るような顔立ちで、目を合わせるとドキリとするため目のやり場もない。魔法少女に変身してもいないのに。

 教室に奇人変人が複数現れてもなお彼女らの興味は智樹から映ることはなく、むしろ何か起こるたびに距離が縮められ、いつの間にかすぐ隣にまで詰められていた。近い。

 

「あのちょっと」

「なあに?」

「近くないですか」

「近いかも〜」

「……かも」

 

 避ける気がない。すぐ横でにこにこ見てくるのとじいっと見てくるのに挟まれて、すごく居心地が悪い。なんとか助けを求めようと前の席で静かに座っているスポーティーな日焼けの短髪少女に話しかけようとしたが、彼女は少し振り向いた後、そのまま前を向いた。見て見ぬふりだ。振り絞った「あの」が不発に終わり、取り残された智樹は挟まれ続けるしかない。

 

「えっと……おふたりは姉妹とかだったり?」

「うん、そうだよ〜。私がマスカット・マスケット!」

「……わたし、レモネード・グレネード……」

「私たちすごく似てて間違われちゃうから〜、マスカットとレモネードに合うように髪染めてるんだ〜。この色、可愛いでしょ〜」

「……おきにいり……」

 

 自分の髪に指を通して見せてくるふたり。甘酸っぱい、女子のシャンプーの匂いが漂ってくる。健全な中学生男子には刺激が強すぎる。小声でなんとか、素敵ですね、なんて絞り出して、それが聴こえたのか、レモネードは目を逸らし、聴こえなかったマスカットはさらにぐいぐい来た。

 

「どー? 触ってみるー?」

「え、いや……」

「……ふふふ……素敵……ふふ……それなら……わたしのも、いい、よ……?」

「え、えっと……」

 

 拒否するのはさすがに気が引けて、けれど軽いノリでもさすがに女の子の髪に触ったりするのは行き過ぎだし、右を見ても左を見ても女の子。女の子。ああもうどうすれば、まずい、冷静になれ、屈したら変態の烙印を押される──。

 

「おい」

 

 こうなって初めて、前の席の女子が話しかけてきた。

 

「魔法少女に男性がいるのは確かに珍しいが珍しいからといって迫っては困るに決まっているだろうしこちらとしても気が散るし嫌なら嫌と言えばいいし仲良くしたいなら仲良くしたいと言えばいいし」

 

 なのだが、早口すぎてあまり聞き取れなかった。マスカットとレモネードは顔を合わせ、さらに智樹を挟んでまた顔を合わせ、一斉に首を傾げた。

 

「混ざるー?」

「混ざりたいとは誰も言ってないだろう誰もそもそもなぜ話しかけたかと言うと見ていられなくなったからであって」

「あっ、というか前の席って確か、シン・ソニックちゃんだよねー? トーチカちゃんやレモ姉含めてー、4人同じ班だった気がー」

「……うん、わたしたちで、1班……」

 

 そういえば──情報局というらしい組織から、トーチカを推薦する話が来た後、同派閥によって推薦された魔法少女たちと行動するようにと言われていた。それがマスカットの言う1班、ということだろう。詰められた距離が近すぎて頭が沸騰していたせいで忘れていたが、確かにその中に、マスカットやレモネードの名前があった。そして今聞いた『シン・ソニック』の名も。

 ただしあまり教室内で派閥や後援組織の話はすべきでないとも言い含められている。智樹だってよくわからない魔法の国の事情の話をするつもりはない。

 

 が、シン・ソニックに関してはそうもいかないらしい。

 

「なるほどこれが1班のメンバーねなんだか実戦経験の足りなそうなまさに新人たちって感じそれなら監査部門に所属していくつもの現場に飛び込んできた私が班長であるべきかな異論はないよね当然だって私は弱気を助け悪を挫く監査部門推薦なんだから」

「……えーと……」

「シンソニちゃんがリーダーやりたいんだってー、私はいいよー」

「僕も大丈夫です。お願いします」

 

 智樹自身も異論は特にない。わざわざ監査部門の話を持ち出し、一方的に話を進めたがるのはリーダーとしてどうなのかと思うものの、トーチカが選ばれてさらに浮くくらいならシン・ソニックにやってもらった方がいい。するとシン・ソニックはふんすと鼻を鳴らして、いきなりぎゅるんと回れ右をしたかと思うと、何事もなかったかのように席に戻っていった。

 気がつけば教室には全員が揃っているらしい。数えてみれば、ちょうど12人だ。ここ1班以外も、恐らく2班と3班だろうグループが固まっている。ついでに時計を見ると、もうすぐ始業の時間になっていた。智樹からマスカットとレモネードにそれを指摘すると、ふたりは礼を言って自身の席に戻っていく。

 

「そっか! そーだね、ありがと! また後で!」

「……しばし……おいとま……」

 

 ここでチャイムが鳴った。教室の扉が13度目に開き、その向こうには大人たちの姿。二つ結びの優しそうな女性と、スーツを着ているというより着られている小柄な女性と、派手な感じの、というかギャル。ギャルだ、なんでここにギャルがいるんだろう。なぜか笑顔で生徒たちに手を振る彼女に、ふと後ろの方を見るとマスカットが手を思いっきり振り返していた。何か共鳴している。

 

「はじめまして、皆さん。これから入学式、といきたいところですが、今の時間の体育館は普通の入学式がやっていますので、残念ながら教室のままのオリエンテーションからで失礼させていただきます。私は副担任のツインウォーズ。こちらは担任のディティック・ベル先生と、その助手のラピス・ラズリーヌ先生です。よろしくお願いします」

「よろしくっす〜!」

「よろしくお願いしま……あっ、え? 私が担任なんですか?」

「そうですよ?」

 

 とまあ、教師陣の方も行き違いやら色々とあるらしい。ディティック・ベル、彼女のことは知っている──かつて、1年半前に、引き止めてくれたことがある。あの時のトーチカはそれを振り切って道を踏み外してしまったが、もう違えない。決意を持って彼女を見つめ、不意に目が合い、彼女は慌て、座席表を確認、トーチカであることを認識してようやく合点がいったらしく落ち着いた。その後は隣のギャルことラピス・ラズリーヌにばしばし背中を叩かれたり、そこでも騒がしくなるらしかった。

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