◇0・ルールー
排除リストにあった魔法少女をいくつか当たったが、まともに取り合う者はいなかった。青い魔法少女の襲撃、という噂が拡散されていたせいだ。反撃しようとしてくる者がほとんどで、そのことごとくをリップルが叩きのめし、さらに仲間がいたり食い下がるならたまとルールーが出て、制圧し、そして刃を突きつけても知らないと答えが来る、というのを繰り返した。
同様のリストを与えられたであろう同門の者たちに若干何をしてくれたんだなんて思う。ただ、それはリップルとたまに肩入れしすぎだと思うルールーもいた。
そして今回。これがリストの最後に記された名前──正確には、最後に追加された名前──で、これまでは大体が外れ、あとは消息不明だった。ルールー自身はもうほとんど諦めている。オールド・ブルーに乗せられるがまま、人事部門から見ればすっかり怨敵だ。こうなったら、もういっそ──と思わなくもない。部門長ならば間違いなくスノーホワイトのことは知っている、だろう。ただ、そうなればたまのことが気にかかる。彼女は人事部門長のプフレとは友人だ。連絡は意図的に絶たれているようだが。
「情報によると、この辺りみたいだけど」
最後の目当てがよく目撃される時間帯と場所を張っていたのだが、見当はずれだったか。そもそも道順は合っていたはずが、目印になる施設がどこにもない。確かそう、ラーメンの屋台があるという話なのだが。どこを見てもそれらしきものはない。食べ物屋なら、嗅覚に長けたたまが気づかない道理はない。単純にいないのか。どうしたものか考えようとしていた時、気配を感じ取る。一瞬遅れ、たま、リップル、両方が構えた。
「あら。あなた達も双龍目当て? 残念だけど、今日はいないらしいわ」
姿を現したのは小柄な魔法少女だ。彼女がリスト最後のひとりで間違いない。かつて魔法少女の傭兵チーム『
「いつもならここに屋台がいるのにね。なんでも、どうしても外せない用事だって。連絡があったわ、まさか、自分の雇い主の方からね」
「……あなたがメルン・チック?」
「えぇ、そう。元リーダーのメルンよ」
「……御託はいい。スノーホワイトのことを教えて」
リップルが刃に手をかける。またしても抵抗してくるのを警戒している。当然皆して身構えている。対するメルンは戦おうとする素振りを見せず、2歩ほど、後ろへふらりと踏み出す。
「スノーホワイトね。何を嗅ぎ回ってそんなに必死なのかと思ったら……まあ、そうよね。あんなの表沙汰にできないわ」
「何の話だ……!」
「何か、知ってるの!?」
「……まあ。どこにいるかは知ってるわ。連れて行ってあげましょうか」
「連れてって……くれるの?」
リップルが目を見開き、たまが飛びついた。この様子だと、2人して「罠だったとしても」なんて考えているだろう。ルールーが間に入ったところでしょうがない。それに、排除リストがどうというより、彼女らの欲しがっている情報を、ルールーも欲しくなっていた。
「信じないならそれでもいいわ。叩きのめしたいならかかってきなさい。ぬいぐるみにしてあげるわ!」
「どう、乗せられてみる?」
「……そうするしかない」
リップルがつぶやき、メルンを見据え、頷いた。誰よりも、リップルが前に立ってメルンについていこうとする。メルンもまた何も言わず、ついてきなさいと言わんばかりに歩き出していた。
「でも……どうしてその、屋台……? を? まだ朝なのに……」
たまからどうしても気になったらしい小さな疑問が飛び出して、メルンはふん、と鼻で笑う。
「最後の晩餐……晩餐じゃないわね、最後の朝ごはんはラーメンって決めてるの。だから、死ぬかもしれない日は朝ラーメン」
「死ぬかもって」
「これから行く場所も死地なのよ」
仕事で仕方なくだけどね、なんてこぼすメルン。この頃の魔法少女界には大抵死の匂いが付き纏う。ルールーだって、ラズリーヌに連なる者として人を殺したことくらいはある。その言葉に、たまがぎゅっと自分の手を握っていた。怖いのか、と思い目を向けるが、表情に恐怖の色は薄い。どこか怯えているのは常にそうだ。それよりも、悲しみが強い、だろうか。心優しすぎるが故、だ。
「で。いつ仕掛けてくるの? これから結界の中まで歩きよ?」
ルールーが攻撃してくると思われていたのか──と辟易しかけた瞬間、直感が悲鳴をあげる。咄嗟に宝石袋を弄り、即座に取り出すとともに己の魔法を使う。プリンセス・ジュエル、それも量産エレメント型だ。使い捨てだが、ここで炎を使わなければならないとラズリーヌの感覚が叫んでいる。
「強制励起! 魔素、発散! ルールー・ボルケーノ!」
エレメント型の石言葉は『溶岩の力で敵と戦うよ』。溢れ出す溶岩の壁が、迫っていた細い何かを焼く。これは……髪の毛か。すぐさま焼け焦げて原型はなくなるが、今ので切れていなければルールーたちは捕まえられていた。一瞬で決めるための動き、今のは──。
「あんたら……MyNameの連中ね。いったいどういうつもり?」
「それはこちらの台詞だとも、メルン・チック。襲撃者をわざわざ戦場に案内とは」
「襲撃の理由は人捜しよ。困ってる人に手を貸してあげる、魔法少女の基本じゃあないかしら?」
姿を現したのは魔法少女が2人。メルンが呼んだ通り『MyName』のメンバーだ。中でも、リーダーのソイエ・グローリアに最も厄介な魔法少女さらら。よりによってここが来るとは。宝石をもっと放出すれば或いはまだ打開策があるだろう、がルールーの資源は有限だ。強力なプリンセス・ジュエルは温存したい。
「ボクは……ここでどうにかすべきだと思います、皆さんのこともありますし……」
「あぁ、私とさららがここにいるのは私怨。うちのメンバーを怪我させておいて、何食わぬ顔でいるのは気がすまないのさ。やり返しに来ただけ。その理由で退くと思うかい?」
「……ふん、それもそうよね。報復ならどんな手を使ってでもするでしょう。だとしたら私もこっちの味方するけど」
なぜかそう言い出したメルンの号令で、彼女の後ろに控えていた3人が戦闘態勢となる。
「それなら、スノーホワイトに会ってからにしてくれない? こっちも急ぎたいし、決闘なら後でもできると思うんだ」
これでは逆撫でかもしれないが、せめてルールーが間に入った。いつでも魔法を使えるよう、宝石袋には手を伸ばし、役に立ちそうなものを手触りで探しておく。
「……なるほど。いや、我々もこれからメンバーの大事な用事が待っている。ここで仕掛けなくても良い、か」
ソイエは先に、手にしていた旗を下ろした。
「え……放置、するんですか」
「いや。監視はさせてもらおう。メルン・チックもそちらの味方をするというなら、こちらも雇い主の利になることはしておかないとね」
監視役、ということらしい。ルールーは構わなかった。リップルやたまの、スノーホワイトとの再会が成就すれば、どちらにしろルールーはお役御免だ。余計な苦労は先延ばしにするに限る。
「あーあ。無駄に大所帯になっちゃったわね」
メルンの指示で、人形たちは構えた本やら鞠やら標識やらを下げた。そのまま、結局はソイエとさららも加え、歩き出す羽目になる。