魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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対面

 ◇プリンセス・デリュージ

 

 目が醒めたのは、口の中でした甘い不思議な味のおかげだった。ブルーベルの飴だ。彼女が作る魔法の飴は食べると色々な効力を生む。それが本職の者ほどではないにしろ、回復してくれるのもそれだ。デリュージは目を覚まし、立ち上がって、周囲を見回した。

 そうだ、確か、追い詰めたところにいきなり光線使いの魔法少女が現れて──。

 

「ちゃんと起きた」

「……ブルーベル」

 

 この体勢が彼女の膝枕だったことに今初めて気がついて、見上げた先で目が合った。くすっと笑ってくれるブルーベルは、こんなふうにいつも世話を焼いてくれている。研究部門の中で初めて出会った時からそうだった。デリュージは自分を引き取ってくれた『師匠』やブルーベルからのサポートを受けながら、今こんなふうに、自分の戦いを続けている。

 

「はい、次はこれ、ね」

 

 ブルーベルに促され、手に取った飴玉は相変わらず不思議な色彩だ。今貰ったのは、緑のような赤のような。毎度のように色が違って──味も違う。舐めると、どれも特別な気分になる。口に入れて、舌で転がしているうちにふわりと溶けて。

 

「……っ」

 

 思い出すのはあの日々。皆でお菓子を持ち寄った時もあった。あんな日々はもう来ない。デリュージは何もかもを奪われた。奪い去った、自分が追いやった彼女(地獄)さえ、もういない。ならば行き場のない魂はどこへ行けばいい。矛先は、何に向ければいい。答えはわかない。ただ、今はただ、かすかな記録からでも、必ずあの研究所の連中を、それに加担した派閥の奴らを、全滅させてやらなきゃならない。

 無理やりに起き上がって、槍を手にする。その様子を見たブルーベルは、自分も立って、デリュージのティアラの角度を直してくれた。

 

「……うん、いい感じ。じゃあ、もう行く?」

「すぐにでも」

 

 自分が擦り傷まみれで、コスチュームもほつれてしまっている箇所ばかりなのはわかっていた。それでもこのティアラには宝石が輝いている。青く、あの日々を象徴するように。

 

 ──ふいに目を向けた鏡の向こうに映る光が、青ではなく、黒く染まりつつあることは、無意識のうちに見なかったことにしようとしていた。黒く、あの地獄(ゲヘナ)の色になろうとしているなんて、認めたくなかったのかもしれない。

 

 ◇ディティック・ベル

 

『え、ショコラちゃんってアイツと交流あるんだ、初耳、ってかアイツ後輩と交流する気あるんだ』

『何度かご飯にも行きましたよ?』

『え!? ダークキューティーとご飯行った奴なんて初めて会ったけど!?』

 

 電話越しにオルカが驚愕の声をあげつつ、ショコラからは『それじゃあグループMINE(マイン)作っておきますね』との言葉。そういえば、先日参観日の際になぜか交換させられたため、ショコラとは元々繋がっていた。そこから、さらにグループが作られ、キューティーショコラ、ディティック・ベル、そしてダークキューティーだけという異様なグループが作られた。そのまま、最初にキューティーショコラから『ディティック・ベルに協力したい』という旨のメッセージが送られてきて、既読がついた。恐らくダークキューティーの方にも状況は伝わった、はず。早速だがダークキューティーをこちらから追加、電話をかけようと試みた。何かが起きていて、電話に出られなかったら、それが一番駄目な未来だ。そしてその最悪は──避けられた。静かに、通話が繋がった効果音だけが響き、息を呑み呼吸を整えた。

 

「突然失礼しました。ディティック・ベルと申します、ダークキューティーさんですよね」

『……要件は?』

「ええっと、貴方が魔法少女襲撃犯に狙われているかもしれないと行き当たりまして」

『……』

「差し支えなければ、ご一緒に」

『助力は不要だ』

「それは……そうでしょう。ですが。今回の襲撃犯は、必ず捕まえたい。この先の、一番の未来と、大事な人のために」

『未来、か』

 

