◇ディティック・ベル
探偵事務所を立ち上げてから、もっと言えば教師になってからというもの、何かと部門に顔を出すことはあった。それでも──魔法少女刑務所にまで来るというのは初めてのことだった。それもそうだ。ここは刑を受けることになった者が放り込まれる最終地点。余程のことがなければ、一般的な魔法少女には関係がない。
余程のことが、なければ。
「新設で綺麗ですね! 人事部門よりは小さいように見えますが」
「地下に長いらしいよ。全部で8層。地獄に準えてるのは刑務所らしいというか、なんというか」
ディティック・ベルは同伴役のミルキーウェイを連れ、自動の扉を潜り、受付の魔法少女に名を告げた。彼女は少しわたわたしていたが、無事確認が取れて、奥に通される。
かつて起きた監獄の襲撃事件や脱獄事件により制度が見直され、一新された、という沿革だけは知っている。たまに獄中の知り合いに差し入れを送ったりはしたし、マスカットとレモネードの両名が看守候補として推薦されている関係で、刑務所勤務の人と会う機会もあった。ただ、直接赴いたことはなかった。これが初めてだ。少し待合室で待っていると、案内役の職員──看守の魔法少女が、姿を現す。
「あ、お久しぶり……です」
「あぁ、久しぶりですね」
「あの時の! お元気でしたか?」
出迎えたのは以前事件で関わったことのある人物だ。名はフィルルゥ。新体制の刑務所になる以前から看守をしている。ここに務める魔法少女では唯一ディティック・ベル及びミルキーウェイと面識があった。面識……というか、交戦したというか。何を隠そう、彼女がこの新刑務所に勤務できるように取り計らったのも、ディティック・ベルだったりする。そんな知り合いの彼女に挨拶し、先に進む。
「聞きました……今、どうなっているのか。私たちにできることはさせてください」
何かの部屋に通された。扉の向こうには、我々の来訪を待っていたらしい魔法少女が2名。扉を開くや否や、片方はぱっと笑顔になって、手を振ってきた。もう片方は寡黙に、ふっ、と息だけで反応した。
「あっ! 来たのね! いやぁあの時ぶりなのね〜」
「……」
トゲトゲパンクロックな魔法少女、トットポップ。
真っ赤に燃えあがるような魔法少女、炎の湖フレイム・フレイミィ。
どちらも元革命軍の所属だ。フレイミィは刑務所から脱獄、革命軍に一時協力した後、寝返ってディティック・ベルに協力……という複雑な経緯だが、とにかく革命は止められ、彼女らは収監された。それが今、ここにいるということは。
「ふたりが協力者……なんだね」
「そう! そうなのね! コメットちゃんが捕まったって聞いて、トットいてもたってもいられなくなっちゃったのねー! だからフィルルゥちゃんにお願いして、色々相談してもらったのね!」
「ディティック・ベルさんとラピス・ラズリーヌさんに恩があるのは、私たち一緒ですから」
トットポップはピースして、フィルルゥは手を握って、フレイミィは無言で頷いた。
「フィルルゥさんも?」
「はい。皆さんお強いですし、他の看守さんたちだけでも大丈夫だということで……私も、一応おふたりの監視役、ということで協力させていただきます!」
「フィルルゥちゃんすごいのね。悪目立ちした囚人がいたら、ズバーッ! って! 一瞬で捕縛しちゃうのね! さっすがベテラン看守なのね!」
「いやぁそんな大層なものでは」
トットポップに褒めちぎられて、フィルルゥはソワソワしていた。どうしても、彼女と話すとこうなるらしい。一方のフレイミィは無言で、間に入りたそうにしており、すかさずトットが「フレイミィちゃんももう階層上がったって聞いたのね」とフォローし、満足そうにふふんと頷いた。事件に対する外部協力者、というより、顔なじみと談笑、という雰囲気に包まれたところで、ミルキーウェイが最初にふと我に返る。
「皆さんが心強いのはわかっているんですが……その、囚人なんですよね? 大丈夫なんですか、外に出て。フィルルゥさんが監視役につくとはいえ……」
「ミルキーちゃんは心配性なのね。ほら、可愛いトットの目を見るのね。この人畜無害な瞳……悪いことをするようには見えないでしょ?」
「……そうですかね?」
ミルキーウェイの不安もわからないでもない。実際、彼女らはテロリストだったわけで。だがこちらとしては、借りられる手はすべて借りるつもりでいた。
「何か起こすようなら、私がどうにかする……と言っても、説得力ないか。けど今私にできることは、信じることばっかりだよ」
「……探偵は、疑うことが仕事……なのに、か……」
フレイミィが口を開いたことに驚いて、ふいに言葉が詰まったが、おかげで答えは固まった。迷いはなく、頷く。
「ラズリーヌを取り戻したいのは、私個人の、譲れない我儘だから。お願い、手を貸して。みんなが必要」
その言葉に、皆が頷いてくれると信じて手を伸ばす。そしてその伸ばした手は──。
「よくぞ言った。それでこそ我がライバルの見込んだ探偵だ」
──いきなり開いた扉の音に驚いて、反射的に引っ込めた。恐る恐るそちらを見ると、見慣れない魔法少女がいる。刑務所の関係者かと思い、フィルルゥを見た。フィルルゥは首を振った。ではまさかと顔の広いトットポップを見て、彼女は言った。
「はじめましてなのね?」
じゃあ誰も知らないじゃないかと思い、誰なんだよと言いそうになって、ちょうどフレイミィが呟く。
「……”双龍”……」
双龍、その名はなんとなく覚えがある。ラズリーヌの友達に魔王塾卒業生がいて、それが確か双龍。
「今の私は”超龍”だ」
やっぱり人違いかもしれない。
「話は聞かせてもらった。ラピス・ラズリーヌ奪還、私も協力しよう」
「あ、協力してくれる方の人なんだ……」
「……協力したい、というなら是非頼みたいけど。えっと……パナっちさん、だよね」
魔王塾卒業生なら実力は確か。ラズリーヌがライバルとしてパナっちがー、パナっちはー、と話題に出すくらいだ。信頼はしていい、はず。でもどうやってこんなところまで来たのだろうか。ここは刑務所の中なのだが。
「あ、あ〜! そうでした。フレイミィさんに面会希望が来てましたね。そういうことだったんですね」
「やつを倒すのは私だからな」
「お! 出た! ライバルが言うやつみたいなのね!」
「みたいではなくライバルだ」
「おぉ〜、コメットちゃんもやる子だけど、塾生ってことはパナっちちゃんもやる子なカンジなのね?」
「……」
「フレイミィちゃんが頷いてる! 確かっぽいのね! なになに、馴れ初めは? コメットちゃんとの因縁は!」
ここにトットポップも混じり、つまり彼女が入ってきたということは、会話が連鎖していく。あとは彼女らをオスク派の施設に連れて帰るだけだというのに。もしかすると生徒たちより制御不能かもしれない。今から、ジュエリーゼリーやプリンセス・ライトニングがこの面子と出会ったらどうなるのか、想像したくない未来がすぐそこに待ち受けていると理解してしまっていた。