魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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2+3=無限大!

 ◇雷将アーデルハイト

 

『敵性魔法少女、沈黙! お疲れ様!』

「あぁもうホンマにキリないなぁ……!」

 

 クラブのジャックの風船遣いは援護に徹し、前線には出てこなかったが、強引にでも切り込んで倒した。せっかく倒した魔法少女を風船人形にしてもう一度使役してくる奴を、残してはおけない。一度倒したはずなのに立ち上がってきた侍風のマスカレイドがそれだ。今は風船がしぼんだような奇妙な残骸となって転がっている。

 

『敵性魔法少女接近中……! また絵札が来てる!』

 

 アルメール・プロトコルからの声に息を吐く間も無く、次の敵が襲ってくる。

 今度は見覚えのある相手。そのコスチュームのスカート部が回転ノコギリのように変化し、高速回転しながら突っ込んでくる。武器に変化するこの魔法、もしかしなくても魔王塾の顔見知りが持っていたものだ。軍刀を当て弾き、ゼリーの装甲を削られながら、ライトニングが放つ矢印の群れで逆回転の力を加え、弱めた瞬間に本体に刃を浴びせかかる。スカートが盾に変化して止められるものの、矢印が持つ力で吹き飛ばされていき、そこへ雷撃を放ち追撃。炎を纏うことで相殺され、またしても向かってくる。受け止めながら、こんな厄介な魔法を持って逝った持ち主に悪態を吐いた。

 

「ロゼットの奴……っ、1回なんかテロ組織に使われたんやろ!? 2回もいいように使われるってなんやねん!?」

「この魔法の持ち主のこと? あら、知り合いなのね」

「あぁ知り合いや。そのスカート使うんやったら……ちゃんと技名叫びや!! 『閃手必勝(カイザーシュラハト)』!!」

「その技ならもう知ってるわ……」

 

 軍刀に纏わせた電撃を、電線に変えたスカートで受け止められ、さらに地面へと逃がされる。ロゼットの魔法は柔軟だ、対策されてはアーデルハイトの電撃は通じなくなる。だろうが。アーデルハイトはひとりで戦っていない。

 

「あら、これならどうかしら」

 

 そこに立っていたのはライトニング。しかしその衣装は赤熱した熔岩色だ。無論、その手の銃砲から噴き出すのは電撃ではなく灼熱の火砕流。スカートを変化させて防御しにかかるが、どれだけの壁であろうと相殺がやっと。ロゼットの魔法は破壊された時、一度布のスカートに戻さなければ再びの変化は間に合わない。アーデルハイトが飛び込み、首元に留まっているプリンセス・ジュエルを斬り飛ばす。

 

「あっ──!」

「さぁ! 仮面は剥げたわ、耐えられるかしら!」

 

 二度目の火山弾。今度は体を守る壁はない。灼熱の中に飲み込まれ、ロゼットのマスカレイドは跡形もなく吹き飛ばされる。残ったのは奪い取ったジュエルだけだ。

 

「ふふ、自分殺しにも慣れたものね」

 

 ライトニングにとっては同じ顔、どころか本来は同じ存在。紛うことなき自分殺しだ。ただ、彼女自身がそれを気にする様子はない。そういう奴だ。新たに手に入れたロゼットのジュエルを使い、回転ノコギリスカートにしてみせ、いいわねこれ、なんて言いながら地面を蹴って、残っていた連中に突撃、逃げ惑う魔法少女たちをアルメールが的確にロックオンしてくれ、その通りに電撃で撃ち抜いていく。

 

「さあまだまだ行くわよ! 『盗腐琉悪苦世琉(トリプルアクセル)』!」

「ああーっ! ちゃうって! その技は『剪断する刻の衣(サーキュラースカート)』や!」

「知らないわよそんなの! ほら電気を纏ってる、これ私のオリジナルよ」

 

 そう言われると何も言えない、塾生同士でもたまに技のリスペクト……というか模倣はあることだ。たいていは魔法を活用した技なためできるものならやってみろ、というものだが、自分のものにしたならば名前をつけ直すこともある、と聞いたことがある気がする。とにかくそろそろ一度落ち着いてきただろうか。今は絵札もいない。隠れていたジュエリーゼリーのところに戻り、その様子を見る。

 

