◇雷将アーデルハイト
結界内へと突入し、とにかく先へと進む。アーデルハイトたち2・3合同班は途中まで遺跡突入組と同行する予定だったが、シン・ソニックと爆走する車椅子には置いていかれる形となり、そりゃあそうなるかと早めに別行動をとることに決めた。あのスピードなら、それこそ相当な速度自慢しか追いつけないだろう。ならば我々は遺跡の中まで追討しようとする敵勢力を担当するべきだ。遺跡、つまり中庭へと続く廊下に陣取って、迫り来る相手を見据える。
「こんなとこまで来てもうたな。ほら見てみぃ、同じ顔が何人も押し寄せとる」
「本当。まさか自分たちを裏切るなんて。でも、悪い気分じゃないわ」
「いえー、気分アゲていこう。最終決戦だ! 夜は焼肉!」
「お、それええな。先生に奢ってもらおうや」
「いいわね! お腹空かせるには、運動しないと!」
身構えると共に一斉に帯電するふたりの魔法少女。さらに周囲にはぷかぷかゼリーが浮かび、電気を浴びてよりキラキラに輝いている。ジュエリーゼリーもライトニングも臨戦態勢だ。まずはここを抑える。マスカレイドが何人集まってこようと、自分たちは強い。そう確信があった。
「……あ。ふたりに渡しておかないといけないものがある」
ジュエリーゼリーが呼び出したゼリーのうち2個が、アーデルハイトとライトニングの手元にまで漂ってきて、ぱんと弾けた。中から現れたのは、アーデルハイトの方にはゴーグルのついたヘッドギア、ライトニングの方には宝石だ。あれは他のマスカレイドが使っていたプリンセス・ジュエル。確かに彼女も同じ力を持つなら、ライトニング以外にもなれるのだろう。
「私も力を借りておくわ。マスク・チェンジ……アローズ・モード!」
ライトニングのジュエルが、掲げた宝石の輝きと入れ替わり、纏っていた雷が変化する。アローズ──つまり、ベクトリアの魔法だ。彼女らしいコスチュームに変化して、ただでさえ目立ちたがりのライトニングがその魔法を得ることで、さらに目立ちたがりが誕生する。真っ赤なマントを翻して、ポーズを決める。ベクトリアに引っ張られているのだろう。彼女の魔法は強力だ。電撃ほど使い慣れていなくても、連携はいくらでも立てられる。
一方、アーデルハイトに渡ったこのアイテムは、完全に見たことがない代物だった。
「なんや? これ」
「とっても素敵なプレゼント。こんなものを用意していた班長に、敬礼だよ」
「……?」
敵は迫っている事だし、とにかく装着してみる。ヘッドギアには何やら見覚えのあるタブレット端末が組み込まれているような見た目だ。仮にそうだったとして、一体なにが起きるのやら。電源ボタンを押すと、ゴーグル上に細かなユーザーインターフェースが表示され、どこからともなく合成の音声が響いてくる。
『認証、確認。これより雷将アーデルハイトの援護を開始』
「その声は……!?」
『これより──アルメール・プロトコルを起動します。目標、敵勢力の無力化。この中で言えば、あのクラブのジャックが難敵かな』
聞き慣れたはずの班長の声がする。目を見開いて、彼女の言葉で初めて敵を見る。確かにひとりだけ、出で立ちが異なる。風船使い、ということだろうか。彼女が膨らませたであろう人型、言わば風船人形が並んでいる。アローズの時とは異なり、手が割れていない。警戒するに越したことはない、はず。
「その通り、割れてない、風船だけに」
「やかましわ」
『でも大丈夫。あなたたちなら越えられる。だって、私たちは』
「……あぁ、そうやな」
ジュエリーゼリーの浮かべたゼリーがキラキラ輝き、ベクトリアのマントがライトニングの肩で靡き、アルメール・プロトコルとして彼女はアーデルハイトを導いてくれる。二度と会えなくなってしまったけれど、その力は確実にここにあった。
「これで新生2+3班、爆誕やな」
『そのまま足したら5班になります』
「ライトニングはご飯たくさん食べるから、ちょうどいい」
「もちろん班長は私よね!」
