魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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プラリーヌドリーム

 ◇キューティープラリーヌ

 

 校舎が揺れている。視聴覚室に籠っていても、激しい戦いが起きているのがわかる。だからって、出ていこうとも思えない。何も出来ないのは知っている。校舎ごと揺るがすような相手に、プラリーヌが何をできると言うのだろう。アニメの世界じゃあるまいし──。

 

 外の世界から切り離されたように流れ続けるキューティーヒーラーは、ついに最新作、『キューティーヒーラーショコラティエ〜ル!』まで到達していた。主人公であるショコラが、アニメの中の天戸蜜月(プラリーヌ)に呼びかけている。

 

『何もできないなんてこと、ないよ』

「……」

『蜜月ちゃんがいれば、変わることが必ずある。助けられる人だって増える。私だけじゃできないことがたくさん……だから! お願い、力を貸して』

 

 ──それはきっと、プラリーヌじゃなくてもいいことじゃないのか。聞きたくない。アニメの中の自分は、きっとどこまでも美化されていて、ショコラの願いを聞き入れるだろう。今ここにいる自分にはそんな力はない。希望に満ち溢れたそのスクリーンが、どうしようもなく眩しくて、響く声に耳を塞いだ。蹲ったまま、地響きだけを感じながら、何もかもが終わって、何も起きなかったことになってほしいと願っていた。

 そんな自分の目の前に、黒い影がさす。カランと転がってきたのは、魔法の端末だ。回収されたプラリーヌのもの、ではない。青い彗星をモチーフにしたシールが貼り付けられているのは、それがブルーコメットへに憧れた思案のものであることを示している。どうしてそんなものがここに転がってくるのか。顔を上げて、そこにいるのがペンギンではないことを認識する。立っていたのは、あの時思案を殺したその人、奈落野院出ィ子だった。

 

「……なんで、こんなもの、今さらぁ……」

 

 見上げたせいで、初めて、フードに隠れた出ィ子の顔がわずかに見えた。その表情は何かを押し殺している、ような。言葉は帰ってこない。ただ転がっている端末の画面を見ると、そこにはランユウィからのメッセージが表示されている。日付は──今日。思案は死んだ、それなのに、わざわざメッセージを送っていて、それを出ィ子が見せてきたということは──だ。

 その思考に行き着くと共に、すぐさま端末を拾い上げた。

 

『約束、果たしてくる』

 

 短い一文だった。出ィ子にこれを託したのもランユウィなのか。

 

「ランユウィは」

 

 これまで一言も喋ろうとしていなかった出ィ子が口を開き、そのことに驚いて、慌てて振り向いた。

 

「遺跡の奥に向かった」

 

 ランユウィは戦っている。既に、オールド・ブルーの言いなりではなく、託されたもののために。そして戻っていない。いや、それはもはや関係ない。彼女は、思案が倒れても、自分が戦っていることを伝えたかったのだ。端末を握る手に力が籠る。だからって、どうすればいい。プラリーヌが立ち上がったって、その結果はいつも……。

 

「そうそう。そんなメッセージだけじゃ、現実は変わらない。ランユウィちゃんも、もう死んでるんじゃないかな〜?」

 

 やはりこんな時にだけ、ペンギンは現れる。プラリーヌに現実を突きつけようとしてくるのだ。わかっている。動けないでいるのは、彼女の思う壷だと。まるで目的の読めないキューティーペンギンだが、きっと、プラリーヌを籠の中に閉じ込めていたいのだ。何もできないくらいなら思い通りでいい、なんて、諦めた。だけど、ランユウィは動いていて。

 

「お前は主人公だろう」

 

 いきなり現れる黒い影が増えた。その影に溶け込む真っ黒な姿は、プラリーヌにとっては先輩だ。ペンギンはその姿を見るや否や、明らかに嫌な顔になって、皆の視線が彼女に向かう。その名はダークキューティー、シリーズの中でも異彩を放つ、闇色の魔法少女だ。そもそも広報部門に籍を残していない彼女がなぜここにいるのか、ペンギンが同じく「なんでここに」と呟いても当人は一切答えず、プラリーヌの目の前に立つ。

 

「生徒達は皆戦っている。ディティック・ベルもだ」

「……でもぉ」

「お前はキューティーヒーラーなんだろう」

「……もう、そんなの……失格で……そもそも、私、主人公じゃないしぃ……黄色はサブ、主人公にはなれないって」

「違う」

 

 ダークキューティーはプラリーヌの言葉を遮って、言い切った。

 

「お前のキューティーヒーラーは、お前だけのものだ。それが駄作か打ち切りか、それとも愛される物語か、決めるのはお前自身だ」

「……あのさぁ。悪役さぁん? ペンギンちゃんのプラり〜んにさぁ、余計なこと吹き込まないでくれる?」

「停滞が好みか、キューティーペンギン」

「どうせ主役を成長させるのも悪役の仕事だとか思ってんでしょ? 成長は! 先輩か! 自分自身の仕事!」

「成長を拒んでいるのはお前だろう」

 

 瞬間、校舎が激しい振動に襲われる。カーテンをめくると、巨大な魔法少女がおぞましい蛸の触手のようなものと組み合って、校舎に激突してきている。そのせいだ。巨大魔法少女は絡みつく触手にもがき、噛みつき、ちぎり飛ばした触手がまたその質量で校舎を揺らす。

 その激しい揺れはこの視聴覚室の配線をも揺らす。放映中の『ショコラティエ〜ル』が乱れ、やがてぶつんと途切れ──それを合図に、部屋の空気が凍りつく。

 いや、現実に床が凍っている。ペンギンの魔法だ。同時にダークキューティーの作る影絵が動き出し、氷上を舞い蹴りを放つペンギンの攻撃を弾く。しかし猛攻は止まらず、次々と繰り出されるキックの数々。その度に氷の粒が散り、キラキラと光り、そして影が蠢き、光を呑む。

 

「あははっ! 追加戦士になれなかったからって、ペンギンちゃんにコンプレックス炸裂させてるんじゃないのぉ!?」

「キューティープラリーヌにはこれが必要だった、それだけだ」

 

 キューティーペンギンはダークキューティーが押さえている。ならばプラリーヌは──どうすればいいというのか。その手を引っ張ったのは、奈落野院出ィ子だった。今の校舎全体への衝撃で割れた窓から、飛び出すように促される。彼女は何も言わない。が、ランユウィが望んだから、こうして動いているんだろう。ここにいない班員のことを想いながら、プラリーヌは体を宙に躍らせた。駄目、プラりん、なんてペンギンが止める声がして、それでも壁を駆け降りる。

 

 飛び出した先、巨大魔法少女だけでなく、各地で魔法少女たちが戦い続け、衝撃が走り爆発音がして血が迸っている。この最悪の混乱の中で、すべきことを探し出さなくては。

 

 そうして真っ先に目を引いたのは、轟く雷鳴。あれは──間違いなく、クラスメイト。プリンセス・ライトニングと、アーデルハイトだ。その後方で屈んだままのジュエリーゼリーは酷い怪我をしており、体にまとわりついた真っ赤なゼリーの存在が、傷口を塞ごうとした形跡になっている。ライトニングもアーデルハイトもそれに負けないくらいボロボロで、それでも戦い続けている。

 

「……必要、だよね。ヒーローが、さぁ」

 

 自分になれるだろうか。不安と無力への恐怖はまだずっと居残っている。それでも、踏み出さなくては、物語は動かない。キューティープラリーヌは私のものだ。

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