◇雷将アーデルハイト
レーテの特訓は激しく、翌日の朝は遅かった。アーデルハイトが欠伸をしながら起床し、ゆっくり朝から、なぜか完備されていた超龍印のカップラーメンを食べ、その最中にライトニングに隣に座られた。
「美味しそうなもの食べてるわね」
「やらんで」
「まだ何も言ってないじゃない」
「超龍オリジナルブランドの美味しいやつやねん、大事に食わせてや」
「俄然興味がわくこと言うのね!」
「もう1個あったで」
「そうなの?」
ライトニングはカップラーメンを探しに行き、そして見つけてくると目の前に設置、開封。アーデルハイトが沸かしたお湯の残りを注ぎ、上に箸を乗せて、頬杖をついて待つ。時間は5分だ。開発者のこだわりのこもったカップラーメンゆえに、ちょっと長めである。その間に麺を啜り終えたアーデルハイトはスープまで飲みながら、ついに時間を迎えたライトニングが食べ始め、そして食べ終わるのを待った。彼女は相変わらずの食べっぷりで、どんどん減っていく。
「いいわね、これ」
「せやろ」
「でもちょっと少ないかも」
「あんたからしたらなんでも少ないわ」
みるみるうちになくなっていくカップラーメン。いつもそうだが、あんな食事量がこの細い体のどこに消えていっているのやら。
「あっ」
ごちそうさまの挨拶の後、カップを処分したところで、ライトニングがなんだか声をあげた。何をやらかしたのやら警戒した目を向けていると、彼女はこう言い出した。
「ディティック・ベル先生から、10時に会議室に全員集まって欲しいって、伝言があるんだったわ」
「……それはもっと早く言わんかい。今何時や?」
「10時」
「……過ぎとるー!?」
これでは単純な遅刻。言われてみればそうねと危機感のないライトニングを急かし、早足で廊下をゆく。完全に、悠長にカップラーメンを作っていたせいだ。確か会議室はこちらの方であっているはず。急いで、駆け込み気味に扉を開く。その向こうに広がっていたのは──前方に大きなホワイトボード、そちらに向かって並べられた椅子と机、前にはディティック・ベル先生と、即ち教室スタイルだった。席のほとんどは魔法少女で埋まっており、アーデルハイトとライトニング以外はつまり全員間に合っていた。視線が降り注ぐ中、笑ってごまかす。
「すんません、遅れました」
「おはようございます。好きな席、座って」
改めて教室を見回すと、なんだか見慣れない魔法少女も混ざっている。とりあえずジュエリーゼリーのすぐ後ろが空いていたのでそちらに座り、当たり前のようにライトニングが隣に着席。全員が揃ったのを確認すると、ディティック・ベルは咳払いで視線を集めた。
「ふたりも来たところだし、改めて。協力者が来てくれたんだ」
「はいはーい! トットはトットポップなのね! こっちはフレイミィちゃん!」
「……」
「あとパナっちちゃんなのね」
「超龍パナースだ」
「次フィルルゥちゃんね」
「あっ、はい! 私だけなんで!? えっと、フィルルゥです。宿舎からの応援で来ました。よろしくお願いしますね」
振られて勢いよく立ち上がったトットポップが、続けて指したのは真っ赤な魔法少女。フレイミィというと──いやあの顔は間違いない。炎の湖フレイム・フレイミィだ。ついでに、その隣には超龍パナースが座っている。彼女らと目が合って、アーデルハイトは会釈をした。なるほど、それで超龍印のカップ麺だったというわけか。逮捕歴のあるフレイミィに、ラーメン屋の方に注力しているパナースという組み合わせだが、魔王塾の先輩であることには違いない。頼りにはなる、はず。
続いたのが宿舎、つまり刑務所勤務のフィルルゥだったことにより、2度逮捕されたはずのフレイミィが所の中から引っ張りだされたであろうことが推察できる。トットポップは……パンクな見た目だし、同じ刑務所関係者か。
あとの面子はだいたい知っている。オスク派からはスノーホワイトにレーテ。人事部門からはミルキーウェイ。そしてアーデルハイトたち魔法少女学級チーム。これが対学校乗っ取り犯に対抗するメインメンバーということだろう。
「では──今日の魔法少女学は、学校の構造と配置、そして、これから取る作戦について話そうと思う」
