魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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籠の中のお菓子

 ◇キューティープラリーヌ

 

 ──結界の中で過ごして、もう何日目になるだろう。学校に泊まる体験は、きっとクラスメイトと一緒なら楽しかっただろう。無理やり閉じ込められたら、それはただの監禁だ。楽しくもなんともない。

 ついでに端末も取り上げられ、暇つぶしに学校内の蔵書をゆっくり読み始めるなんてことまでしていた。何気なく手に取った魔法少女の自伝やらは、意外と面白く、最後まで読んでしまった。読んでしまったせいで、今はまた暇が持て余されている。

 

 プラリーヌはこれまで、何も出来ていない。閉じ込められたまま、逃げおおせたはずの魔法少女たちがどうなったのかも知らずにいる。犠牲は出ていない、と、仕留め損ねたというニュアンスで誰かが話しているのを聞いたが──ランユウィは『ディティック・ベルは撃たれて死んだ』と言ってもいた。真偽は不明だ。できることなら、我らが先生が死んだなどとは思いたくない。

 それにラピス・ラズリーヌの様子も変だった。同じように連れ去られてきたはずの彼女は、妙に落ち着いて、何者かの命令に従い飛び回っている。脅されているのか。もっと悪い可能性で言えば、洗脳か。最悪の場合は、自分の意思で協力しているか。最後のは彼女に限ってないとは、思うのだが。

 

 そしてこの窮地に、先輩にしてこうなった元凶、最大の壁であるキューティーペンギンは、完全にプラリーヌから目を離していた。元々彼女はいつも自分の身だしなみばかり気にしていて、それにプク派の儀式のことが加わっただけだったのが、もはやプラリーヌの隣にもいなくなった。監禁場所であったこの教室からも去ってしまい、どこをふらふらしているのやらわからない。監視の目はしばらく戻ってこないだろう。

 なら──やることは、決まっている。

 

「散歩でも、行こうかな〜」

 

 誰に言うでもない独り言だが、そう、これはあくまで散歩。脱出のための糸口を探すための探索ではない。決して。誰に言うでもない言い訳にまみれながら、プラリーヌは外に出る。これで何度目かの無断外出だ。これまでバレてもないし、咎められてもない。結界の縁の方で、綻びか秘密の通用口でもないかと探し回ることにする。

 

「……何か収穫あるのかなあ」

 

 ここでの自分は囚われのヒロイン。キューティーヒーラーとしては、あるまじきことだ。作品の中なら、きっと皆が駆けつける展開だろうが……生憎ショコラティエールは多忙の身、助けには来られない。どころか、ペンギンが独断でこんなことをしているのを誰も知らないだろう。広報部門は広報部門で、後援がプク派である以上、派手に動くこともできない。ひとりで歩き、とにかく地味に、時には魔法の砂糖をじんわりと結界に這わせて漏れがないかをチェックしていった。結果は芳しいとは言えなかった、が、その最中、いいところに出会う。物陰に身を隠して、様子を窺っておく。

 

「あれは……」

 

 思案の背中の扉に対して魔法を使うランユウィ。開かれた扉の向こうは、少し離れた結界の外にあるドアまで繋がっている。ちょうど、魔法少女が招き入れられていた。どうやらプク派の魔法少女たちは、必要になる度に呼び寄せられているらしく、結界との出入りは行われているようだ。それを担当しているのが、このふたり、ということになる。ランユウィと思案は魔法少女を、遺跡のある方向に見送ると、思案の方が大きなため息を吐いた。

 

「儀式は順調……なのでしょうか。そもそもこの儀式が出来上がったら、魔法の国が救われるって、何がどうなるんですの」

「……知らねーっすよ」

 

 ランユウィの吐き捨てるような答え。思案だってこれが何なんだと思っている。だったら──協力はできるかもしれない、と踏んで、プラリーヌはあえて、自ら姿を現すことに決めた。軽く深呼吸をして、いつもの緩い雰囲気で。

 

「っ、誰すか!?」

「ごめんごめん、驚かせちゃった〜? プラリーヌちゃんだよ〜」

「……プラリーヌ? どうしてここにいるんですの」

「あれ、聞いてない? ペンギン先輩から〜」

「いえ……」

 

 キューティーペンギンはいい加減というか、そこまで細かく話を通そうとはしていなかったらしい。それを利用させてもらおうと、協力するために呼ばれた、という嘘をついておいた。思案とランユウィは素直に受け取って、だがそこにぶっ込んでみる。

 

「あのさ。遺跡の奥に行きたいんだけど〜……」

「……なんすか。儀式関係だったら、普通に話通ると思うっすけど」

「でもあのプク派の魔法少女、意思が硬そうだし耳貸さなそうですわよね。手も空いてますし、一緒に行きましょうか」

 