「大丈夫かいな、ゼリー」

「うん。はみ出たわたもゼリーでこの通り。真っ赤なゼリーのゼリーさんだよ」

『トナカイの原型ゼロだね』

「……もう少し、頑張ってもらえへんか。今ので装甲が剥げてもうて」

「うん。アーデルのためなら、頑張れるよ」

 

 ぽこぽこと出現するキューブのゼラチンたち。形を変えて、装甲となってアーデルハイトの体を包んでくれる。出来は上々、壊されて作り直してもらうたびにアーデルハイトの体にフィットしている気がする。

 

「……よし! これでまだまだ戦えるわ。ありがとうな」

「お役に立ててなにより。私は……まだ隠れてるしかできないけど」

「なんや、怪我人はじっとしとき。中庭で大暴れするんはうちらの役目や。生きて帰ろうな」

 

 何気なくかけた言葉がジュエリーゼリーには安心の元になってくれたらしい。ふっと笑みが見られて、アーデルハイトは気合いを入れ直す。

 

『すまない、話の途中だけど敵魔法少女だ!』

「うおっ!? この空気の読めへん攻撃は!?」

 

 そこへ飛び込んでくる熔岩の弾丸。ライトニングがスカートを盾に相殺してくれ、次の一撃にはしっかりゼリーを纏わせた一閃で熱を相殺しながら切り伏せることに成功する。しかしこの火山弾、またボルケーノを使ってくる奴がいるのか。顔を上げ、その正体を見た。

 

「ここで会ったが……百年目! 雷将アーデルハイト! プリンセス・ライトニング!」

「……どれ? 見てもわからないわ」

「まあ、顔とか一緒やもんな」

「なっ……私よ私! あなた達に二度も負けて……私は自分自身をジュエルに変えて、生まれ変わったわ。このハートのエースにね!」

 

 二度も負けている……ということは、あのマスカレイドの意識は最初にアーデルハイトが出会った敵、クラブの9のマスカレイドだろう。それをハートのエースが使うことで意識を引き継ぎ、ボディの性能を変化させた、と……なんだかややこしいことになっている。アーデルハイトは眉間に皺を寄せ、ライトニングは涼しい顔のまま、胸を張るクラブの9改めハートのエースを相手に武器を構えた。

 

「ふ……いいのかしら? 今の私はエース級……あなたの攻撃なんて効かな」

「『爆流刑乃終斗(ボルケーノシュート)』」

「ぁあっツい!? ちょっ、氷の力! 氷の力! 冷やして!」

 

 喋っている途中で容赦なくぶち込まれた灼熱の弾丸。まともに食らった彼女は悶え転がりながら、その途中で彼女自身から冷気を発し、受けた灼熱を中和しようとし始める。それだけではない。その手には様々な属性を帯びたエネルギーが渦巻き、ひとつの剣として実体化しようとしている。

 

「くっ……卑怯な手を! こうなったら! この、ボルケーノ改めてプリンセス・オールエレメント! 8つ全ての力を以てあなたを滅ぼすわ……!」

 

 現れるは長剣。そして彼女の背後には、告げたとおり8つの珠が浮かんでくる。それらは違う属性のエネルギーを纏った集合体であるらしく、あるものは燃え、あるものは冷気を漂わせ、あるものは光を放ち……と、それぞれ別の力が盛れ出している。それらが一斉に動き、独立して一気に放出、火炎やら光線やらが雨霰と降り注いでくる。中庭が破壊の渦に巻き込まれ、アーデルハイトは自分に向かってくる電撃を受け止めて吸収、電撃以外は斬り捨てて、そんな対処が精一杯。ライトニングも同様だ。ボルケーノやロゼットによる迎撃と防御を重ね、彼女自身には攻撃は届かない。だが──オールエレメントの視線は、違う方向に向いている。

 

「そうだわ! 確かそこに! お仲間が隠れてたわよねぇ!?」

『アーデルハイト! あいつの狙いは──!』

「言われんくても! わかっとる!」

 

