「あっつ……!?」
ギリギリを掠めただけでも肌が焼け、火傷の痕になりヒリヒリ痛む。目標を切り替え、構え直す。
アイアイが放つ熱線は、リップルの得手である投擲をそれごと焼き尽くして無力化してしまう。アジト内部にもダメージがあるためか連発はしてこないが、ついでに高火力、加減なしで侵入者の排除をしようとしている。その厄介な遠距離攻撃は止めなければ。真っ先にアイアイを狙い、ルールーが動いた。懐へ突っ込む。光線持ちで近接に長ける者は数少ない。対応できないだろうと繰り出した拳。しかしその瞬間にアイアイはスカートを揺らし、飛び出したものを蹴り上げて、瞬間閃光が走る。咄嗟に顔を覆った、魔法の閃光弾だ。そして視界が潰れた瞬間に、眼帯を捲り上げたアイアイからまた熱線が迸る。躱すため床を蹴って跳び、その先の壁に着地して跳び、また仕掛けていく。距離は離さない。
「……そう来ると思った」
再び翻るスカート。先の閃光弾が現れたのはただ一発芸ではない。内側に魔法の袋が縫い付けてあるのか。今度飛び出してきたのは──ステッキか。抜き放たれるや否や、走ったカラフルな軌跡にどうにか対応する。振り慣れている様子ではないにしろ、その威力はただのステッキではない。
「とっておきの魔法のアイテムちゃん、せっかくだから見せてやるっす」
振り抜かれたステッキからは衝撃波が飛び、受け止めるにはあまりに重い衝撃に襲われた。一発だけで脳震盪、それどころか平衡感覚が狂いつつある。あれをもう一度受ければ体が破裂しそうだ。近づけば衝撃、離れれば熱線、か。
熱線でサポートまでされるくらいなら、ステッキに付き合ってやった方がマシだ。そう切り捨てて、ルールーはなおもラズリーヌ式の格闘術を総動員する。武器を持つ相手には武器をうまく使わせないこと。ステッキならば、超近距離なら取り回しが難しい。柄による防御もさせなければいい。……とは言っても、それができれば苦労はしない、といったところのむちゃくちゃな理論だ。
攻撃を逸らし、受け流し、こちらの拳を通しにかかり、またスカートの中から魔法のアイテムが飛び出す。ひとりでに空を飛ぶ絨毯が広がり、視界がなくなった途端にそれごと熱線でぶち抜いてきた。回避が遅れ、肩に火傷を食らう。コスチュームが吹き飛び、自分の焦げた肌を見た。
「っ……」
手で押さえるくらいならと、宝石袋から孔雀石を引っ掴み、己の魔法を使う。ルールーの魔法は派手な戦闘向きじゃない。宝石に秘められた力を増幅する、とだけ言えばお洒落と言われるが、その実、石言葉に対応したぼんやりした効果ばかりだ。治癒をもたらす孔雀石なら、この火傷はどうにか治る。己に使い、続くアイアイの攻撃からどうにかして身を守りながら、手の中から溢れる深緑の光によりゆっくりと傷が癒されていくのを感じていた。が、熱線を躱したところで想定外、急に地面が盛り上がり、枝が襲撃をかけてきたことで孔雀石を取り落とした。散華桜花だ。おまけに宝石袋も衝撃で中からいくつかのクズ石が溢れてしまっている。
「なるほど、宝石使いっすか」
横槍によってタネが割れた。拾っている暇もなく、ルールーからは選択肢が減った。しかし振り向いて散華桜花に構っている暇はない。あちらはたまが戦っているはずだ。たまとリップルは、ルールーが心配するまでもないはずだが、にしてもここでルールーがやられて二対一になっては話が変わる。
──奥の手を、出すか。ここで。
「さっきから何発も……火事になっちゃうよ?」
「生きてる木って、わりと燃えにくいっすよ? 対策はちゃんと、魔法のアイテムでしっかりしてあるし」
「そう? ならその厨二ポーズし放題か。よかったんじゃない」
「これは……若気の至りだから。もう何年これでやってると思ってるの」
煽りに乗って闇雲に撃っては来ない。向こうもベテランだ。踏みとどまったその場所でアイアイの様子を窺い、熱線の予備動作に入った瞬間、また飛び込んだ。今度は落とした宝石袋に向かって前転。同時に手を突っ込んで、中から目当てのものを探し当てる。普通の宝石は大抵数ミリの破片や珠でしかない代物だが、それらは違う。
