◇ジュエリーゼリー
「……何、これ」
連絡を受けて慌てて戻って来てみれば、アジトの中は大いに荒らされていた。焦げ跡は交戦したアイアイの魔法のせいだろう。その中に、ボロボロの桜花、ボロボロのアイアイ、そしてボロボロの──。
思わず駆け寄り、縋り着いた。鼻を濃い血の匂いが刺す。まさか、そんな。
「っ、ガリちゃん! ねぇ、嫌っ、そんな、ガリちゃんまで……置いていかないでよぉ……」
「……安心せぇ、クラム……死んでへんて……」
「あっ、え……はぁ、よ、良かった……」
「うちはそうそう死なへんって。ほら見ての通りめちゃ元気や、ぐはぁっ」
「ガリちゃーん!?」
心の底からの安堵が漏れたところでまさかの吐血。ぶっ倒れる彼女を抱き止めて、口元を拭こうとして、いい笑顔でぐっと親指を立てた彼女に、きっと和ませようとしたのだと悟る。深く息を吐いて、傷だらけの彼女にくっついた。体温がある。ちゃんと無事だった。
「……ベクトリアも……メルメルも……私を置いて行っちゃった、から。誰も……もう……置いて行って欲しく、なくて」
「わかっとるって。うちらはクラムを置いてったりせん」
思わず吐き出した気持ちに、我慢しきれなくなって、涙が溢れる。ガリに頭を撫でられて、どうにか息を整えようとして、整えられない。嗚咽が漏れる。そのまま、彼女のコスチュームを掴んで、涙を拭って、また溢れて、繰り返しだった。
「みんな、大丈夫!?」
後からついてきていた魔法少女──
「こんぐらい平気や……平気やけど、まあ動けへんな」
「思いっきりやられちゃったわ。ステッキもパクられちゃった」
「たまちゃん……きっと話したらわかる子だと思うんだけどなあ」
敵の襲撃を受けて、命に別状がないだけでもよかった。奈子も一緒になって胸を撫で下ろす。
「すまなかった、我々が留守にしたばっかりに」
「……ボクがもっとしっかり髪の毛を張り巡らせていれば……無理やり入ったら切り刻むように今からでも……」
「そ、それはさすがにやりすぎじゃない?」
先に駆けつけていたソイエとさらら。人事部門との会談に赴いていた彼女らが真っ先に到着し、ふたりから連絡を受けて、オスク派拠点に合流を目指していた奈子ごとジュエリーゼリーが戻ってきた、という形になる。せっかく合流する予定だったのが流れ、戻ってくる羽目になった奈子には、ゼリーとしても申し訳ない気持ちがある。
「え? あたしは大丈夫! みんなの方が大事だから!」
「ええ子や……」
「さすが、末っ子パワーチーム最強」
「健気すぎて心配になるよ!!」
奈子の笑顔で雰囲気が明るくなったところで、チームメイトは皆、次はこれからに目を向けることになる。傷の具合からして、桜花はまだしも、アイアイもガリも戦闘ができるような状態にはない。人事部門からの協力要請には、万全には応えられないだろう。それでも、同様の襲撃が話に聞くとおりいくつも起きているのなら、動ける者はいるだけいてくれないと困る、はず。
「……ガリちゃん。襲ってきたのはどんな奴?」
「ん? あぁ、せやなあ、青い魔法少女に、犬耳に忍者……やけど」
「青……犬耳……忍者」
「クラム、それだけ聞くの、あれやろ。あんまし変なこと考えるんやないで」
「……」
わかっている。ジュエリーゼリー自身でも、自分が正面戦闘に向いていないことは理解している。真正面から戦ってみんなが勝てなかった相手なら、ジュエリーゼリーだけで勝てるはずがない。復讐なんて考えは過ぎって、すぐに捨てた。
「……そうや。あの忍者……目ぇ、鋭すぎやった。前さえ見えてへん、触れるもの全部切り裂くだけの視線や」
「あちらも……復讐……?」
「クラムはそうなったらあかん。仇討ちは、しっかり済ませたんやろ」
「……うん。メルメルの仇は……とった。これからは……友達を助けに行く」
「見失ったらあかんよ。ま、負けたうちが言えることやないけどな!」
ガリは笑い飛ばし、一方でゼリーは手に力を込めた。だからといって逃がしておきたくもない。このままトーチカたちを助けに行ったとして、心残りがあったままではきっと最善の行動はできない。そこへ、ついにリーダーであるソイエが口を開く。
「さて。人事部門への協力だが……並行して、襲撃犯の捜査をしないとだ。その『青い魔法少女』は間違いなく我々人事部門……いや、オスク派陣営の敵だろうから。いくらダメージは与えていたとはいえ、足跡は追わなければならない。らっきょん、君がせっかくいいことを言ったところだが、我々も舐められるわけにはいかない。私とさららは襲撃犯への追撃を目標とする」
「……なにか、手がかりは……?」
「見た目と……そうだ、先程、ステッキをパクられたと言っていたね」
「ええ、そうよ。監査部門オークションで競り落としたやつ」
「あぁ……あれか」
監査部門では押収品の一部などを他の魔法少女たちのオークションに出すことがある。差し押さえられたものが格安で手に入るチャンスで、アイアイはこの頃そのシステムをよく利用していたと聞く。そして少し前、その監査部門のオークションに大量の魔法のアイテムが流れてきた時があった。その中にあったはずのステッキだった、という。
「相手の魔法……なのかしらね。ステッキの主導権を奪われて、そのままドカンよ」
「魔法のアイテムには頼れないか」
「……そのステッキの場所とか、端末でキャッチできたりしませんかね……」
「どうかしら。こんなことなら、ステッキにも髪の毛を結んでおいてもらうべきだったわね」
ああでもないこうでもないと話される中、ジュエリーゼリーのところには奈子がやってくる。ジュエリーゼリーがいつもより喋らないので心配になったらしく、覗き込まれた。
「ナコナコ……ご心配なく、ちょっと強めにブレーキかかっちゃっただけ。平常運転だから。前から魔法少女が!」
「そっか! よくわかんないけど、あたしとゼリーで一緒なんだよね? さららとソイエは別行動?」
「そうなるね」
「……本当に、プク派と戦うってことは……最悪の結末も有り得ます……」
「そうだけど、ゼリーの友達は助けなきゃだから、ね!」
底抜けの健気さで手を貸してくれる奈子。独自に敵を追ってくれるソイエにさらら。自分が傷ついていても心配してくれるみんな。ジュエリーゼリーも、覚悟を新たにしなければならない。