 ジュエリーゼリーだ。アーデルハイトは電撃から掠めとったエネルギーを脚から放出して一気に後退し、援護に向かう。ライトニングはむしろ攻め込むべく、炎と雷に切り替え、ふたつを混ぜ合わせた新技を炸裂させ、しかし8つものエレメントを重ねた防護壁に止められてしまう。ジュエリーゼリーを守りながらではやはり攻め手が欠けている。このままでは勢いに押し潰される。ジュエリーゼリー自身も、顔だけを出してゼリーを放ち、弾ける力で攻撃の嵐を受け止めようとする。それでも防戦一方。ひっくり返すには、まだ手札が足りないというのか。

 

「これで! 終わりよ! 最後はあなたたちが最も屈辱な雷で殺してあげる! さあ、これでおしまい──」

「そうはいかないよぉ」

 

 雷を纏ったはずの剣に叩きつけられる大量の液体。謎の流体は激しく焦げながら雷のエネルギーを包み、オールエレメントの剣はキャラメルコーティングされてしまった。プラリーヌの『魔法の砂糖で包み込む』魔法だ。剣を無力化され、なによこれ、と喚く間もなく、さらに琥珀色のハンマーで殴りつけられ、大きくぶっ飛ばされていく。懐に潜り込まれては防護壁も意味をなさず、クリーンヒットだ。もろに受けたオールエレメントはハートのエースがゆえの耐久力で立ち上がってくるが、怒りの色は激しく、前が見えていない。

 

「今だよぉ! 班長!」

「ええそうね、配置は完了よ」

 

 オールエレメントが放とうとする光線の数々、その先に敷き詰められているのはゼリーと、それに包まれたベクトリアの矢印たち。怒りに任せて放つ攻撃は、ゼリーが吸収し、そして溜め込んだそれらを、ゼリーが弾けると同時に矢印たちがひとつに集束させていく。

 

『アーデルハイト!』

「なるほどな──行くで! 『禁城鉄壁(ジークフリートリーニエ)』……から、のぉ……!」

 

 集束したエネルギーは普段のアーデルハイトでは扱いきれないような超高出力だ。それでも、アルメールの演算が最適なポーズを算出、ゼリーの鎧が余波の吸収を助け、そして中央めがけて掲げた軍刀にはベクトリアの矢印が張り巡らされて破壊を防ぎ、そしてそこへプラリーヌの砂糖細工の篭手を携えたライトニングが歩み寄り、手を添えてくれる。

 

「まさかうちらで合体奥義やるなんてな」

「ふふ、そうね。技名、どうしましょう?」

「そやな……学級目標決めたりしてへんもんなぁ」

「どうせなら私たちの名前にしましょう」

「……しゃーなしや! もうええ、全員ぶん突っ込んだるわ!」

 

 軍刀、タブレットの演算、矢印、ゼリー、砂糖細工、雷の剣、そこまで重なって、初めて出来上がる一撃。その名は──! 

 

「『高貴(アーデル・)煌々(アルメール・)勝利(ビクトリー・)燦々(ジュエリー・)甘露(プラリネ・)迅雷(ライトニング)』!!!」

 

 なんだこの技名は、と自分でも思いつつ、貫く先を見据え、思いっきり投げつける。ソニックブームを放ちながら突き抜ける刃は、一筋の雷となりて敵を射抜く。オールエレメントは防護壁を八重に展開するが、ひとつ、ふたつと耐えきれなくなり、炎は掻き消え水は散り、風は止み土が割れ、雷は食われ氷は解け、光は呑まれ、そして最後に闇が晴れた。

 

「──なんてこと。強いのね、あなた達は」

 

 最後にそう吐き捨てて、迸る友情に飲み込まれてゆくオールエレメント。轟音の果てに衝撃がやっと収まった時、辺りは静寂に包まれ、そこに敵の姿は残っていなかった。

 

『今度こそ。敵性魔法少女、完全に消滅です』

「……っ!! よかった……よかった、よぉ」

「あらプラリーヌ、あなたそんな抱きついてくるようなキャラだったかしら」

「こんな時くらいハグしてもいいじゃない〜?」

「……ふぅ。いやほんま、今回は死ぬか思うたわ」

「平気。私たちは死なない。私が守るもの」

 

 緊張の反動のせいか、魔法少女たちからはいつもの軽口が飛び出しつつあった。アーデルハイトは爆発の痕から軍刀と、刀身を失った剣の柄を拾い上げ、剣の柄はライトニングに渡す。どっちもボロボロだ。それでも共に戦った証。自然に、ふっと笑みを交わした。

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