ルールーの魔法は値段によって効果が決まるわけではない。人工石であってもサイズに比例して効果が大きくなる。宝石袋の中身にある、普通の石たちは贔屓目に見ても砂粒だが──その中で、すぐに見つけた。取り出したのは卵型、縦の長さで5センチほどもある、パステルカラーの宝石だった。異質なほどのサイズだが、つまりそれならば、絶大な力を持つということ。
「強制励起──同化拒絶、魔素摘出」
「……! させない! 『
迸る超高熱の一撃。腕を吹き飛ばしに来ただろうその一閃をひらりと避け、避けきれず二の腕を掠め、それだけでひどく肌を焦がされ、痛みを認識する時にはぼんやりとした夢色の光がルールーを包んでいる。そのまま飛び出す。目標は、アイアイが振るう魔法のステッキ。
「なんのつもり!?」
「石言葉は──」
魔法のステッキを掴んだ瞬間、理解した。これは──こう使うのだ。
「──『どんな道具でもすぐに使いこなせるよ』!」
持っているはずのアイアイに向かって、激しく巻き起こる衝撃。咄嗟に手を離して防御の姿勢をとろうとする彼女だが、さすがに間に合わず、まともにくらって吹っ飛ばされ、思いっきり壁に叩きつけられた。口から血を吐くアイアイ。恨めしげに見上げられ、反撃の熱線が来て、ステッキを叩きつけて相殺する。
「さしずめ……ルールー・クラッシュ、ってところ?」
「何よ、その……宝石」
「ちょっとこっちは、特別製みたい」
あと一撃。それさえあればアイアイは排除できる。肩で息をしながら歩み寄った。そしてステッキを振り上げ──。
「ケイオス先輩っ!!!」
いきなり伸びてくる木の壁。ここに来て、またしても散華桜花が攻撃を邪魔してくる。叩きつけたステッキの衝撃が壁に持っていかれ、叩き壊すことはできたが、アイアイには余波しか当たらない。それでさえ満身創痍の彼女には十分で、相手は意識を朦朧とさせているらしく、さらに駆けつけた散華桜花もまたボロボロだ。肩を貸しても、あまりにフラフラで、今のルールーでも捕まえられるだろう程度だった。
しかし彼女がこちらに来たということは、たまは──。
「ルールーちゃん……もう、やめようよ」
「……はぁ。あー、そうなるか」
たまは気が優しすぎると思っていたが、やはり交戦中になにか話した結果、桜花とは勝手に和解してしまったらしい。駆けつけてきた彼女はルールーの手を取り、そう語りかけてきた。妹弟子にそう言われてしまうと、困る。
「情報は聞き出せてないけどいいの?」
「お、桜花ちゃんから……何も知らないって」
「……そっかー」
収穫はない。そうと決まったら撤退してしまっても良い。が、問題はもうひとつ。止まれない、放たれた手裏剣だ。
「……リップル? リップル!」
スンスンと鼻を動かした後、走っていくたま。嗅覚に長けた彼女なら確かにそちらにいるのだろう。ついていくなり、確かにリップルは立っていた。その足元には、体にいくつもの手裏剣やら刃物が突き刺さったまま倒れているらっきょんの姿もある。
「……たま……そっち、は……?」
「もう、もういいんだよ、やめて、リップル、この人たちは何も知らないって」
「……そう……なら、用はない……だけ」
ルールーはそっと、倒れているらっきょんを調べる。傷は浅く、消耗と出血こそしているが、ただちに死ぬわけではない、だろう。ただ、この光景を他のメンバーが見ればどう思うかは火を見るよりも明らか、だ。MyNameのメンバーはまだ居る。
「交渉は失敗、収穫はなしね。まあ……師匠的には収穫ありだと思うけど。撤退するよ」
これでやっと戻れる。ルールーは宝石を仕舞い、桜の木の中を後にすることにした。背を向け、さっさと出ていこうとし──。
「……チッ」
──最後の力を振り絞ったであろう熱線を、リップルが忍者刀により切り伏せる。出力は本人の消耗のせいでかなり落ちており、簡単にかき消されてしまったが、直前の舌打ちはそういうことだ。桜花に背負われたままのアイアイは、こちらに恨みの目を向けている。
「踏み込んだこと……後悔するわよ」
「……しない。あの子までなくしたら……もっと、もっと深いから……」
リップルにはじめから止まるつもりはない。或いは、らっきょんを殺してでも、という選択肢は頭の中にあっただろう。理性はまだある、が、傷つけることにはもう躊躇いがない。まあ、それは、師匠の指示だと思考を止めていたルールーも、そうなのだが。