魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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青の先へ

 ◇ディティック・ベル

 

 中学校が襲撃され、取り返しに行った先で校舎を派手にぶっ壊し、ついでに中庭にあった大事な遺跡もぶっ壊して。教員役のツインウォーズは行方不明、恐らくは死亡。生徒も約半数が命を落とし、全員が怪我をした。

 そんな魔法少女学級がどうなったかというと、それはもう続けられるわけがなかった。この計画を立案したプク・プックとオールド・ブルーが、そもそも隠れ蓑として出した計画だ。失敗に終わりました、という結論で終えられてもおかしくはなかった。

 ……そうならないように働きかけたのは、ディティック・ベルを助けてくれた皆だった。生徒側からの要望も強かったらしい。その結果として──。

 

「はい、みんな、席に着いて。出席とるよ」

 

 ──本校舎の端に間借りし急拵えの結界を追加するという臨時教室を使って、なんと魔法少女学級は再開していた。教卓には椅子が3つ。生徒側には13個。うち5つの机には……花が添えられていて、胸がぎゅっと締め付けられるけれど、着席した生徒たちの信頼の目に、ディティック・ベルは息を整えた。あの日よりも前ならアルメールを呼んでいたところを、心の中でだけ名簿を読み上げて、それから声を出す。

 

「キューティープラリーヌ」

「はぁい」

 

 プラリーヌはいつもの通り、だらっと突っ伏したまま顔だけ上げて、返事と一緒に手を挙げた。プラリーヌも帰ってこられてよかった。キューティーペンギンとは色々あったらしいが……そのあたりは、本人が話せるようになったら、でいい。

 

「ジュエリーゼリー」

「はい。います」

 

 ジュエリーゼリーはひどい怪我だったが、今はこうして元気に登校している。MyNameは実力派チームとして、活躍の範囲を広げているらしい。本人が誇らしげに話していた。一方で人一倍、学校の存続を願っていたらしく、ソイエを始めとした魔法少女たちは奔走したとか。

 

「シン・ソニック」

「はい」

「……立ち上がらなくてもいいからね?」

 

 勢い余って立ち上がってくるシン・ソニック。1・2を争う重傷で、両脚が折れてしまいもしかしたら魔法少女人生が危ういか、と思われたが、しっかりと完治して帰ってきている。以前よりも自信がついているようで、監査部門からは欲しい方向と逆だったと言われた。思慮や慎重さは……どう教えればいいだろうか。

 

「トーチカ」

「はい!」

 

 元気に返事をしてくれるトーチカ。彼女がここにいるということこそが、我々の勝利というか、成功を示している。キュー・ピット・アイがその命を賭して、繋いだ未来。彼女自身もその意識は強いようで、ぐっと強く手を握っていた。

 

「プリンセス・ライトニング」

「はい。ふふ、もう懐かしい感覚ね」

 

 ライトニング──マスカレイドのハートの9である彼女は、ずっとこちら側についてくれていて、今も完全に研究部門とは連絡を取ったりしていないらしい。ラズリーヌ側からいくつかジュエルを渡されたことはあったようだが、彼女としても戻るつもりはないのだろう。我儘を言いたい相手は、いつもここにいるのだから。

 

「マスカット・マスケット」

「……はいっ!」

 

 双子の姉を亡くしたマスカットは、いまだ時折、レモン色の宝石の欠片を握り締め、見つめながら想いを馳せている姿が見えていた。今までのように振舞おうと努力している様子で、無理はしないでほしいと伝えるつもりだ。

 

「雷将アーデルハイト」

「はい、おるで」

 

 アーデルハイトも手を振ってくれる。早々に振り切れてくれたおかげか、彼女とゼリーの2班は特に和やかな雰囲気を齎してくれる。教室がピリピリしていないのも、彼女とゼリーがふわふわしたボケを次々とかましていたからだろう。

 

「ランユウィ」

「……いいっすか。ここに、いて」

「……ランユウィ?」

 

 最後──思案もレモネードも行ってしまったことで、最後になってしまった──に名を呼ばれた彼女は、返事ではなく、迷いが返ってくる。彼女はオールド・ブルーの指示で、確かにクラスメイトを殺傷している。目を伏せるのも、罪悪感があって当然だ。ディティック・ベルはそこで、自分ではなく、他の生徒からの言葉を待つことにした。

