魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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潜入人形のレポート

 ◇リオネッタ

 

 現在、梅見崎中学校旧校舎は出入り不可能になっている。言いつけられている、のとは性質が違う。本来は学級の警備に使われていた結界に、部門に抱えられた魔法使いやらプク派に招き入れられた魔法少女やらが手を加え、内と外とを断絶した。侵入者対策のホムンクルス機構も健在だ。そもそも出入りするには脱出に向いた魔法でも持ってこなければならない。完全に囲われている、というのは、人形を使って確認済みだ。

 リオネッタはプク派に招き入れられた連中に混ざって、数日前より新入りとしてここにいた。表面上、他の魔法少女に対しては支持者として振る舞うのも慣れた。

 

 ──リオネッタの目的は別にある。この役割を、ディティック・ベルから買って出た時から、ずっと。

 

 プク・プックはどうやら中庭の奥、地下にいるらしい。始まりの魔法使いの『遺跡』の入口がここにあるのだという。その入口は今現在、忙しなく魔法少女たちが出入りする現場になっている。そしてそのほとんどは、中庭の付近で土木作業をさせられている。

 

「みんな頑張って! プク様の儀式に必要なことだよ!」

 

 よく見ると狼の格好をした魔法少女が音頭をとり、メガホンで指示を飛ばしている。魔法少女たちはそれに従わされ、せっせと土を運び出したり、葉っぱを運び出したり、木の根を運び出したりしている。こうも全員が嫌な顔ひとつせずに工事なんてしているのは違和感があるが、どうせ大半はプク・プックに、残りはオールド・ブルーとやらに賛同する者たち。ならばそうもなるだろうか。それに気になるのは、そのリーダーをしている魔法少女の言葉だった。

 

「みんな! あと少しだよ! 頑張ったら幸子みたいに、特別に儀式のお役目がもらえるかもしれないよ!」

 

 幸子、というのは知らない名前だったが、その名の魔法少女が『儀式』に使われている。プク・プックが何かの儀式をしている、というのはこの手下たちにとっても周知の事実だ。聞いていた通り、やはり連中は利用している。学級から誘拐した魔法少女……トーチカを。

 

 リオネッタはそれらを横目に、ドレスの汚れる作業に手を貸すことはなく、校舎の中を通り、廊下を抜けて屋外に出た。校舎の壁と結界の壁に挟まれ、ごく狭い空間になっている場所がある。そこが集まる場所だ。

 

「お、来たデス」

「……」

 

 待っていたのは巫女とセントール。御世方那子(みよかたのなこ)とクランテイルだ。クランテイルは今、場所を取らないよう、その下半身は小鹿に変えている。ふたりもまたそれぞれで情報収集に勤しんでおり、定期的にこの場所に集まっては報告をしあっている。那子はその魔法を活用し、元々結界内にいた虫や小動物を手なずけ、偵察要員にしているといい、プク・プックからの許可なく魔法少女が入るのは許されていない遺跡の内部を担当してくれていた。

 

「首尾はどうですの?」

「いまいちデース」

 

 虫では遺跡の奥に溜まっている魔法の力に耐えられず、どうしても戻ってきてしまうという。そう言いながら那子が自分の指に止めたのはセミだった。思わず驚いて、1歩後ろに下がってしまい、それを見つけた那子にニヤニヤしながらセミを見せられる。

 

「ちょっと!? 近づけないでくださる!?」

「はいはい、イッツァジョーク、ここはジョークアベニューデス」

 

 全くもう、と出るのはため息だ。

 

「……こちらでもトーチカは見つけられなかった」

 

 クランテイルも首を振る。彼女は主に校舎外の全域を見回ってくれていたが、逃げ出して隠れている、という素振りでもなかった。トーチカの魔法は儀式をするなら中核を成すもの。それが捜索も行われていないなら、やはりあとは遺跡の中、ずっと奥にいるのだろう。

 

「最奥確定デスか。いやぁ、さすがに中に入るのは難しいデス」

「……プク・プックのお気に入りでもなければ」

 

