魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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決戦開幕Ⅱ

 ◇レーテ

 

 遺跡への入口がある中庭へ急ぐ。高速移動手段を持つ魔法少女と同時に動けるのは、距離を操作できるレーテ自身と、現身の身体能力を持つスノーホワイトくらいなもので、自然と自力で同行しているのはレーテとスノーホワイトだけになった。他の魔法少女はシン・ソニックに掴まるかプフレの車椅子に掴まるかしていたが、猛スピードに振り落とされそうになり、特にシャドウゲールなどかなりグロッキーだ。ディティック・ベルも、精神力では持ちこたえようとしているが、これ以上消耗させるべきでない。

 

 そこらの魔法少女ではとても対処出来ない速度で、入口そのものには到着している。だがそれでも既に敵の勢力は待ち構えていた。元より遺跡の防備は堅い、そのくらいは予想してある。さらに中庭を広場にして集まっていたプク派魔法少女のうちいくらかはその場に残り、とにかく突っ込んできたこちらを追ってきている。彼女らに向けて、まずは一刀抜いてやることにする。枝分かれした刃を持つ宝剣が引き抜かれ、唸りをあげた。

 

衆生地に伏せ(アメノハバキリ)

 

 直撃すれば並大抵の魔法少女は死ぬ。よって、地面に向けて放つ、という加減はしてやった。それでも余波だけで、有象無象は吹き飛ばされ、最前列の動きが総崩れとなって、追手の波が途切れた。しかし後方はどうにかなったとしても、遺跡の方に待ち伏せしている相手はどうにもならない。この先を進むには、振り切らなければならない相手が構えている。

 マスカレイドの1個体だろう。だが、その背には見覚えのある黒い『羽』が四つ。入口を覆う壁へと変化し、佇むマスカレイドに従っている。他とは一線を画す存在感。間違いない。あれは──魔王パムだ。

 

「ここは、私が」

「いや。私が残る。プク・プックの相手をすると、決めたであろう」

「……あれも性能では引けを取らないと思う」

「だからこそ、だな」

 

 魔王パムの遺骸から作られたマスカレイドなど、あってはならない兵器だ。既に攻撃態勢に入っているプリンセス・ランタンを制止して、レーテは単身で前に出る。広域を破壊することが可能な相手だ。場所を変えなければ、そもそも遺跡が入口ごと崩壊する恐れがある。

 

「片付けてすぐに追う。私に任せて行くがいい……生きて戻るんだな」

 

 スノーホワイトのことは心配だ。彼女は全てを捨ててでも成し遂げようとするだろう。そうなる前に、決着をつける。レーテは振り返ることなく、宝剣を手にマスカレイドへと斬りかかり、硬化し同じく武器と化した羽に受け止められながら、己ごと一気に遺跡から遠ざける。戻ろうとする暇は与えない。斬撃に次ぐ斬撃、相手もまた応戦に切り替え、火花が散る。

 

「公爵夫人とじゃれあえるなんて! 楽しくなってきたじゃない!」

「悪いが長くは遊んでいられないのでな」

「つれないこと言わないでよ! 私は最強のマスカレイド、プリンセス・デモン! 退屈はさせないわ!」

 

 襲い来るはスクリューに毒液に閃光、同時に対処を強いられる。遠ざけるだけで捌ききれるものではない。武器は宝剣で押しとどめ、閃光は目を閉じあえて浴び、毒液は肌に触れる空気の感覚だけで回避、今しがた使っていた宝剣は手放し、今度は宝物庫から別の刃を引っ張り出す。

 

十派彼に為せ(アメノヌボコ)

 

 巨大な刀身を持つ槍が抜き放たれ、一薙ぎは黒い羽を切り裂いた。だが相手が魔王パムならば、すぐさま羽は分裂して復活する。その場しのぎだ。ならば純粋に手数を増やす。神槍を片手に構えたまま、もう一方の手で手繰り寄せる。

 

万天無に還せ(アメノオハバリ)

 

 振り抜いた瞬間に刃が三又に分かれ、迫り来る攻撃を切り刻む。いくら破壊しようが絶え間ない攻撃はなるほどさすがは魔王のマスカレイド。宣言通り退屈はしまい。レーテは高揚する己に気付きながら、両手に握る柄に力を込めた。

 

 

 ◇シン・ソニック

 

