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氷室紫暗、魔法少女名『
青い彗星、『ブルーコメット』。その名とあの青い輝きだけを頼りに、爺やも部下もこき使い、お父様の人脈や氷室家が持つ金銭の力をフルに活用し、しかし見つからず、表の世界ではなく裏の業界の探偵をいくつも当たり、雇……おうとして、その探偵の助手がブルーコメットだった。そんな運命的な再会を果たした紫暗は魔法少女に志願。そして彼女から紹介された師匠ラズリーヌの下を訪ね、紫暗は魔法少女・思案となり、そして魔法少女学級というものがあることを知った。進学する予定だったお嬢様学校の付属校を蹴り、推薦される予定だった同胞を買収しにかかり、買収に失敗、断念して師匠にアピール、その他も色々と手を尽くして、最終的に気を利かせた同胞が譲ってくれ、枠を手に入れた。
そして今、来る入学式。チャイムが鳴るまでは静かに着席にして息を潜め、目立つことを避けた。とはいえ、目立ちたがりやレアケースが多くて必要なかったかもしれない。が、チャイムの後、ここでまさかのサプライズだった。教師側にあの憧れのブルーコメット、いや、現在はラピス・ラズリーヌ、その人がいた! しかもこっちに向かって、手を、手を振ってくれたではないか!
思案は内心ずっと興奮していた。他の生徒たちの自己紹介が始まってもほとんど耳に入らず、呆然とラズリーヌの方ばっかり見ていた。12人中10人目、つまり思案の直前、同じ師匠の下で修行していたランユウィの当たり障りない自己紹介、正確には彼女が椅子を引き着席する音で初めて我に返り、次は自分だと認識した。
慌てて立ち上がり、青に染めた髪を揺らし、予定していたお嬢様的自己紹介の詳細が全部吹っ飛んだまま、とにかく名前を告げる。
「あっ、あの、ひ、じゃなくて、魔法少女名『
声を張ってごまかし、後ろの席の少女に繋いだ。彼女は声が小さく、思案とは落差が激しくなり、かえって声が小さい子だと印象が強くなってしまっていた。彼女が早々に座ったことで自己紹介タイムは終了。その後もツインウォーズが何やらつらつらと喋っていたものの、思案はラズリーヌ観察タイムに突入し、結局なにも聞かないまま、初日のオリエンテーションは終了した。ラズリーヌが教室を出ていったあとは、配布物を見て、なんとなくこんな話をしていたんだろうな、とは把握しておくことにした。
「思案。ちょっと、しーあーん!」
二度、呼びかけられてようやく顔を上げる。茶髪ポニーテールの、現実的に可愛い女の子、同胞のランユウィだ。隣にはぎりぎり現実味のある美少女と、現実味の無い美貌の美少女と並んでいる。周囲を見回して、4人ずつ固まっているのが他にも2つあるのを視認。これが各班で分かれていることを確認した。
「そんなに呼ばなくたって、どうかしましたの」
「班長決めてって、先生たち言ってたじゃないっすか」
「そうでしたの? ごめんあそばせ」
同胞ではあれど、思案はランユウィにはよく思われていない。元々師匠の密命を受けたのは他の魔法少女で、彼女はランユウィと付き合いの長い、ラズリーヌ候補生だった。もしブルーコメットがラピス・ラズリーヌではなくなるようなことがあった時、その次を襲名するために研鑽している魔法少女だ。玲透館思案はそうではない。研鑽は欠かさずとも、その目的は後釜ではないのだ。気に食わないのはそこか、それとも無理を言って変わってもらったところか。あるいは以前そのブルーコメットの真似の出来が悪いと指摘してしまったせいか。いずれにせよ、ランユウィは表面上はブルーコメットを意識した誰にでも優しい振る舞いだが、思案に対してはちょっとキツい。
「ええっと、この4人で3班なのですわね?」
「そうだって言ってるっす」
班分けは推薦元に拠っている。1班はオスク派系、2班はカスパ派系。思案ら3班はプク派系だ。オールド・ブルーは偉大なる師匠だが、魔法の国のポストに直接ついているわけではない。一応、IT部門やら何やらがランユウィと思案を推薦していることになっているが、詳細まではわからない。残るプク派系は、広報部門に研究部門。そのうち広報部門からやってきた少女は、ため息混じりに発言した。
「班長ねぇ。自分、パスで」
空いていた思案の隣──ちなみに主はマスカット・マスケットだ──の席に堂々と座り、やる気なさそうに背もたれへ顎を乗せる少女。名前はそう、『キューティープラリーヌ』。
「興味わかないんだよね〜、自分、他のことで忙しいからそういうの引き受けらんないし〜」
やらない理由を、誰も聞いていないのに喋りながら、爪を気にして弄っている。忙しいというのは事実だろう、確かに現役、ただいま放映中の新作アニメーション『キューティーヒーラーショコラティエ〜ル』のモデル魔法少女ともなれば、そりゃあ忙しいに決まっている。それを、わざわざアピールするような物言いは鼻についた。見た目が芸能人っぽいのも含めて。
「ランユウィは?」
「やれと言われたらやるっすけど」
「私ともども、上に立つタイプではないですわよね」
「なんすか、それ」
思案は弁えている。自分はお嬢様ではあれど、導く者ではないという自覚がある。ランユウィも少し違う。向上心こそあっても、その先を見通すタイプではない。となると、班長候補は残る1人に回っていく。
研究部門推薦。なかなかの美少女揃いのこのクラスの中で、誰よりも作り物に見える美貌。それなのに妙に皆に挨拶を交わし、ジュエリーゼリーやベクトリア・エラの時も率先して笑い、拍手していた、誰もが知る謎の美少女。『プリンセス・ライトニング』。彼女は自分に視線が集まるや否や、小さく手を挙げた。
「じゃあ、私がやるわ」
異論は特にない。やる気のないプラリーヌ、向かない思案にランユウィ、ならもちろんライトニングになる。止めるなら何を考えているかわからない点くらいなものだ。そして、それは現時点ではだいたい皆そう。班長はライトニングにすんなり決定し、早々に話は決着した。
「わー、我らがリーダー誕生だぁ。ぱちぱち〜」
プラリーヌからの明らかにやる気のない拍手にも、ライトニングはしっかり微笑んでいた。つられて拍手、ランユウィが仕方なさそうに続き、わざとらしく手を振るライトニング。当選した選挙人みたいでもあり、絵画のようでもあった。
「は〜、てか、決まったなら帰っていい? いいよね、興味わかないし〜」
「初日の授業はこの後、また話を聞いて何かを決めて終わりみたいね。だけど」
「だけど?」
「せっかくだもの、先生方にも直接ご挨拶しておきたくないかしら」
ここでリーダーから、悪戯で蠱惑的な笑いとともに出てきた提案。ランユウィは乗り気ではなさそうだが、思案はどきりとする。それはつまりラズリーヌと直接話すチャンスだ。オールド・ブルーのところにいてもブルーコメットには一切会えなかったが、ここでなら顔を合わせられる。しかも変身せずに、氷室紫暗で!
あとはプラリーヌだが、どうせやる気はないのだろうと思ったが、背もたれに顎を乗せたまま、にやりと口角を上げていた。
「ちょっと面白そうじゃ〜ん?」
残念ながらここにはブレーキ役はいない。リーダーの決定に乗っかる奴が2人いれば決行される。放課後の予定が決定したところで、やがて次の授業開始のチャイムが来る。皆が席に戻った後、思案の視線はまた教室にやってきたラズリーヌに向くのだった。