魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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エピローグ
青の跡で


 ◇ブルーベル・キャンディ

 

 遺跡は崩壊、儀式は失敗、プク・プックはその崩壊に巻き込まれて帰らぬ人となり、オールド・ブルーはそもそも儀式の最中で生贄となったという。地上に飛び出してきた柱は何をすることもなく宝石になって爆ぜ、魔法の宝石の相場が崩れたとかなんとか。ルールーは必死に拾い集めていたと聞く。

 

 問題は、この後だった。

 研究部門の大半は、このプク派の後ろ盾のもと、この儀式やらプリンセス・マスカレイドやら、関連事業のために力を注いでいた。ラズリーヌ候補生たちも同じである。しかし、オールド・ブルーとプク・プックがまとめて失われ、ついでに遺跡も壊れてしまった以上、そのほとんどが路頭に迷うと言ってもいい。マスカレイドたちは絵札のほぼ全員が死亡。残っている個体も少しだけだ。候補生はマスカレイドほど減らされたわけではないが、それでも従うべき相手がいない。『ラピス・ラズリーヌ』は2代目がいるが、あの子は面倒見はよくても、組織の代表には向かないだろう。それに、彼女には一緒にいるべき相手がいる。次のラズリーヌはブルーベルに決められていた、と師匠は言っていたが、名はあの子が継いでいく。それ以外は、こちらに降ってくるわけだが。

 

「ってことでさ」

 

 向かいに座る魔法少女2名、氷を纏う人魚姫に、いくら魔法少女御用達コスプレ喫茶でも目立つキラキラのお姫様のふたりに、かねてより話そうとしていたことを告げる。

 

「もう、自由だから」

 

 自分たちが抱えている計画はどこにもなくなった。研究部門は、活動停止とはいかずとも、主要な研究室がひとつ潰れた。以前のように動けるかどうかはジューべの腕次第といったところだろうか。ラズリーヌ側には、そもそも関係がない。よって、プリンセス・デリュージ、エタニティ・プリズムチェリー、ふたりはもうこちらに協力する必要はない。デリュージが魔法少女で居続けるなら薬剤の支援は必要かもしれないが、それだけだ。ブルーベルとしては、これまで散々な目に遭わせてきた自分たちとは縁を切り、魔法少女らしい道へと進めばいいと、吐き捨てるように思っていた。

 

 実際は違う。デリュージもプリズムチェリーもすぐに席を立ち出ていくようなことはない。むしろ、デリュージの方に目を合わせたままだ。

 

「責任は取ってもらうから」

「……はい?」

「こんな体にした、責任」

 

 語弊がありすぎる。確かに彼女らに降りかかったものはだいたいこちらに責任があることかもしれない。人造魔法少女にしたのはオールド・ブルーだ。ゲヘナなんてのを作り、プリズムチェリーを巻き込んで、フォーシーズンズがその力を託す遠因になったのもオールド・ブルーのやったことだ。ついでにマスカレイドシステムにあの猟奇殺人鬼を採用したのもオールド・ブルー。つまりだいたいオールド・ブルーのせいだ。そしてそれは、後継としてしっかり継ぐ必要のある責任だった。自由を盾に放棄するのは許さない、と。そういう目だった。

 

「行き場のないみんなの面倒も見てるんですよね。私もお手伝いできたらなって」

「それは凄く助かるけど」

「これからよろしく。新リーダー」

「え、あ、私がリーダー?」

「そうでしょ?」

 

 散々利用しようとした負い目が多少あって、デリュージには強く出れず、そしてプリズムチェリーもデリュージに強く出ないため、押しの強さに負けた。

 

「……ルールーも連れ戻すかあ」

 

 例の事件の後、真っ先に出ていき行方を眩ませた0・ルールー。彼女は今頃何をしているだろう。這いずってでも生活はしているだろうが……こちらを手伝ってもらわなければ。出ィ子やランユウィがいるにしたって、勝手のわかる魔法少女がいないと困る。あのオールド・ブルーは何もかも駒としてしか見ていなかったとはいえ、ルールーのことはかなりのお気に入りだったようだから──ついでに、彼女自身のためにも。

 

 

 ◇キューティーミント

 

「やだぁ〜! かわいくな〜い!!」

 