 

「……私は」

 

 口を開いたのはマスカットだった。

 

「許さない。レモネーのことは、絶対」

「……」

「でも、何かするのは違うし。レモネーが心を開いた学級なんだから。クラスメイトとして……仲良くしたい」

 

 その言葉に、頷く者もいれば、黙って見守る者もいる。最も引きずっている様子だったマスカットからの反応がそうだとすれば、皆、ランユウィのことは迎え入れるつもりだ。言葉を、ジュエリーゼリーが続けてくれる。

 

「ランユウィは間違いない、クラスメイトの仲間。それにきっと、メルメルなら、ベクトリアなら、許すと思う。ラズ先のこと、助けたの、ランユウィなんでしょ」

「それは……思案とプラリーヌに託してもらっただけで」

「うん、だから、クラスメイトの仲間。間違いないでしょ」

 

 思案もプラリーヌもランユウィを信じていた、と。気がついた彼女自身はハッとして、ありがとっす、と小さくふたりに礼を言うと、ディティック・ベルのことを見てくれた。

 

「……はい。ランユウィ、っす」

 

 しっかりと返事が来る。よし、これで魔法少女学級は全員だ。ここに来られなかった皆も合わせて──。

 

「ベルっちベルっち」

「……何?」

「あたしは?」

「ん?」

「あたしは呼ばねーっすか?」

「いや……なんで? 生徒じゃないし……」

「やってっすよ」

 

 よくわからないが要望があったので、改めてやることにした。

 

「じゃあ……ラピス・ラズリーヌ」

「はいっ! 戦場に舞う青い煌き! ラピス・ラズリーヌっす!」

「あぁやりたかったんだ……」

「はいっす!」

 

 満足げなラズリーヌの笑顔に、ディティック・ベルもつられて、ふっと笑った。それから授業中であることを思い出し、咳払いで切り替える。

 

「えー、今日のホームルームは他でもない。来たるこれからの話をしようと思う」

 

 教室が静まった。真面目なトーンで切り出したがゆえか、魔法少女学級の存続に関わる話だと思われている。……わりと、そんなことではない、が、大事な話なのは確かだ。なにしろ──。

 

「本校舎の方で、創立祭がやるんだけど。特別に、参加させてもらえることになった」

「……えっ?」

「なんも……聞いてへんのやけど、ちゅうか久々の登校やのにそんないきなり」

「まあやっぱり頑張りが認められたのね品行方正で優秀なクラスだって魔法の国の人たちも認めてくれたんでしょうそんな生徒たちが学校祭に参加しないのはあまりにも勿体無いということ」

「そう……なのかなー?」

 

 ディティック・ベルも今初めて喋ることだ。他でもないディティック・ベル自身が、経験して欲しいからこそ、交渉を繰り返して実現させた。魔法少女学級存続だけでなくここまで漕ぎ着けられたのは、スノーホワイトと、ついでにラツムカナホノメノカミの助力があったと聞いている。意外な援軍だった。そこから皆に──ディティック・ベルお手製の、イラストがついた──印刷物を配り、一応のルールを説明する。魔法少女の力を使ったり、必要以上に一般の人々と関わったり、出し物が被ったりするのは許可がおりない、ということを噛み砕いて書いておいた。皆なら解るだろう。目を通してもらったところで、話は次に進む。

 

「というわけで、出し物の内容を」

「いいかしら」

 

 手を高々と掲げるのはプリンセス・ライトニング。彼女は真っ先に発言の許可を求め、ディティック・ベルはジェスチャーで発言者を譲り渡す。

 

「やっぱり学校祭だもの、模擬店をすべきじゃないかしら。それ以外ないじゃない?」

「……他の皆はどうかな? 一応、向こうも模擬店はいくつもあるから、選択肢は狭くなっちゃうけど」

『ヘイ、マスター。発言許可を』

「えっと……あ、アルメールの」

『こちらアルメール・プロトコル。AI的に学校祭の出し物を産出しました』

 