 ──よし。話が通った。プラリーヌは心の中でガッツポーズをする。が、思案はともかく、ランユウィはまだ怪訝な目で見てくる。疑われているのか。

 

「……いいんすか」

「え?」

「クラスメイト殺しの犯人っすよ、自分ら。それに……マスカットにベル先生を撃たせたのも、師匠っすから、ほとんど自分らみたいなもんっす」

「……は? マスカットに、ベル先生を?」

 

 ──なんだ、それは。よりにもよって、そんなことが仕掛けられていいのか。彼女ら自身にとって、最も辛いことが起きている。プラリーヌは動揺し、目を丸くし、そんな自分の頬を叩く。死んだとは言っていない。そうだ。そのはず。その先を聞くのは怖くて、追及することはできなかった。

 

「……ま、まあ、それは……今は、関係ない、って言う……かぁ」

「利用できるものは利用する、つもりですのね?」

「そ、そう、それ」

「えぇ、その方がプラリーヌらしいですわ」

 

 思案の助け舟でなんとか平静に戻ろうとすることはできた。戻りきることまではできなかったが──とにかく。遺跡の奥、トーチカのもとまで行けるのなら、それがいい。端末もなく連絡手段は無いが、ほぼノーマークであろうプラリーヌが知っておくことは意味がある、かもしれない。

 ランユウィと思案に案内されて、先程魔法少女が見送られて行った道を行く。広場では他の魔法少女たちが、狼風の魔法少女に現場監督をされながら作業中で、その中を通り過ぎて、遺跡の入口に立った。遺跡の入口で見張りをしていたのは、棒付きアメをくわえた、ふわっとした見た目のゆめかわ系魔法少女だ。思案とランユウィが彼女に話を通し、その先へ進ませてもらう。

 

「何もないもんだねぇ」

 

 遺跡の内部は思っていたよりも防衛機能も魔法少女の出入りもなく、ただ道が続く。曰く、これは活性化していないせいだそうだ。儀式がうまく進めば、遺跡が起動し、こんな簡単に出入りすることはできなくなる、とも。

 

「こっちに行くと師匠やプク様がいて、儀式の前の準備をしているらしいっす。で、トーチカはこっちっすね」

 

 この分かれ道の奥に、トーチカがいるらしい。プラリーヌは周囲に、使い終えた日用品が集められたゴミ箱に、医療用と思しきベッドが運び込まれているのを見つけ、不審に思いながらも、その奥へ歩く。分かれ道の先は、そう深くはない。だが──。

 

「あ、えーと……トーチカ……?」

 

 トーチカとプラリーヌはふたりで話したことなどほとんどなく、どう呼びかけるか迷い、呼び捨てでとにかく名を呼んだ。遺跡の奥の壁、植物に覆われた向こうに何か文字の書かれた場所に立ち尽くしていたトーチカは、呼び掛けに応えて振り返り──一筋、鼻から真っ赤な血を流して、ふらついた。

 

「……え?」

 

 そのまま倒れてくるトーチカを、3人がかりで慌てて受け止める。皆が一斉に動いたせいで、皆で持ち上げる形になった。

 

「ベッド! あそこに運びましょう!」

「ちょ、これ、大丈夫なの〜……?」

 

 彼女を寝かせ、意識を確認する。朦朧としている様子で、呼び掛けへの反応も弱々しい。さらに熱があるらしく、思案に魔法の引き出しから冷えピタを取り出してもらって額に貼った。

 さらにとにかく呼吸を安定させるべく、枕で首の角度を調整し、体制も楽になるような形をとらせようと、皆でああでもないこうでもないと試行錯誤。ここでは魔法の端末も通じてくれず、回復体位もうろ覚えでやるしかなかった。

 

「……な、なんでこんな倒れるまで──」

「あ、先に看病してくれてたっすね」

 

 いつの間にか背後に立っていて、声をかけてきたのはラズリーヌだった。彼女の固有魔法による瞬間移動だろう。見ると、ベッドのあたりに青い宝石が転がされており、これがワープ地点らしい。

 

()()()()()()()()()()、助かったっす。魔法の使いすぎっすね……プク様のために張り切るのはわかるっすけどね」

 

 いや──やはりラズリーヌの様子もおかしい。自分たち生徒のことが誰もわからないなんて、これは明らかに何かが起きている。これには思案も思うところがあるらしく、複雑な面持ちでいる。……プラリーヌにはついていけないことばかりだ。トーチカが目覚めることを期待して、ベッドの隣に付き添い、その熱が冷めるまでを、ラズリーヌと並んで見守ることにするしかない。

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