◇0・ルールー
ディー・ルーレッタを確保、監査部門に連絡して身柄を引き渡した、その日。来てくれた監査部門職員の魔法少女に、リップルたちは当面の目的のことをストレートに聞いていた。「スノーホワイトの行方を知らないか」、といった具合だ。監査の魔法少女の答えは──。
「気になりますかぁ?」
まず返ってきた最初の返答がこれだった。その瞬間、リップルの目付きが鋭くなり、すぐ後にたまが慌ててリップルと監査の人の間に入り、気になりますと頷く。今、リップルにとってのスノーホワイトは死活問題。手どころか刃が出かねない。
「……チッ」
舌打ちは出た。明らかに聞こえたはずだが、相手も嫌な顔はしない。ルールーがひとりで大丈夫かと心配になるだけだ。
「こちらでも外部職員、それもかなり有名な方の行方不明。やはり変な噂が立っておりまして……中には死亡説を囁く者すらいるのです」
「っ……」
「上層部は外部職員の記録をいちいちつけない方針のようでして、監査部門には否定する材料すらないのです」
「そんな……」
公には、手がかりは無い。行方は依然として不明、不確定なままだ。だからといって諦めるのは早かった。彼女はですが、と続け、全員の視線が俯きかけた下方から彼女の顔に戻る。
「これは私の目撃情報なのですがぁ……行方不明になる直前に、K県S市に向かっていた、みたいなんですよねぇ」
「え……!? じゃ、じゃあS市に行けばっ」
「今から? 1年もずっとS市にいると思う?」
「あっ、それは、あぅ……」
「……S市の担当魔法少女は?」
たまがひとりで困っているところ、リップルは不意に、鋭く刺すような声色で聞く。対する彼女はさすがにそこまではわからないらしく、すみません、と続けて、その先は何も出てこない。監査部門で得られる情報はそこまで……であるらしい。とっちめた犯罪者の引渡しは済んだため、本来それ以上の用事はない。まだ食い下がりたそうだった2人を押さえて、監査部門は後にしたのだった。
──からの、次は人事部門。
必死のリップルと右往左往のたまに急かされるようにして、慌てて連絡を入れた。対応してくれた担当者の魔法少女に、今度はS市の区域担当魔法少女を調べてもらおうとした。するとびっくり、その魔法少女『プリズムチェリー』もまた、行方不明のままになっており、連絡がつかないという返答が帰ってきたのだ。
「あぁ……はい、そうですか……すみません」
『いえいえこちらこそ……お力になれず』
部門の電話担当にしてはとても丁寧だった。あの人は色々と苦労していそうで、ちょっと同情しつつ、たまとリップルに担当の魔法少女のことを伝える。見るからにたまは落胆、可哀想なくらいだったが、わからないものはわからない。それで途絶える、ところだった。そこに来るのはルールー自身の心の引っかかりだった。
「プリズムチェリーって、確か……」
そして一行が次に向かうことになったのは研究部門だ。部門と師匠との繋がりが強い関係で、一応はラズリーヌ候補生であるルールーも出入りしたことはある。もちろん1年以内の話で、その時も確か、そのプリズムチェリー関係だったはず。
そのアポを取るのに数日かかった。師匠の名前を使ってようやくだ。そしてプリズムチェリーのところまで行って。
「プリズムチェリーは……1年間、目を覚ましていない」
ずっと昏睡状態の彼女が、弱々しい呼吸をするのを眺めるしかできなかった。
「……どう、しよう」
今度こそ、手詰まりかもしれない。ずっと困っている様子のたまだったが、今は、スノーホワイト探しとともに、目の前の眠り姫への感情も混ざっている。自分には助けられないものにばかり直面した彼女は狼狽えるしかできていない。それはリップルも、同じことだった。刃を抜いてでも聞き出そうとしていたのか、その手は臨戦態勢だったが、この様子を見てはそれ以上何もできず、拳を握るばかりだった。
「……? あ、誰か、お見舞いに来てたみたい……っ」
周囲を見回し、鼻を動かし、お見舞いの品物を見つけたたま。1年も目覚めていない子が相手だ、劣化しにくいよう果物ではなく個包装のお菓子になっている。催事場で売っていそうなチョコレートだ。そこに簡易的なカードが添えられていた。内容までは読み上げなかったが、記された名はたまが声に出す。
「シャドウゲール……」
ほぼ間違いなく、魔法少女の名前だろう。見舞いに来た魔法少女がいたのだ。それは手がかりになり得るものだった。リップルは目を見開いてルールーを見て、シャドウゲールを調べて、と頼む寸前だった。けれどそれよりも、ルールーにはたまの様子が気にかかる。そっとメッセージカードを元に戻したあとは、首を傾げるのではなく、遠くに目を逸らした。何か、知っている。
「シャドウゲールって、知っている魔法少女?」
「……」
「スノーホワイトのこと、見つけましょ。そのためにはどんな手がかりでも掴まないと」
「う、うん……」
たまの口からは、こう出てくる。
「私の友達で……その、従者を、してる子なんだけどね。その仕えてる相手が、人事部門長の……」
人事部門長、プフレ。何かを起こしそうな者の名前が飛び出した。辿るなら、そちらしかない。
「うぅ……言って、よかったのかなぁ……」
「何があったって、スノーホワイトの無事が優先でしょ」
「でも……」
本当は巻き込みたくない友人だったのだろうか。だとしても、スノーホワイトも大事な人には違いないのだろう。また人事部門に連絡をするのを、止めようとまではしなかった。そうして、再び人事部門に連絡をつけ、プフレへのアポが取れないかと試行錯誤。しかしどれだけ頼んでも、電話口の魔法少女からは『部門長は忙しいので』『ただ今は不在、この先の予定も埋まっております』の言葉しか返ってこない。予想はできる結果だった。
「じゃあ……」
ルールーは2人に向けて、また首を振った後、考えた。あまりその方向には向かわせないようにとしていたのだが。師匠の指令には、もうひとつの計画案があった。そちらはルールーの任務ではない。ないのだが。
「……人事部門系の魔法少女を当たろう。何か話してくれるかもしれないから」
ルールーが持っているのは、ターゲットのリストだ。複数の名前が並び、それらは『可能であれば排除したい』名前であった。こちらであれば情報も、身柄を狙えるくらいには充実している。ならば、そうするしかない。
「……なんでもいい。スノーホワイトを、見つけられるなら」
すぐさま頷いたのはリップルだけだった。次のターゲットが、置き換わる。