◇アルメール
数時間のバス移動の末、到着したのは会館だった。裏山があって自然が近いと言えば聴こえはいいが、つまり人里離れていて何もないということ。確かにこんな場所でなければ魔法少女の合宿なんてできるわけがないが、こんな山奥だと、虫が出そうで嫌だ。築年数も相当らしい。曰く、魔法の国が管理している会館を借りたとのこと。そのあたりの事情はなんとなく察するしかない。
「お疲れ様っす!」
「お気をつけてっす!」
安全運転の魔法で送り届けてくれた運転手魔法少女が、主にラズリーヌに手を振られながらバスごと帰っていくのを見送ったら、先生たちの引率で会館に足を踏み入れる。中は想像通りの古さと地味さで、魔法少女合宿! という感じはしない。
「宿泊する部屋はあっちです。部屋割りは以前決めた通りに。ではまず、お昼ご飯から。その後は軽く今日の研修をして、自由時間になります」
日程が改めて説明され、皆で会議室みたいな場所に通された。昼食は自由席のようだ。ひたすら乗った順だったバスの座席とは異なり、結局は班員同士で別れることになり、アルメールは2班のメンバーに囲まれる。結局やね、とこぼすアーデルハイトに、苦笑して続いた。本当にそうだ。
「はい、これ! お弁当と、いつものパック牛乳っす!」
ラズリーヌの手で配られたお弁当を貰う。四つ、それぞれメイン料理が異なっており、唐揚げ、ハンバーグ、生姜焼き、焼き魚と王道ながらばらばらだ。2班は特に取り合いになることもなく、アーデルハイトがハンバーグを取ったのを皮切りに、自然と行き渡った。アルメールが手に取ったのは生姜焼きだ。他の班だとじゃんけんが始まっていた。特に3班はなぜか白熱し、ランユウィとプラリーヌが数分にわたるあいこ合戦の末にランユウィが勝利。好みのお弁当を獲得していた。
そんなこんなで、給食の時と同じように、全体でいただきますの挨拶。蓋を外し、美味しそうな匂いに出迎えられる。付近のお店で出しているお弁当らしい。アルメールは給食も好きだが、このお弁当もなんだか安心する味で良い。
「唐揚げ。纏う衣は華やか、即ち舞台衣装。彼らにとってはこの弁当の中こそが舞台! そう、弁当とは全ての素材が役者となり、食器が舞台装置となって織り成すもの!」
「ほんならはよ鑑賞したるか」
「ん……」
「どうかしたかいジュエリーゼリー。喉に魚の小骨が刺さったような顔をして!」
「喉に魚の小骨が刺さった」
「ご名答やん」
「大丈夫ですか? 酷ければ病院を」
「同志がいっていた。ごはん丸呑みで取れる」
「あーそれ迷信らしいで? 無理せん方がええんちゃう」
「ボクの魔法なら取れたんだがね!」
「ごくり」
言っている間に飲み込み、ジュエリーゼリーから無言のサムズアップ。無事取れたらしい。
「まったくこのゼリー様に突き刺さるとは、トガったやつだぜべいべー」
「小骨もキミの魅力にやられてしまったということさ」
「小骨にモテても困ってまうなあ」
主にジュエリーゼリーが食事中比較的大人しいが、みんなして黙ることは知らないらしい。骨にモテるってなんだ。気にしだしたらキリがない。気にするくらいなら肉を食い、米を食い、米がなくなったら漬物、漬物がなくなったら牛乳を流し込んだ。発言を堪えて食べ続けていると、気がつけば弁当が空になっていた。
「……ごちそうさまでした」
「メルメル、食べるのはやい」
「一番乗りやないの。そんなに美味しかったなら生姜焼き取ればよかったわ」
「さかな、なくならない。無下限料理。実は増え続けているのでは? ヒーリングファクター魚の焼き魚だった可能性が微粒子レベルで存在する?」
「ゾンビ魚かもしれんで」
「ハッハッハ! ゾンビなのに食べられてしまってはゾンビらしくないがね!」
周囲のやかましさはともかくとして、言われてみれば、ジュエリーゼリーは最後まで食べている気がする。彼女が比較的大人しくなるのは、集中してもくもく頑張って食べているせいか。口も小さいし、その姿だけなら小動物のもぐもぐタイムのようで可愛らしいのだが。そう思っているのは皆同じだったみたいで、逆にアーデルハイトもベクトリアも食べ終わると、静かにジュエリーゼリーを眺める時間が発生していた。
「もぐもぐ。ごくん。そんなに食べるところ、面白い? 顔にハンバーグでもついてないか不安になり候」
「ああいや、ただ頑張って食べてるなと……」
「そう、頑張ってる。生命活動。幸せも一緒に噛み締めてる」
こんな感じで喋っているから遅くなってしまうんだろうけど。
昼食の後は午後の課題が出る。市販の問題集からの抜粋で、これまで授業でやった内容の復習だ。五教科それぞれのプリントが1枚ずつ配られ、ついでに軽い作文の課題が出た。明日までに出してくれればいい、という宿題仕様で、今日のところは実質これで放課らしい。先生たちは明日の本課題の準備で色々と忙しいらしい。本課題は手が込んでいて、お楽しみにっすよ、とラズリーヌがニコニコしていた。嫌な予感がしたが、それが当たらないことを祈る。
夜の集合がかかるまでは自由時間だ。まずは自分の部屋に荷物を置きに行く。同室になったのはアーデルハイトだ。隣の、ベクトリアとジュエリーゼリーであろう部屋の存在に戦きつつ、安心もした。アーデルハイトだけならまだ奔走しなくて済む。
「上、もーらいっと!」
二段ベッドの上はアーデルハイトが占拠し、アルメールは下で寝ることになる。別に構わない。何気なく腰掛け、リュックを広げた。
「なんや、そのポーチ。いつも使ってる筆箱やないやん」
アルメールが一息を吐こうと取り出したポーチに、上のベッドから顔を出したアーデルハイトから声がかけられる。もう筆箱のデザインまで覚えられているのに驚きつつ、この最近流行りのキャラクターがプリントされたポーチを開いて見せる。中身は全部、タブレット用のタッチペンだ。いつものメンバーなので、20本弱くらいだろうか。
「うわ、なんでこんなにあるねん」
「使い心地が違うので、使い分ける用にですね。例えばこのマジコム社さんのだとシリコンタイプで」
「あーわかったわかった。あんたにはそういうのないと思ってたけど意外なとこにあったな」
「……? なんのことですか?」
もしかしてとは思うが、普通の人達は魔法の端末やらを使うためのタッチペンを用途で使い分けないのだろうか。どの形式も善し悪しがあり、別会社のモデルなら向くシチュエーションが違うなんてことはざらにあるのに。
「って。それはええか。宿題はやらんとあかんな。この山奥じゃ自由時間言われてもほっつき歩くのも一苦労やしな」
「ああ、そうですよね。学習用だと主にこれですかね」
「お、おおう?」
「これはスタンダードなやつなんですけど、よく考えるようでしたらこの計算用モデルの新型を──」
良かれと思って追加に渡したタッチペンで、アーデルハイトの顔色はちょっと悪くなっていた。もしや借りるまでもなく持っていたのだろうか。思慮が足りないことをした。アルメールは自分用のタッチペンを手に、魔法の端末のフリーメモ機能とにらめっこしながら、これが自分の魔法のタブレットだったらもっと楽できたのにな、なんて思っていた。