◇炎の湖フレイム・フレイミィ
ゲートの前に集う多数の魔法少女たち。その中央に立つ、探偵と、赤と白の姫君。ついでに車椅子の上には人事部門長がいる。フレイミィにとっては深い縁のある相手だ。中でも後者──スノーホワイトには、本能的恐怖すら覚える。
だが何よりも、己の相棒のためここまで集めさせた探偵、ディティック・ベル、彼女こそがこの決戦とこの同盟を作り上げたと言える。
ここにいる皆は、必ず彼女の手助けとなるために来たのだ。それが仕事だろうが私事だろうが関係なく、これより死地に赴く覚悟は表情に現れている。
「今日は新校舎側もお休み。人払いは完璧……っと。
約束の時間になったら、このゲートから突入する。もちろん激しい戦いになると思う。みんなは……できたら、死ぬ前に逃げて欲しい」
ディティック・ベルの言葉に、皆は顔を合わせる。フレイミィたちは真っ先に、自分のことを心配しているんだ! と思い、安心させるべく声をかけることにした。
「……お前は……何があっても退かない、つもりだろう……」
「そうならないように立ち回ってやるのね」
「ぜったいトモキのこと連れて帰ってきてよ!」
「我がライバルもだ。決着がつかぬままでは私の道も曇るからな」
「……とまあ、このように。こっちは強かな人たちなので、大丈夫だと思いますよ」
「平気、平気です……はい! ぜんぜん平気です! きっとみんな、帰ってきますよ!」
矢継ぎ早に帰ってきた本心からの励まし。こちらは心配するな、お前はやるべきことをやれ……と、皆が思っているはずだ。やり通す覚悟を決めたのはディティック・ベル自身。ならば、この先の戦場がどうなろうと、付き合うだけだ。
「うちらはどないする?」
「円陣でも組む?」
「士気を高めるためにはもってこいだと思う悪くない提案ねやりましょう時間がないもの」
「シンソニちゃんもすっごくやる気!」
「仕方ありませんわね」
「そうね。らしくていいじゃない?」
元魔法少女学級の生徒たちは、丸くなって肩を組む。掛け声を出すのはジュエリーゼリーだ。小柄な体躯とふわふわした雰囲気に似合わぬ大きな声が出る。
「魔法少女学級──!」
問題はその後だった。
「ファイト!!!」
「おー! ……あれ?」
「おうじさま〜♡」
「あ、ファ、ちょ、バラバラやないか! 掛け声くらい決めてからせぇや!」
「ふふっ、まあ、こうなるわよね」
「個性がいろいろ生きている。超個性学級だということで、それでは趣向を変えよう」
全員の主張が強く、全く一致していない。皆が苦笑いで見守る中、仕切り直しの円陣が組まれ、ゼリーが手を前に出したのに、それぞれ重ねていく。順番もバラバラだが、最後にアイが仕方なさそうに重ねて、再び。
「絶対……! ラズ先も、トーチカも、プラりんも……連れ帰る! えい、えい! おーっ!」
ジュエリーゼリーを先頭にした最後の「オー」が五つ重なって響く。そこにあるのは死地に赴く緊張ではなく、強い意志だ。渦中に巻き込まれてきたからこその絆、というやつだろう。フレイミィには興味はないが、見ていて不快なものではない。むしろつられて士気が上がる奴もいるだろう。
「私たちもやっておくかい?」
「なんでですか。ランタンさん抑えるのに必死なんですよ」
「……円陣……合法的に肩が組めるチャンス……?」
「肩を組んで法に触れることなんてないですって」
「今のうちにシャドウゲールを補給しておくといい。ここから先は落ち着いて堪能はできないからね」
人事部門長でさえ冗談めかして話していた。彼女と黒い看護士の、さらに隣にいる見慣れぬ魔法少女は──落ち着きは無い様子だが、闘気は確か。むしろなんだか人事部門長の方に向いている気さえする。
その他の突入メンバーもそれぞれ、約束の時間までは談笑の時間くらいはある。やはりさすがは名の知れた者も多い。フレイミィも有名人だという自負はあるが、牢獄の中にいる間に名を馳せたらしい者もいる。言わずと知れた悪役・ダークキューティーや、『七つの名を持つ』
そしてそれら全てに関わることなく、真っ直ぐ前だけを見据えているのが、高貴な雰囲気と本能的恐怖を漂わせる、現身とその補佐だ。スノーホワイトにレーテ、ふたりは静かに佇み、備えている。
──やがて、時が来る。ディティック・ベルが持っていたタブレットが鳴って、通話が繋がり、そこからの音声に従い、皆が身構えた。
