この場を借りて大いなる感謝を!
◇プフレ
「使いを寄越して呼び出しとは、随分と状況が悪いようだな、人事部門長」
目の前に座る魔法少女2人組。うち片方は怖いものなどないという様子で堂々としていた。もう一方は部屋の隅に隠れたっきり戻ってはこないが──その髪の毛の固有魔法により、警戒を張り巡らせているのだろう。この会談には関わってこない。
旗を立て掛け、脚を組んだ金髪の少女は、事情を知っているうえで、言っていた。雇われの魔法少女たちの間ではここ数日に起きた事件の話題でもちきりで、彼女の耳に入っていないはずはない。ただでさえ魔法少女チームのリーダーなのだから。
それに、以前からジュエリーゼリーのことについて頻繁に連絡を寄越せと言ってきた相手だ。こういう際には調べる手は尽くしているはず。今度はジュエリーゼリーがというよりむしろ学級、どころか部門、いや、ついには派閥クラスが絡んでくる話だったが。
「あぁ。だからこそ、君たち『MyName』への依頼がある」
チーム名を出すと、そのリーダーである旗の魔法少女『ソイエ・グローリア』は眉間に皺を寄せる。
「確かに我々は魔法少女学級の襲撃者とは敵対することになる。だがそれはジュエリーゼリーのためだ。人事部門のためじゃない」
「それで構わないとも」
「……」
人事部門と付き合いの長い魔法少女はことごとく襲撃を食らっていた。中には極秘のはずの直属のメンバーまで狙われていた。こちらの手が割れている。あるいは内通か、可能性を当たり、結局行き当たった有力説はオールド・ブルーだった。人造魔法少女計画に関する協力の際、彼女はプフレを
「すぐにでも合流していただきたい。決戦は差し迫っていてね。ジュエリーゼリーもその方が良いだろう」
「聞いた時は驚いたよ。明後日、ね。我々でも1週間は前に全て整える」
「まだ1日の猶予がある、と考えることもできるさ」
ソイエの言う通り、準備期間は不足している。ディティック・ベルが復帰した時から、最速での奪還と、それを可能な戦力と、潜入して貰っている魔法少女の生存確率との兼ね合いで設定した期間だ。トーチカの儀式がそれまでに終わらない可能性はない。さらに、その間に既に襲撃を仕掛けられ、戦力は削られつつある。向こうは籠城だ。トーチカの儀式が終わるまで耐え抜けばいい。結界を閉じられて、向こうの状況さえリオネッタたちの報告でしか窺い知れない。それでもなお食い下がるには、頼れるものには全て頼る。ディティック・ベルとそう決めた。
「わかった。皆にも来てもらう。改名の恩もあるからね。さらら、皆に髪の毛のお守りを用意してほしい、頼めるか」
「……あ、はい……ボクなんかで大丈夫でしょうか……」
「大丈夫さ。君の想定にはいつも助けられている」
「──あ」
「さらら?」
ソイエの付き添いに連れ出されていたが一切喋らずジメジメしていた魔法少女が、ふいにぴたりと動きを止めた。それから、その頬に冷や汗がひとすじ。虹色の目を泳がせて、ソイエに向かって慌てて伝えてくる。
「みんなのところに……侵入者です」
「なっ!?」
「まさかとは思いますが、襲撃犯が……それでみんなに……」
「……わかった、今すぐ戻ろう。すまないが戻らせてもらうよ」
「あぁ。無事を祈っておくよ」
襲撃犯、ついにMyNameまで嗅ぎつけ、手を出してきたか。こちらの思いつく手は阻止すると言わんばかりだ。それとも、プフレがソイエを呼び出したことを知っていたのか。通信端末ですら信用すべきではないと直接来させたのが仇となったわけだ。
「──しかし」
オールド・ブルーとは、まだ利害が一致していると認識していたのだが。よりにもよって彼女がプク派と手を組むとは。反『魔法の国』を隠そうともしていなかったはずが、むしろプク派は『魔法の国のため』を掲げている。プク・プックがそれだけの脅威であると片付けることはできるだろう。老獪なオールド・ブルーがそれだけに収まるという結論にしてしまうのも腑に落ちない。あるいは──。
ソイエとさららが去った後で、プフレは少しばかり思索をしていこうとしていたところ、ふいに端末が鳴る。通信は信用に欠けると言いながら、来たものには返さなければならない。端末の画面を見る前に、すぐ通話を繋げる。
『あっ! いけた! お嬢!』