 思い出すのはあの現場でメガホンを持っていた魔法少女だ。彼女は確か……幸子のように、と言っていた。その『幸子』に関する情報を得れば、遺跡の奥に入る方法や儀式のこともわかる、だろうか。リオネッタはそこまで考え、もうひとつ、方法を思いつく。

 

「指揮役の魔法少女が『頑張れば儀式のお役目がもらえるかも』……と言っておりましたわね」

「確かにお役目であれば遺跡の奥に連れていかれるかもしれマセーン」

「……そのために、手伝う?」

「どうでしょう。私の直感ですが……これは完成させてはいけないものではないでしょうか」

 

 三賢人が現身の一角であるプク・プックや、カリスマを持ち多くの門下生を抱えている──らしい、オールド・ブルーが、こうも形振り構わず立てこもり、誘拐までして儀式を強行している。このやり方は、気がついた時には手遅れにさせようとする動き方だ。そうなると、それが正義を持っている可能性は低い。こういう時、いわゆる偉い人がやろうとすることは、大抵ろくなことじゃない。ならばその完成に手を貸すなど、潜入者の身としてはすべきと思えない。

 

「やった方が怪しまれなくて済みマス。それに他の魔法少女から情報抜けるかもしれないデス」

「えぇ、それはそうでしょう、ね」

 

 那子は馴れ馴れしい。プク派に連れてこられた魔法少女たちなら、すぐ口を滑らせそうだ。クランテイルは寡黙だが、恐らく彼女の気質なら信頼を得るのにそう時間はかからないはず。対するリオネッタは──存在をあまり知られていない方が美味しい、だろうか。

 

「……ええ、おふたりはプク派への聞き込みと、その準備をお願いしますわ。その間、私は別行動を。ベルさんへの報告は私がしておきますわ」

「ちょっと待つデース。ひとりで何しようとしてるデスカ」

「逃げ足には自信がありますわ」

 

 この3人で行動するのは、いつしかチームを組んでいた時以来。あの時はもうひとりがいた。今はもういない。だからこそ、もう失わないためにここにいる。

 

「トーチカさんはワタシたちの命の恩人で、ペチカさんの大事な弟さんデス。かならず助け出しマショウ」

「そんなこと、確認しなくてもわかっていますわ」

「……」

 

 無言で頷いたクランテイルが続ける。

 

「帰ってきた時、誰かが欠けていたら意味がない」

「そうデス。リオネッタがいないと、トーチカさんも悲しみマス」

「……えぇ、わかっておりますとも」

 

 自分を蔑ろにするつもりはない。ただもう少し、こちらも形振りを構わないべきだ。せっかくまんまと潜入できたのだ、できることは他にもあるはず。そうして手分けをして、リオネッタたちは再び潜入捜査に──。

 

「あれ? リオネッタちゃんたち、ここで何してるっすか?」

 

 ──予定外の声に、皆凍りついた。振り返ると、まさかの人物がここにいる。

 

「っ、ら、ラズ……!?」

「? ラズリーヌっすよ。そんなに驚くっすか」

 

 いや。そもそもラズリーヌはディティック・ベルから聞いた奪還対象だ。こうして会えたのは幸いかもしれない。リオネッタは一度、咳払いをして整理し、ラズリーヌに脱出を持ちかけようと息を吸う。その瞬間、先に彼女からの言葉が返ってくる。

 

「プク様からの伝言して回ってるっす。掘り出し作業は平行しつつ、次の作業のためにマジカルポンジーに来て欲しいって。見なかったっすか?」

「いえ、見てマセン」

「そっすか! じゃあ! あたしは師匠のとこに戻るっす!」

 

 ラズリーヌは去っていった。あれは、捕まって無理やり動かされている様子には見えない。そもそも、彼女は嘘の上手い人間には到底見えやしない。あれではむしろ、自分から協力しているかのようだ。

 

「……事態は、深刻なようですわね」

 

 これはディティック・ベルにも覚悟をしてもらわなくちゃいけないかもしれない。リオネッタはぐっと己の拳を強く握った。

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