 アルメールの遺品であるところの魔法のタブレットが勝手に起動した。その中に入っているAIである彼女が言うには──これしかない、と。

 

『メイド喫茶です』

「……」

『セーラースク水喫茶の方がいいでしょうか』

「なんでフェチに寄るねん」

 

 ダメだこのAIは、頼ってはいけない。ディティック・ベルはタブレットをしまった。

 

「飲食店なのは賛成です。魔法少女の力を使っちゃいけないのは……直接であって、レシピまではいい、ですよね」

 

 そこへ飛び込んでくる、まさかのトーチカからの真剣な眼差し。思っていたよりもみんなやる気がある。ただし、プラリーヌを除いて。

 

「トーチカくん、もしかしてすごくやる気?」

「い、いや、別に……やるからにはというだけで」

「プラりんはどうっすか?」

「ん〜……私は休憩所がいいなぁ」

「出し物ですらない!?」

「ラーメン屋はどうや? ほら最近話題の双龍印のとこで修行して」

「ラーメンでは遅いやはり回転率を重視するならファストフードで間違いないすぐ食べてすぐ退店する言わばピットインのような補給ポイントとして」

「効率厨だぁ……」

「じゃあ、こうしない? 耳かき専門店とかー、みんな可愛いから顔が近くてドキドキ! みたいなー」

「なんかそれ……中学校の出し物としてはすごくいかがわしくない?」

「我々お菓子系魔法少女が複数人、やることはひとつ、お菓子屋さん。ゼリーにプラリネにマスカット、これはやるしかない」

「ラーメンええと思うけどなあ」

「ベクトリアがいたら演劇って言いそうだし、どう? 演劇とかー、楽しそうじゃん」

「飲食店で?」

「ポップコーンを販売すれば問題ない? 本当に?」

 

 もはや発言許可もどこにもない。各々好き勝手なことを話し始めてしまった。こうなると、議論は泥濘に嵌ることになる。ライトニングの押しが強く飲食店というところまでは決まっているらしいが、何屋なのかはなかなか決まらない。だんだん収拾がつかなくなっていくのは聞いていてわかっていたが、止めどころを見失い、ディティック・ベルはしばらく機を窺うだけで過ごし、やがてラズリーヌの口から飛び出した。

 

「楽しそうなことばっかりだし、できるだけ色んなことやってみたらどうっすか?」

 

 というわけで、今度は案のリストを合体させていく作業に変わっていった。結果として、恐らく出来上がるのは、食事のメニューがファミレス並に色々あり、ついでに制服がメイド服の模擬店の案。さすがにそのままそれになってできるとは思えないのだが──それをうまいぐあいに方向を決めるのが担任の仕事、だろうか。本当にそうなのか。

 

「わかった、それじゃあメイド喫茶をベースにして考えていこうか。異論はないかな?」

「あの。魔法少女姿なしってことは、僕はどうなるんでしょうか」

「トーチカくんもメイド服に決まってるっしょ!」

「ええっ!?」

「ちゃんとポーズもやってもらわないと」

「萌え萌えきゅん、やな」

「ええっ!?!?」

「というわけで異論なし。ではメニューについて」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って」

「そうよねメニューね、あの超メガ盛りチャレンジをやってみるのはどうかしら」

「ライトニングしか食えへんて」

 

 ──ダメだ、収拾がつきそうにない。けれどこのやり取りがもう、あの苦難を乗り越えた皆の、青春の1ページなのだと思うと──好きなだけ、言い合ってほしいとさえ思っていた。ため息混じりに見守って、教壇の上で頭を搔く。髪に着けた宝石の飾りが揺れた。

 

「ベルっち」

「……ん? どうかした?」

「楽しい、っすね!」

「……あぁ、うん、楽しいよ。この時間も、私の特別だ」

「あたしにも、特別っす!」

 

 (ラズリーヌ)の方に、ふらり歩みを寄せる。彼女と並んでこの場に立てること、きっと自分は大変な幸せ者だ。




ご愛読ありがとうございました!!

面白かった!という方は、ぜひ次回作『魔法少女育成計画Beyond the Bullet』もよろしくお願いします!!
https://syosetu.org/novel/363130/
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