魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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下校前に先生に挨拶しよう

 ◇氷岡忍

 

「はぁ……終わった……!」

 

 1日目のオリエンテーションが無事終了した。魔法少女だらけの学級、何がどうなってもいいように警戒だけはしていたが、反抗的な者はひとりもおらず、皆素直に話を聞き、指示に従ってくれていた。班長や係も滞りなく決定し、予想外になにも起きなかった。

 しかしそれでも慣れない仕事、さらにまさかの担任。あまりにも緊張する立場だ。教壇を降りたら、力尽きて職員室の机に突っ伏す羽目になっていた。探偵業どころか日常生活すら変身したままでいるのが祟り、ついでに精神的な体力もないのが露呈してしまった。

 

「お疲れ様っす。コーヒーいるっすか?」

「ありがと……」

 

 ラズリーヌが持ってきてくれた珈琲を口に運ぶ。熱いし苦い。それが疲弊した精神に滲みる。ツインウォーズも自分の飲み物を淹れ、やっと一息つく。少し休憩だ。この後、一応の報告書、授業計画、その他もろもろ、色々まだ仕事が残っている。今日のうちにある程度片付けておきたい、のだが、これでおさまる1日ではなかった。

 

「お邪魔するわ」

「えっ」

 

 いきなりのノック、返事をする間もなく職員室の扉が開け放たれる。生徒たちはみんな下校時間のはずだ。わざわざ来させるような用事を作った覚えはない。それなのに現れたのは、黒髪、金髪、茶髪、青髪の四人組。3班の魔法少女たちだと気がついたのは、先頭に立つプリンセス・ライトニングと、その後方のふたりをラズリーヌが「ユウィっち」「シアンちゃん」と呼んだからだった。つまり残るひとり、やる気のなさそうな金髪はキューティープラリーヌだ。

 

「ライトニング! なんですか、職員室にまで押しかけてきて!」

「そう警戒しないでよ。ほんの挨拶に来ただけじゃない」

 

 ツインウォーズの目が鋭い。ライトニングは研究部門推薦。同門のツインウォーズとは顔見知りなのか。ライトニングの方はそんな制止を気にせず、立てかけてあったパイプ椅子を引っ張り出すと、ディティック・ベルの前にどんと座ってくる。わけがわからないまま顔を覗き込まれて、思わずラズリーヌの方を見た。彼女は彼女で、思案とランユウィの相手をしていた。

 

「あっ、あっ、あの……!」

「ユウィっちもシアンちゃんも、やってけそうっすか〜? ふたりとも可愛い妹弟子っすからね、魔法少女学級での修行で、あたしがビシっと! 魔法少女の心得叩き込んじゃうっすよ! 師匠くらい厳しくいくっす!」

「師匠くらい……っすか」

「素敵ですわ……!」

 

 すごくお姉さん面している。気持ちよさそうに喋っている。つまりラズリーヌからの助け舟は一切期待できない。目の前のライトニングに視線を戻す。否が応でも目が合って、吸い込まれるかと思うほどだ。

 

「担任の、ディティック・ベル先生?」

 

 わざわざ強調して話しかけられ、ビクッとした。

 

「は、はい」

「顔はもう覚えてくれたかしら。こうして話はしておきたくて」

 

 個性まみれの学級の中でも、ライトニングの覚えやすさは段違いだ。美しさ、その一点だけで決して埋没しない彼女の──個性どころか、顕著性、と言うべきか。それは唯一の男子であるトーチカに次ぐ。

 

「先生は元々先生じゃなかった、と聞いたわ」

「……一応本業は別で、探偵を」

「探偵! すごいじゃない、やっぱり行く先々で殺人事件が?」

「いやいやぁ、そうだったらいくらなんでも治安が悪すぎるでしょ」

「それもそうね」

「でも探偵が普段なにしてるのかは興味ある〜。バリツとかやってるの? バリツ」

 

 プラリーヌが口を挟んできて、話題が逸れた。フィクションの名探偵たちの話題が出ては消え、やがて回り道をしきった末、ようやくライトニングが本題を思い出して、手をぽんと叩いた。

 

「そうそう。これからの授業なのだけれど。レクリエーションをする、とは言っていたじゃない?」

 

 体育の授業は魔法少女には窮屈だ。魔法少女の場合、身体能力のみならず、総合的な評価が必要になる。そのため、色々とレクリエーションを用意する、という話をしていた。ツインウォーズによると研究部門から提供されたホムンクルスがあるらしいので、それを使った模擬戦なんかを考えているところだ。が、そこに言いたいことがあるらしい。

 

「やっぱり、魔法少女同士じゃないと、実力って測れないと思うの」

「……というと、つまり?」

「生徒同士の模擬戦をすべきじゃないかしら」

「けが人を出すつもりですか」

 

 割り込んで止めようとしたツインウォーズに対し、ライトニングは顔を向けもせず、ただ手のひらを向けて遮った。

 

「今はディティック・ベル先生と話をしてるの」

 

 完全に標的にされている。

 

「いざという時、相手になるのは魔法少女かもしれない。そういう業界でしょ。対人の経験がないまま卒業するのはおかしくないかしら?」

「そう言われても……」

「学校内での交戦は厳禁。わかっているわ。だからこそ、授業として教えるべきなんじゃない」

 

 ここでいきなりの授業計画への変更の提案。しかも初日から、だ。ただのレクリエーションだったとしても、その中には派閥抗争の構図が入り込んでしまうということはそもそも危惧されていた。しかしライトニングの言う事もわからなくもなかった。

 有事の際には容赦の無さも必要だ。あの時メルヴィルに情けをかけていたら、いや、それ以前に彼女を疑いきれなかったら、今頃自分は墓の中だ。魔法少女の天敵は他の魔法少女だ、という言い回しを耳にしたことがある。対人の経験は彼女らを強くするだろう。だからといって体育館で魔法少女たちを暴れさせれば、新校舎には大いに迷惑をかけるわけで、さて、どうするか。答えは自ずと思いついた。

 

「1週間後、宿泊研修のレクリエーション。そこで行うものを班対抗の対人戦闘訓練に変更します」

 

 ツインウォーズが目を丸くする。それもそうだ、こんなのただの思いつきでしかない。が、宿泊研修に際しては魔法の国の施設を貸し切り、訓練場も実戦さながらの広いフィールドが用意されると聞いている。生徒たちの実力を見せてもらう絶好のタイミング、のはずだ。

 ライトニングも、続いてキューティープラリーヌも、口角を上げた。

 

「興味出てきた。宿泊研修〜、連中と殴りあえるんだぁ? それなりに面白そう!」

「ええ、全く。挨拶はするものね。楽しみに待っているとしましょう」

 

 それからまた少し。今度は学業の話ではなく、パーソナルの話が掘り下げられる。そちらにプラリーヌの興味は惹かれなかったのか、彼女は壁に寄りかかって爪を見てばかりいた。一方のライトニングはディティック・ベルをやけに探ってくる。冗談めかして聞かれたスリーサイズなんかをぼかして躱していると、やがて満足したのか、ライトニングは3班の魔法少女たちを連れ、職員室から出ていった。

 嵐が過ぎ去ったようで、ようやく落ち着けた。せっかくラズリーヌが用意してくれた珈琲はもうすっかり冷めてしまっていた。

 

「よかったんですか」

「……正直よくなかったと思います」

 

 特例措置の前例が出来てしまっては、これからも直訴が行われてしまう。それは非常によろしくない。ないのだが、魔法少女の敵は魔法少女であるという事実から目を背けることもまた、させたくはなかった。

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