 あまりにもクールな相手だが、少しでも響かせることができればと、静かにぽつりと呟いた。悪役……ではあるが、アニメ化した魔法少女が相手ならば、こちらも本心を包み隠さない方がいいと判断した。そしてそのつぶやきから数秒、ふいに息を吸う音がして、こう返ってくる。

 

『それらしい綺麗事だけでは()()()足りえない』

 

 主人公、という言葉をあからさまにゆっくりと強調して告げた後、また沈黙。ここで嫌われてそのまま通話を終了されることまで心に警戒して、言葉はただ続いた。

 

『しかし。恥ずかしげもなく語れる愚直さは、主人公らしさと言える』

 

 ……それはつまり、褒められている、ということなのだろうか。協力するでもしないでもなく、こんな評価が飛んできて、これが高いのか低いのかわからない。

 

「まーたわけのわからないことを言ってるんだろなあの人」

 

 グラシアーネにはこう言われている。いつものことなのだろう。オルカがいけ好かないと言っていた理由とは違うだろうが、とにかく付き合いにくいというか、複雑に見えて単純なようで複雑、というか。とにかく、協力してくれるならと簡単に状況を説明、自分も合流したいと伝えると、無言でグループの方が更新された。装飾のない短文、しかも数字だ。アルメールが遺したタブレットで読み込むと正体がやっとわかる。座標だ。

 

「……! 向かいます、ありがとうございます!」

『利用できるものは利用しておくといい、それが悪役でも』

 

 通話が切れる。グラシアーネにも礼を言って、病室を飛び出していく。道案内はアルメールに任せ、ダークキューティーとの合流を目指す。オスク派と人事部門に話は通してあり、いくつかのゲートは使えたが、最後は自分の足だ。いつ来るかもわからない襲撃に、間に合わせようと駆けた。

 

「……もう来たか」

 

 人気のない、魔法少女が暴れるには格好の場所で、壁に寄りかかってダークキューティーは待ってくれていた。その近くにまで歩み寄ろうとし、彼女は無言で、ディティック・ベルとは反対の方向を指す。

 

「いるんだろう。噂に聞いた襲撃犯」

 

 ダークキューティーがふいに、柔軟な指先で影絵を作り、その魔法により動かした。影絵の獣は地面を行き、その先に立っていた魔法少女に食らいつこうとし、氷の槍に切り裂かれる。少女はその後、槍を地面に突き立て、どうにか杖にして立っているという様子のまま、こちらを見上げた。

 

「……見つけた」

 

 それはこちらの台詞でもあった。傍らには青い魔法少女。ちょうど、彼女が青い魔法少女の口元に飴玉を押し込むのが見えた。ティアラの襲撃犯に、飴玉使い。間違いない。

 

「目立つように行動した甲斐はあったらしい」

「あれ。誘い込まれたんだって。デリュージちゃん、どうしようか」

「……関係ない」

「そうだろうね。じゃあ、やっちゃおう」

 

 ティアラの魔法少女は覚束無い足取りでありながら、氷を展開、一斉に発射しながら自らも突っ込んでくる。ダークキューティーは影絵によりそれらを的確に捌き、中距離のまま対応し続けていく。柔軟に動き続ける全身はそれだけで見惚れそうなほど靱やかに美しい。

 

「さて──」

「待って」

 

 飴玉使いを呼び止める。彼女は振り向き、ディティック・ベルの顔を見ると、何か思い出したような顔をした。

 

「あぁ。二代目のよく喋ってる探偵ね」

「……やっぱり知ってるんだ、ラズリーヌのこと」

「そりゃあもう。どっちのことも、それなりに。それで? 一応私も襲撃犯だけど。まさか、お喋りに誘いたかっただけじゃないよね」

 

 緩く構える飴玉使い。いや。彼女らを止めるのが目的でも、自分が武力でどうにかできるわけもない。戦闘に持ち込まれれば終わりだ。どうにか話し倒すべく、まずは内ポケットから、あるものを取りだした。

 

「それは……」

「──こういう者です。お話、聞かせていただきたい」

 

 差し出したのは、何の変哲もない名刺だ。臨戦態勢の相手に渡したって何にもならない。が、目の前の彼女にはその気がない。彼女はふっと笑って、ディティック・ベルの名刺を、受け取った。

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