『約束の時間ですわ。行きますわよ──さん、に、いち──起動!』
向こう側の転移装置が起動したことにより、ゲートが繋がる。一斉に飛び出して、突っ込んだ先は平均的な学校の廊下、といった場所だ。ゲートを操作していたであろう人形、巫女服、半獣の3人組に迎えられつつ、作戦行動を開始する。ゲートは残すべき退路だが、それを守る担当とフレイミィたちは別だ。校舎内を移動し、戦場を見定める。ディティック・ベルとはギリギリまで同行し、彼女を送り出す手前で、ひとつ訊ねておく。
「……いいのか、やってしまって……」
「頼むよ。大丈夫、校舎が燃えても、思い出を焼くわけじゃないから」
「……ならば……見せてやろう、新技……『
フレイミィが放つ炎は一気に燃え広がり、廊下を埋め尽くす。火災報知器が鳴り響くが、味方の魔法少女たちは炎の道を行き、ある者は窓を、ある者は壁を破ってまで先に進む。ここで大騒ぎを起こせば起こすほど、他の場所が楽になる。こちらがやるのは陽動だ。この場に残る魔法少女たちで、仕掛けていく。
「近くに放送室があるのね。あそこに陣取るのね」
「放送室、ですか?」
「陽動だから目立った方がいいのね!」
トットポップに手を引かれ、ミルキーウェイは放送室に連れ込まれていった。確かに声が届けば、もちろん騒ぎが大きくなるだろう。この火災報知器の音もそうだが、やはり異常事態だと知らせて釣り上げた方が良い。
『あ、あー、あ! 生きてるのね? はーい! それじゃあミルキーちゃんをゲストに! このお時間がやってきたのね! 題して、「トットポップの今日も晴レルヤ」!』
『それまずくないですか!?』
呑気な響きだが、あちらこちらで戦闘が始まろうとしている。こちらにも気配が近づいており、フィルルゥに超龍パナース、強者はもう構えている。
「来たわね。思いっきり乗り込んでくるなんて! しかも放火って!」
「攻め込んだこと後悔させてあげるわ!」
同じ顔に同じティアラが3人、こいつらが話に聞いたプリンセス・マスカレイドか。量産型でありながら、それぞれがさらに別の魔法を重ねがけすることで新たな能力を得るとか。突っ込んできたマスカレイドの攻撃を炎に飛び込んで躱し、炎の影から不意を突いた龍が襲いかかる。それも1体ではない、2体。パナースが操る
それだけではない。囮部隊はもうひとりいる。彼女は別行動だ。なぜかと言えば──。
「どーん!!!」
響く破壊音、怪獣の咆哮。いや、怪獣ではない、ふわふわとした着ぐるみの魔法少女だ。しかしその体躯は数十メートルにも及び、巨体を以て文字通り最大の囮役となっている。作戦中の皆がそれぞれ離れたことを確認次第、チェルナー・マウスが誰よりも目立つことで敵の戦力を逸らさせるという作戦だ。地面が揺れ、交戦中のマスカレイドはバランスを崩し、その瞬間に龍に咥えられ、炎の中に引き込まれる。
「なっ、ちょ、離しなさっ──」
炎の中で待ち構えているのがフレイミィだ。勝負は一瞬。仮面をした顔面を掴み、ティアラの宝石ごと燃やし尽くしてやる。酷い火傷を負えば、戦う力を失うだろう。倒したマスカレイドはその辺りに転がして、次の敵に備えるべく炎の勢いをやや強めた。炎の壁の向こうには、そのせいで近寄れずに躊躇するプク派の魔法少女らしき影がある。
「仕掛けるか、フレイミィ」
「……」
パナースとは互いに視線を交わす。その瞬間、ぶち抜かれた壁の向こう、遠くに見えるチェルナーの方に動きが見える。彼女の巨体に、十メートルほどの帆船が突っ込み、体当たりで対抗してきている。さらに大砲が火を噴いているのが見えた。パナースがまさか、と声を出す。
「あれは……『覇海王』キャプテン・グレースに……『変幻の奇術師』ファニートリックも乗っているな。
「その通り。プク様に頼まれたのだ、我らも出ねばなるまい、なあ『炎の湖』に『超龍』」
「お前は……黒騎士グィネフィリア!」
目の前に現れたのはかつての同胞、魔王塾卒業生たる相手。なるほど、あちらも実力者を揃えているらしい。こちらも負ける訳にはいかない。剣を構えるグィネフィリアに、さらにその後方にも見知った顔がいくつか押し寄せている。パナースは龍を呼び戻し、フレイミィは己を燃え上がらせて、戦場に応えた。