「護? どうしたんだ、そんなに慌てて」
『実は今、その、物知りみっちゃんさんのところにいるんですけど──』
シャドウゲールの話によると、物知りみっちゃんを狙う襲撃犯にプリンセス・マスカレイドが現れた、と──なるほど、単純なことだったか。それもそうだ、篭城しているオールド・ブルーが遣わすなら、複数同時に進行させてしまおうとでもするだろう。襲撃犯は複数いる。ディティック・ベルの言う後顧の憂いを断つのならば、その全てを掃除し、皆を合流させなければ。
「して、護。本当にパトリシアと物知りみっちゃんだけかな?」
『え……な、な、なんのことですか?』
「さっきから君が何か気にしているような話しぶりだったからね。目が泳いでいたんじゃないか?」
『なんで電話越しにそんなこと言えるんですか!』
「君はわかりやすいよ」
『……っ、とにかく! その、報告が色々と遅れたというか、事後報告ばっかりになるんですけどね?』
シャドウゲールの話は続く。その中に、敵に狙われて死にかけたところをエーコ・EX・ランタンの亡霊、つまり復活したプリンセス・ランタンが助けてくれた、という話があり、危うくプフレは応接間で卒倒するところだった。
◇0・ルールー
「ここがそうかな」
山奥にいきなり現れる桜の大木。人々が知れば何かの名物になってしまいそうなそれが、今回の目的地だった。ルールーは歩み寄り、手を触れる。触れても何も起きない。
「……あれ? 何か間違えて──いや」
目的の魔法少女たちは恐らくこの周辺にいるはずだ。やはりこの桜の木が怪しいか。調べてみようとぐるりと一周、木登りを初め、葉には何も無いことを確認し、そのあたりで痺れを切らしたリップルが、たまの肩を叩く。
「……魔法、使って……」
「えっ? 本当にいいのかな……?」
「……もうそれしかない……」
「ちょちょ、ちょーっと待ったーっ!」
どこからか響く声。すると途端にぶわっと、葉桜が桜の色に染まる。急激に花が開き、満開となって美しく出迎えた。いきなりのことに呆気をとられるたまとリップルだが、やがて幹の方が開き、中から顔を出したこれまた桜色の魔法少女がこちらを指した。
「駄目だよ! 壊すつもりだったでしょ! 私たちの家なんだから! 用があるなら、また後で来て、今はリーダーが留守で……留守、で……」
桜の魔法少女はルールーの方を見ると、ハッとして、またこっちを指してくる。
「噂の、青い魔法少女……!」
「あ、あぁ、いや、それって誰かと間違えて……」
「大変! みんなに知らせなくっちゃ──」
彼女は木の幹の向こうにあるらしい空間に逃げていく。追いかける。あの桜すぎる見た目に魔法の桜の木、間違いない、排除リストに載っていたひとり、『
「ぁいたっ!?」
そこへルールーが飛び込んだ。散華桜花の上に乗り、殴り掛かる振りをして、訊ねておく。
「一応だけど……スノーホワイトの行方とかって、知ってる?」
「悪い人には教えないよ」
「そう。それじゃあ」
「さくらに何しとんじゃあっ!!!」
振り下ろされたのはルールーの拳ではなく、横から乱入してきた魔法少女の持つ武器、どうやら棒のようだった。受け止めて逸らし、掴んでむしろこちらからの蹴りを放ち、それを棒術でうまくいなされる。我流の
「ずいぶんなお客様っすね。こっちも歓迎してやるっす」
厨二病チックなコスチュームに厨二病チックな眼帯に、目からビームを放つという厨二病チックな魔法、彼女は『アイアイ』だ。
「き、聞いて! 私たち、戦いに来たんじゃ」
「他人の家に土足で突っ込んできといて何言っとんねん!」
「問答無用っす」
「……チッ……これは……制圧して聞くしかない……」
リップルが戦闘態勢になる。ルールーは既にスイッチが入っている。ここへ復帰した散華桜花が魔法を使い、壁から突如生えた根がたまを襲い、彼女はすんでのところで避けて、そうしたくはない様子ながら爪を構える。
「うぅ……なんでこんなことに……!」
ルールーだってそう嘆きたい。こうなることはわかっていたものの、やっぱり避けられるなら避けたかった。避けられなかったのが、現実だ。細く、長く息を吐き、集中する。その間に、アイアイの目からさらなる熱線が迸り、ルールーは前転で飛び込むように身を躱した。