ディティック・ベルが復帰してから数日、彼女は病み上がりなのに飛び回り、反撃に向けて準備を整えている。それが本格的な行動に向かおうとしていた。その手には、魔法のタブレットが握られており、操作することで手を離れて自律浮遊、ホワイトボードに何かの図を投影してみせた。校舎の大まかな見取り図だ。
「メルメル……」
「……アルメールが抜き取ってくれたデータと、潜入捜査員のおかげで、構造はわかってる。相手にとっての最重要地点は遺跡がある中庭。中庭に一番近いのはこの廊下で、このあたりの教室にはマスカレイドの上位ナンバーやプク派・ラズリーヌ一門の中核メンバーが配置されている」
「潜入捜査員?」
「ちょっと筋で、頼んであるんだ。作戦開始タイミングは彼女らの報告次第だけど、このままなら3日後になる……けど」
「けど?」
ディティック・ベルは苦々しい顔をした。
「……当日の話をしてからにしよう。直前にまた、確認するけれど」
当日は中庭への突入および連れ去られた皆の捜索をしなければならない。炎やら龍やらで派手な被害を出せてかつ腕に覚えのあるフレイミィやパナースは陽動に向くだろう。彼女らを突っ込ませて、同時に複数方向から攻める。ディティック・ベルが語った作戦もそうだった。
「問題のまずひとつとして……プク・プック。彼女の存在だけでひっくり返る。現身の相手は現身にやってもらうしかない」
つまりスノーホワイトには、プク・プックとの直接対決が回ってくるというわけだ。しかし彼女は表情ひとつ変えない。その他には、残るカスパ派の現身だけであろう同格との戦いを確定とされても、既に覚悟の上なのか。
「私がしたところで、犬死にするだけだからな。スノーホワイトに頼むほかない」
「その通りでしょう。異論はありません」
現身は『次元が違う』と良い、あのアーデルハイトたちが協力してようやく1本取れたレーテですら、無理だと言い切るくらいだ。それは任せるしかない。
「残る我々は三隊に分かれて中庭の遺跡を目指す。遺跡が大事なら、プク・プックも、オールド・ブルーも黙ってはいられないはず。それにトーチカが儀式をしているならそのために内部にいるかもしれない。アイ隊はトーチカを目標に、遺跡の内部に」
その話が出た時、ひとり、後ろからでも雰囲気が変わった、目が本気になったんだろうなと察せる魔法少女もいる。キュー・ピット・アイだ。
「おうじさま……」
どれだけ速く動こうとしてもどうにもならず、アイはトーチカのためにどうにもならない日々だ。今のアイは、いつもよりもきっと強かだ。
「……アーデルハイト達は、ランユウィと思案を探し出してほしい。きっと君たちじゃないといけないから」
クラスメイトを手にかけた仇でありながら、本当は友達だったはずの少女たち。そうだ、アーデルハイトたちは会って、話をして、一発は殴らないといけない。
「まかしといてください」
「そうね。3班のリーダー、私だったもの」
「……プラリーヌは?」
続くジュエリーゼリーからの言葉にディティック・ベルは頷く。
「残り一隊がそう。ラズリーヌとプラリーヌ、両名を担当する。ここに、オスク派の皆さんに補助に入ってもらおうと思う。ラズリーヌはオールド・ブルーのもとにいる。恐らく、切り札級が手元に残されるから、だとしたら力が必要になる」
「なるほどな。であれば、現身を除けば私にもなるだろう」
「……公爵夫人……より、私の、方が……」
「急にライバル心燃やさないでください!」
ふいに口を開き始めたフレイミィという一幕もありつつ、ディティック・ベルはひととおり話し終えると、ため息混じりに、最後に少し授業を伸ばす。
「……そうだ。それ以前、の話。当日になる前に片をつけなきゃいけないこともある。例えばオスク派系が次々と狙われている魔法少女襲撃事件。人事部門と付き合いのある傭兵魔法少女も攻撃対象らしい。その犯人も捕まえないと。それにマスカレイドらしき魔法少女の目撃例も集めてある。あるいはマスカレイドの上位ナンバーを減らせたなら、攻略は楽になるはず」
既に奪還戦は始まっている。皆がその緊張感を持って、ディティック・ベルと視線を交わす。決意は十分。あとは機会と、巡り合わせ、といったところだったろうか。