魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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わたしがいかなきゃ

 ◇アークプリンセス・スノーホワイト

 

 人事部門、刑務所、情報局、法務局、広報部門とぐるっと回って、ようやく拠点である病院にまで帰ってくると、真っ先に休憩用の仮眠室にまで歩き、枕元に端末を放り、ベッドに寝転がった。

 現身の強靭な肉体は疲れ知らずで、そもそも魔法少女は睡眠を必要としない。それでも精神には溜まるものだ。息抜きしたくもなる。枕に顔を埋め、気が済んだら端末に向かい、ただぼんやりとSNSを眺めた。

 

 今の体では『変身前』がない。姫河小雪の肉体はどこにもなくなってしまった。変身を解除して日常生活に戻ることはできず、現身なせいで迂闊に外に出ることも許されず、外の情報は又聞きかSNSに頼りっぱなしだ。魔法少女用SNSの、作り直した閲覧用アカウントで、ぼんやりと情報を集める。いつも観ていた魔法少女アニメも溜まっているが、30分画面に向かっている暇を捻出できず、今に至っている。

 

『スノーホワイト、平気ぽん?』

「……何が?」

『ディティック・ベルのために部門も局も行脚してきたことぽん』

「平気。現身だもん。バイタルは異常なしでしょう」

『それが心配なんだぽん』

 

 ファルが浮かび上がってきた端末を枕元に軽く投げて、顔を腕で覆った。深く息を吐く。キュー・ピット・アイに頼まれてから、スノーホワイトは魔法少女学級のために動いている。けれど、その全てが学級や所属魔法少女のためだけというわけじゃない。魔法少女の命をなんとも思わない連中を排除する、その口実にしている節はあって、こうして転がっていたくなるのは、その罪悪感のせいかもしれない。自分自身の心の声は、グリムハートの魔法でも遮断できない。

 

『どこまでもスノーホワイトがやることないぽん』

 

 ファルはそう言ってくれる。この体になってから、彼はずっと心配性だ。目の前で作り替えられたからか、一時、離れ離れになったからか。どっちも有り得そうだ。スノーホワイトだけが背負う必要はない、と。どうしてもオスク派の存在はついて回るけれど、そのうえで、わざわざ魔法少女学級のために、刃を手に取らなくてもいい、と。

 それじゃあ、変わらない。

 

「わたしがいかなきゃ」

 

 魔法少女狩りでは変えられないものがいくつもあった。その果てに、大切な人を犠牲にしてようやく手に入れたこの刃。それでなければ変えられないものがあって。そう答えると、ファルは静かに浮かんだ後、誰か来るぽん、と魔法少女の接近を知らせた。だらしなくなりすぎないようにコスチュームを整え、その最中に扉が開く。訪れたのはレーテだった。

 

「帰っていたんだな」

「さっき」

 

 扉を閉めながら、ふわりとスカートをなびかせ、悠然と椅子に腰掛ける。レーテはオスク派のナンバーツーだ。つまり本来ならばグリムハートの後継者であるべき人物である。いきなりグリムハートを素材に作られたアークプリンセスが現れて、彼女はどう思ったのだろう。これまでの現身としての活動をサポートしてくれたのは全て彼女だった。何度も、世話を焼かせ教えを乞うだけでなく、我儘を聞き入れてもらった。そして、今回も我儘を聞き入れさせるだろう。

 

「どこへ行っていたんだ」

「そう、報告します」

 

 スノーホワイトは今日の行脚のことについて話す。レーテには、そこまでは知らせていなかった。彼女は彼女で色々と仕事があり、そこまで相談する暇は無い、と思ってのことだった。ただしそれは勝手な行動も同義であると、レーテはため息を吐いた。

 

「いいか。お前が現身であることは、まだ伏せている。一部の者しか知らない。だから表へはあまり出ないように……と、言ってあったはずだな」

「うん」

「それが……関係各所に行っている。どういうことだ」

「私のこの魔法は交渉に強いから」

「そうじゃない」

 