アドリブまみれだが、演者は揃った。アーデルハイトは刃を抜き放ち、号令代わりの電撃を放つ。
「行くでみんな! 『
◇リオネッタ
旧校舎廊下。フレイム・フレイミィやチェルナー・マウスを始めとする囮班が敵を惹き付ける中、いつ救出班が戻ってきてもいいように、リオネッタたちは退路を確保する役目を買って出た。あの蛇女は信用ならないが、トーチカの隣にいたのは彼女の方だ。信用はしていないが、トーチカのことは任せるしかない。リオネッタたちよりも、あのチームが突入に向いていることは確かだ。プフレやシン・ソニックには速度があり、それを補助するメンバーがおり、シャドウゲールは──プフレの秘密兵器、といったところか。
一方、既に結界の内側にいた自分たちはどこに何がいるかはわかっている。そうすると、中庭付近にいた連中が一斉に釣られて、こちらまで迎撃に来ることもなんとなく予想がついていた。
「……来るぞ」
クランテイルが予感し、寡黙な彼女が珍しく呟いた瞬間、魔法少女が突っ込んでくる。クランテイルに掴み掛ったかと思うと、彼女を投げ飛ばす。対する彼女もその瞬間に下半身をしなやかな肉食獣のそれに変化させ、音を立てずに壁に着地、そのまま飛びかかってきた魔法少女と組み合いになる。そこに、メガホンで拡大された新手の声が響いてくる。
『結界の中のソラミは誰よりも強いよ! 魔王だって倒しちゃうんだから! それに今すぐ手を上げないと、この必殺銃で一撃なんだから!』
「えぇっ!? ま、まずいデスよ!?」
「……! これは……してやられましたわ」
現れた狼風の魔法少女は銃を構えている。恐らくは相手の魔法だろう、超強力な銃に違いない。そしてあのソラミと呼ばれたツインテールの魔法少女、彼女もクランテイルに迫るか、それ以上の実力であることを確信している。リオネッタは周囲に視線をやりながら考えた。
那子をクランテイルの支援にやったところで、彼女の魔法は諜報には使えても今この状況では無いに等しい。あらかじめ『友達』にしてもらっているカラスも、上空からの偵察くらいしかできず、魔法少女の戦場では巻き込まれて終わりになってしまう。ならば──打開策は自分の魔法しかない。彼女が引き金を引く前に終わらせる。
リオネッタは糸をぐっと手繰り寄せる。本来あるべき理科室から倉庫に仕舞われていた、人体模型。それもまた
「ぎゃーっ!? うるる食べても美味しくないよ!」
うるるの手から銃が離れた。そのまま押さえ込み、人形糸で縛る。とにかくこれで脅威はひとつ去ったはずだ。まだまだ向こうから魔法少女は押し寄せてくるはず。心苦しいが、ソラミの相手はクランテイルに任せるほかない。
「うぅ……でもこんなのすぐ抜けちゃうんだよ!」
「……! まずいデス! ここはワタシが殴って黙らせマス! そっちは他の連中の相手を!」
「言われなくてもわかっておりますわ!」
「えっ!? な、殴っちゃダメなんだよ! さ、幸子! まだなの!?」
「観念するデス! 必殺銃は奪ってあるデスよ!」
なんだか後方はうるさいが、リオネッタは鉤爪を展開し、壁を切り抜き、瓦礫を積み上げ、即席人形を用意していく。プク派の魔法少女に武闘派は少ないはず。その証拠に、まず飛び込んできたスポンジでもこもこの魔法少女は、こうしてコンクリート人形で殴りつけると一撃で吹っ飛ばされて昏倒する。
「あぁっ……! よくも、マジカルポンジーを!」
飛び込んできた魔法少女は強靭な爪を奮ってくる。リオネッタの鉤爪ですら軋む、脅威の爪だ。確か──プク派の情報を集めようとして聞いたことがある。名は獣人ブランディア、だったはず。チタンすら切り裂く爪となると、リオネッタの人形すら切り裂かれるということ。繰り出される攻撃を逸らし、人形を盾にして、壁のコンクリートにあっさり刻まれる爪痕に戦慄しながら、少し食らっただけで体に穴が開く爪よりはマシだと、リオネッタは笑った。
「まったく……! 私にこんなことをさせて、本当、頼みましたわよ……!」