 遺跡の内部は入り組んだ構造だ。スノーホワイト曰く『励起されていない』状態であるらしく、本格的な防護の魔法などは起動していないという。それでも複雑は複雑で、ぐるぐると同じところを回らなければ先に進めないという魔法のかかった道など、シン・ソニックひとりでは絶対攻略できない場所を越え、さらに入り組んだ道を進んで、ようやく分岐点らしい場所に立った。

 

「また分かれ道、だね」

 

 これまでは奥に進むため、スノーホワイトの探知能力や、ランタンの放つ光で奥を照らし、シャドウゲールがレーダーを使うなど、色々と手を尽くしてきたが、それもそろそろ確実性に欠けてくる。そこで前に出たのはディティック・ベルだった。植物の根が複雑に絡み合って形成されているが──遺跡は『建物』だ。それはつまり、ディティック・ベルの魔法が使えるということに他ならない。ただし、遺跡そのものに魔法を使えばどうなるか、その保証はない。皆が見守る中、最終手段として、彼女は根の壁にキスをする。

 

 普段なら、彼女の魔法で現れるのは顔だ。カートゥーン調の顔面が壁に浮かび上がり、自我を持って話してくる。だが、今回はそうではなかった。魔法少女たちの目の前に現れるのは──完全な人型。光に包まれた影、だった。

 

「……やっぱり。学校にキスをしても貴方が出てきたのは……この遺跡とひとつだったからなんだ」

「先生、この人知ってるの?」

「うん。ここまではっきり見えたのは初めてだけど」

 

 人影は話さない。代わりに、ディティック・ベルに向かって手をかざす。彼女はそれを受け入れ、歯を食いしばり顔を歪めながらも、耐えきった。息は荒いが、直接情報が流れ込んだらしい。

 

「ここから正解……というものはないって。別の場所に繋がってる」

「つまり……?」

「例えば祈祷の間とか、そういう感じ」

「あちらからおうじさまの気配がしますわ!」

「こっちには心の声がたくさん。ラズリーヌはこっちにいる」

「ではこちらの道は?」

「倉庫……みたいな。守りは薄いけれど、それほど重要なものもないみたい」

「倉庫か。ならばそれでも良いだろう。我々でこちらを行こう」

 

 自然と、分岐点と同じ3つに分かれることが決まる。シン・ソニックは1班、つまりトーチカ救出班。アイの直感を信じ、彼女と共に行く。ラズリーヌのことは、ディティック・ベル自身と、スノーホワイトがどうにかしてくれる、そのはずだ。プフレたちは倉庫の方から、儀式の阻止を画策するらしい。

 

「道は決まったね。では──レーテの言う通り、生きてまた会おうじゃないか」

 

 プフレの言葉に、ただ頷く魔法少女たち。ただシン・ソニックは、アイもマスカットも、スノーホワイトも頷こうとはしなかったのを見ていた。プフレも気づいていただろう。そのうえで何を言えることもなく、魔法少女たちは先に進む。ディティック・ベルとスノーホワイト、そしてプフレたちを見送って、それからシン・ソニックを先頭に、決めた道を走り出す。誰よりも速く、だ。だがただでトーチカのところに辿り着けるとは思っていない、当然その間には、立ちはだかる者がいる。シン・ソニックの目の前に、場違いな黄色の物体が転がってくる。咄嗟に蹴り飛ばして、直後にその物体は爆発し、周囲に酸っぱい匂いを撒き散らした。

 

「……これって」

 

 正体は理解した。この先にはマスカレイドがいる。それも、最悪の──。

 

「簡単に会いに行かせると思ったかしら。そんなわけないわよね」

「美しくない者は通すなって、言われてるもの」

 

 現れるマスカレイドはふたり。一方は初めて見る魔法少女だが──噂では知っている。監査部門において、誰よりも美しく伝説になったと言われる魔法少女の力を使っているのだろう。監査に殉じた伝説を愚弄する、それだけでもシン・ソニックにとっては怒る理由だ。

 だが、それよりも何よりも。怒るべき理由がそこにいる。

 

「貴様らレモネードの遺骸までも利用し愚弄するか恥を知れこの他力本願仮面がこの私が成敗する正義を執行するみんな力を貸して!」

「立ちはだかるのなら退かすまでですわ」

「……やっぱり。そうだよね。ベクトリアの話を聞いた時……こうなるかも、って思ったよ。だからって……許せるわけない、あなただけは、許せないんだから……っ!」

 

 トーチカ救出までは目前。現れた壁を前に、マスカットは銃を抜き放つ。シン・ソニックは背中を彼女に任せ、誰よりも速く、飛び出した。

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