 その魔法のせいで心の声が流れ込んでくる。中身はだいたい、またいつものお説教だった。最初に独断専行した時に比べれば、もう慣れたものだ。ただ、プク派と全面戦争になるかもしれないと聞いた時は叱りを通り越して顔面蒼白、言葉を失っていたけれど。

 今のスノーホワイトは非常に特殊な状況にある。誰が何を考えるかもわからない。準備が整っていない中の公表はオスク派の混乱を招く。どころか、混乱は魔法の国全体に波及するかもしれない。だからこそ、せめてプク派との件が片付くまで、表舞台には立たないでほしい、というのがレーテの思う所であった。そうは言っても、今回の件は体が動いてしまったんだから仕方がないと思う。

 

「以後気をつけます」

「よろしい」

 

 完全に保護者なレーテにお説教を貰った後は、レーテの方も報告してもらおうと思い立った。

 

「そっちは?」

「留守番の間か。宿舎関係の書類は片付けた。それと」

「それと?」

「魔法少女学級の生徒と戯れていた。あれは見どころがある。さすがは部門からの推薦を受けた生徒たちだ。魔王の教え子も励んでいる」

「息抜きできたんだ」

 

 彼女の表情は普段よりも緩んでいる。魔王塾のイベント常連だったらしい彼女は、どうやらそういう方向の人種らしい。なんでも生徒の方から依頼を受けた、ということで、知ってか知らずか、運が悪かったのか、捌け口にされただろう生徒には同情した。

 

『スノーホワイト、どうするぽん。プク派は交渉以前に連絡も取れないぽん。それでも今すぐラズリーヌたちを取り返すっていうなら、それは』

「全面戦争あるのみ、か」

「……そうしなきゃいけないなら、そうするしかない」

 

 魔法少女学級という当初の事業を壊し、他部門との関係を足蹴にしてまで、プク・プックは何かの儀式を始めようとしている。もはやこの先、彼女を止めるにはぶつかるしか道はないだろう。そうなれば、レーテの言う通りプク派との全面戦争になる。大勢を巻き込む。己が堕ちる覚悟はできている。既に、大切な人の血で赤く染められた身だ。己でない、周りの者たちはどうか。

 

「……リップル、何、してるかな。たまちゃんも……」

 

 彼女らとの接触は断っている。普段なら、リップルなら大丈夫、たまも強くなった、と思えるが、今は恋しさが残っている。

 レーテの隣に座り、彼女に寄りかかる。巻き込みたくない者たちの名を呟き、その手で彼女の尻尾に指を這わせた。ぶんと振って、嫌がられた。

 

 

 ◇雷将アーデルハイト

 

 休憩スペースを占領し、散々戦闘訓練、しかも超難易度をやらされた末、アーデルハイトたちはほぼ全員椅子でひっくり返っていた。ちょうどそこを通った見知った顔にも、挨拶をする元気があるのはジュエリーゼリーだけだ。

 

「ベル先。お疲れ様」

「あぁ、みんな……ってなんでそんなに疲れた顔してるの」

「こっぴどくやられた。コテンパンパンのパン」

 

 得るものはあった、あったのだが、にしたって途中から楽しんでいるのは完全に向こうだけだった。魔王塾生として中盤までは燃え上がっていたものの、終盤には全員の情熱も置いていかれていた。

 

「こちらの限界を突破させようとしてくるのはまだわかるとしてかなり本気で魔王級の動きをするのはやめていただきたいラズリーヌ先生のように繊細な加減をしてほしい」

「あーほんまにそれやな。学級の授業が恋しなるくらいやわ」

「給食も出るものね」

「それは給食が恋しいだけちゃうか?」

 

 何気ない発言だ。それに、ディティック・ベルはぴくりと反応した。あぁそうかと帽子に指をかけ、何度か頷いていた。

 

「もう少し待ってくれるかな」

 

 なんの話だったのかわからず、その場で思ったことは『まさかベル先がライトニングの弁当を作ってくるのか』だった。絶妙に有り得そうで、頭の中にイメージしたエプロン姿が結構似合っていて笑えた。

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