 教育係の先輩たちに連れられて、どこに行くのかと思いきや、そこは『反省部屋』と題された部屋の中だった。物々しい、明らかに広報部門のイメージ的によろしくないものがずらりと並んでいる。部門の建物にこんな部屋があることにも驚きだし、しかも実際撮影とかではなく普通に使われているのも驚きだった。石畳の上で、正座させられている魔法少女がいる。いや、あれはただの正座ではない。思いっきり膝に石のブロックが積まれている。つまりあれは江戸時代の拷問で知られる石抱だ。ひぇえと泣いてわめいているのは、白黒の魔法少女、キューティーペンギンだ。重さ自体よりも、この状態がかわいくないことに悲鳴をあげ続けている。

 

「あ、あの……な、なぜこれを……雑草たちに……」

「いやあ久しぶりに反省部屋使われてるからね。みんなも知っておいて欲しいなと思って。やらかしたらここに送られることがあるんだよ」

「うわぁ……」

「反省と言うより拷問……」

 

 同行した同僚たちもドン引きだ。確かに教育係であるところのキューティーヒーラーストライプは広報部門の中でも随一の反社会的集団とされているが、まさか拷問部屋まで備えており、ついでにやらかしたメンバーへの制裁にも使われるとは。石抱中のペンギンを取り囲むオルカにゼブラにパンダは誰も慈悲を示さず、背筋が凍る。

 

「それにしたってプラリーヌにしたことはやりすぎだけどね。煽るしなにもさせないし、広報部門への応援要請はストップさせてるし! 好き勝手しすぎ!」

「だってぇ……プラりんが可愛すぎるからぁ……」

「意味わかんない言い訳すんな! 石追加!」

『特別に2倍乗せます』

「そんなぁ〜! 重いよぉ〜! かわいくないよぉ〜!」

 

 先日の事件はすさまじい大規模で、魔法の国の上層部すら揺るがす大事件だった……と聞いている。後ろ盾であるプク派からも、同盟相手であるところの人事部門からも、両側から人を出せと本来なら話が来ているところだった。両方を自分のところで握り潰していたのはペンギンのせいである。おかげでプラリーヌは散々酷い目にあったと聞いている。

 

「あ……そうそう。ちゃんとパールさんも呼んでるから」

「……えっ」

 

 その名を聞いた瞬間、ペンギンの顔色が変わる。さーっと青ざめているのが明らかに見て取れた。キューティーパール、それはつまり初代キューティーヒーラー。……ミント自身も、もう二度と彼女のことは怒らせたくない。散々ストライプに無茶苦茶な訓練をさせられているショコラティエ〜ルの間でも、パールに逆らってはいけないのは共通の認識だ。

 

「そ、そんな、それだけは」

「今回の件……初代普通に怒ってるんだよ?」

「私たちも連帯責任でしばかれたんだから……」

『骨は拾ってやる』

「いやぁああーっ!!」

 

 これはまあ……プラリーヌに散々嫌がらせをしたという彼女の自業自得だ。またしても悲鳴をあげる彼女に対し、この場に連れてこられたミント、ラム、フレーズ、そしてショコラ、一同まとめて偉大な反面教師とするのだった。そこへ、反省部屋の重く軋む扉を開き、少女が現れる。

 

「あ……本人」

「……ペンギン先輩」

 

 他ならぬ、プラリーヌ自身だった。彼女は真っ直ぐ、ペンギンの前にまで来ると、深く息を吸って、吐いた。

 

「ペンギン先輩の推薦のおかげでぇ……私、ここにいます。何かと守ってくれてるっぽかったのも、なんとなくはわかってる……つもり、です。キューティーヒーラーになれたことは、感謝してます」

「……プラりん」

「それはそれとして、散々嫌がらせしてくれましたねぇ。反省してくださぁい」

「えっ? あれ?」

「あ、石追加しときますねぇ」

「プラりーん!? それ許してくれる展開じゃないの!? ねぇってば、っ重ォ……!?」

 

 しっかり笑顔で石を追加。ペンギンから可愛くない声が漏れ出たところで、こっちに戻ってきたプラリーヌの顔は晴れやかだった。

 

「……平気……なんですか? 色々……あったって、聞きましたけど……」

「プラリーヌちゃん……無理しないで休んだっていいんだよ? 膝枕してあげようか?」

「大丈夫。微力は微力で、何か出来るって学んだからねぇ。これからは、出来る限りの全部で、ゆるりとヒーローやってくつもりだよぉ」

「フフ、いいじゃないか。踏まれた向日葵は倍の種をつけるように、だね」

「え、そうなの?」

真っ赤な嘘(レッド・フレーズ)だよ」

 

 心配するラム、好き勝手に言うフレーズに、照れくさそうにしながらも甘ったるい言葉で続けたプラリーヌ。ミントがそれを聞いて安心すると同時に、ショコラがふいに大きな声を出した。

 

「……っいよし! トキめいちゃった! 行こうプラりん! これから地道なヒーロー活動だ〜!」

「あはは〜、悪くはないのかも〜、ねぇ」

 

 ショコラティエ〜ルはそもそも集まりが悪い集団のはずだったのだが──最も出席率の低いプラリーヌがこうもキューティーヒーラーに積極的になるとは。ミントにはちょっと予想外で、不思議なことだった。

 

 

 ◇絶死の芳香葱乃(ねぎの)

 

「ついに……ついにここまで来た」

 

 真新しい店内にはドラゴンの装飾。店外にもドラゴンの装飾。なぜかタオルを頭に巻き、腕を組んで記念撮影をする店主。なぜか一緒にやらされる協力者たち。まさか、時折手伝わされていた双龍パナースのラーメン店が、本当に店舗を持つなど夢にも思っていなかった。パナース曰く『ライバルが事務所を構えてから、こに至り追いつくまで、長かった』……という。ラーメンの道の長い修行をしていたと言いつつ、葱乃を強引に働かせていたのはなんだったのかと言いたくなる。

 

「……」

「あとなんでこの人が?」

 

 ついでに当たり前のように従業員として腕組みをしている魔法少女の存在に突っ込んだ。真っ赤に燃えるその姿は、同じ魔王塾卒業生の中でも悪名高き炎の湖フレイム・フレイミィだ。思いっきり犯罪を犯し、さらにこの間は脱獄までかまし、その後にもう一度捕まったはず。もう出所してきたというのか。

 

「私がスカウトした」

 

 店主からのひとことに、葱乃は納得するしかない。確かに火加減というか、派手な炎のパフォーマンスなら、ラーメン屋っぽいと言えなくもないのではないだろうか。とにかく従業員が増えているのは、葱乃としてはありがたい話ではあった。

 

「ちょっと」

 

 しかしこれからオープンだと言う時の話だった。裏口、従業員通用口の扉を開き、堂々と入ってくる者がいる。その存在に気がつくや否や、ここにいるのは皆魔王塾の卒業生、瞬時に構え戦闘態勢に移る。しかしそこにいたのは、比較的見慣れた顔触れだった。小柄な少女、彼女は常連だ。名前はメルン・チック。ぬいぐるみを操る魔法により、人型のぬいぐるみを三人分引き連れている。どうして彼女がわざわざ裏から来たのか、というのは、すぐに示された。

 

「あれ、見なさいよ」

 

 店の表を指さして、その先を見ると──なんだかものすごく人混みができている。めちゃくちゃ、並んでいる。これはいったいどういうことなのか。

 

「そういえば先日の大事件の時、皆に振舞ったな」

「……炊き出し……」

「そ、そんなことが……」

 

 例のオスク派プク派の大激突において、敵味方問わずラーメンを振舞った、という。その際、この味に魅了されてしまった魔法少女たちが、こうして開店の折に駆けつけている、と。繁盛は店にとっては嬉しいことだが、いち店員としては悲鳴でしかない。無駄に広いと思っていた店内だが、あれだけの人数は収容不可能だ。そして、そもそも調理やらの手が間に合わない。

 

「このままだと物売るってレベルじゃなくなるわよ」

 

 そう告げるメルン。そういえば──そのぬいぐるみは自在に動かせるのだった。ということは、ひとりで何人分もの人手になれるということだ。

 

「……な、何? 私は別に……普通に客として」

「すまないが雇われてくれないか」

「はぁ!?」

「わ、私からもお願いします。助けてください」

「せ、切実ね……」

 

 仕方ないわね、とメルンが頷いてくれた。早速メルンはホール担当として、制服だったらしい格好にタオルを頭に巻いて、ついでに標識を持った魔法少女ぬいぐるみと共に外で列整理までやってくれ始めた。これで、安心して厨房にいられる。葱乃はそれでいいのかと思いつつ、ついに開店の時を迎えてしまったのであった。

 

 そしてこのオープン初日。魔法少女ラーメン店の歴史に名を刻む大繁盛を記録し、双龍印は一躍、界隈に名を轟かせることになるのだが──この時はまだ、その伝説を誰も知らない。

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