___そもそも繰り広げられている、国自体が違うので比べようのない話ではあるのだが___彼。彼女ら連邦捜査局員が、互いの無事を心底喜び合い、近況報告と今後の方針決めに明け暮れていた丁度その頃。……ほぼほぼ時を同じくして、同じような話題を肴に酒を酌み交わしている野郎2人組の影が、実は都内の格安立ち呑み居酒屋にあったりなかったり…。
「………あーもぅ!分かった!分かった!分かったからゼロ!…お前は一旦、取り敢えずその手の大ジョッキ机に置いてこっち!こっちの水飲んだ方がいいと思う!ほぉら!ウマそうだぞぉ!」
「……あの時、あの場に居合わせなかったお前に俺の、一体何が分かるって言うんだ…」
「だーかーらー!その酒飲む手を止めろって!……要はあれだろ?類稀なる明晰頭脳を持って生まれてきたが故、逆にそれがネックになって今の今まで、特に躓くことなく順調な人生歩んで来ちゃってたアラサー警官降谷零くんはほぼ見ず知らず。しかも【経理担当リモートアルバイター】なんてフザけた名乗りを自分から。好き好んでしてるような掴みどころのまるで無い凄腕ハッカー【キルシュ】に俺達の情報、すっぱ抜かれて相当悔しいんだよなー?」
「………」
「…あれ?違った?」
「……分かってるなら改めて。…懇切丁寧、言い直さなくていい…」
「あーあーあー!ストップ!ストップ!…もうお前、今日は酒没収ー!」
仕える国と所属が違えど。潜入捜査官という超少数精鋭なハイストレスイキモノは総じて、似たような行動順路を辿るらしい。……給料日前のリーマンボッチ呑みから割り勘必須の学生コンパまで。数限りなく豊富に取り揃えられた顔ぶれの中に、泣く子も黙る日本警察の星【諸伏景光】と【降谷零】の姿はあった。
「……かえせ…。おれのさけだぞ……」
「ダーメ!自分のキャパも把握出来てないオコサマゼロくんには、お水かジュースがお似合いでーす!」
これはそんな彼らの愚痴話。……その端々をいい感じに切り取った、最早誰得備忘録である。
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「まぁ、もちろん反省は必要かもだけど、そうゴリゴリに凹む必要なんて無いと思うけどな。俺は」
「…………そう思うに至った経緯と根拠。簡潔に…。…10文字以内…」
「おいおい。流石に10文字は無理だろ。10文字は」
「……細かいことはいいからさっさと言え。先に口火を切ったのはそっちだろ」
「へーへー。分っかりましたよ。仰せの通りに。……だってさ、キルシュに知られたのって俺達が夜な夜な。辺鄙な片田舎の神社の境内でこそこそ逢ってたってことだけなんだろ?内容自体に聞き耳立てられてたって訳じゃないっぽいし」
「…あぁ。これはあくまで、キルシュの証言を鵜呑みにすればの話だが……。あの日、俺達の姿を直接見たのはあの神社の先代宮司らしい。曰く【大層目鼻立ちの整った2人組がドの付く深夜ウチに来た】【帽子を目深く被ってはいたが、あんなのは逆に悪目立ちするだけ】とかなんとか言ってたそうだ」
「うっげぇ……。…なにそのまったくもって嬉しくない指摘の数々…。手厳しいわぁ…」
つーか、幾ら自分とこの神社だからって、夜な夜なの訪問者にいちいち目ぇ光らせてる宮司ってどうよ?逆に怖くね?ホラーだわ。……所詮田舎の神社だって実際、甘くみちゃってたとこもあるからなんだろうけど、さっきから終始ボッコボコ。見るも無惨。語るも無惨な醜態を何かと晒し続けてる、この眼前色黒腹黒パツキン男。…実は俺の相棒だったりするんだぜ?どう思う?
こりゃあさっさと家に返すが吉か。1回酔っ払うとめんどくせぇんだよな。コイツ。……そう思って伝票を掻っ攫い、くしゃりと握り潰せば机に突っ伏していた金色のそれが、まぁた何かしらをむにゃむにゃ紡ぎ出す。
どうやら、公安の次期エース様はまだまだ喋り足りないらしい。
「……2週間……」
「へ?」
「2週間だぞ!?…他の誰でもないこの俺が336時間!生きとし生ける、最低限度の他の総てを棄て置いて全力で調べあげたのに!……キルシュの居所を掴むどころか、その目星すらつけられないなんて……っ!一体どんな国家級電子遮断軍事要塞に住んでるんだ!アイツはぁ!?」
「…あー…。お前、そっちも調べてたのか。ただでさえいっそがしいのによくやるねぇ。ウチの次期エース様は」
「……同情なら要らん。熨斗つけて返す…」
「ハイハイ。わるぅござんした。……で?なんでそんなにガッチガチなのか、その原因は分かったのかよ?キルシュ周辺の諸々情報」
「………ハッカーというのは総じて、自分のパーソナルデータを矢鱈滅多公開しない。寧ろ隠したがる傾向にある…。それ自体は何も不自然なことじゃない…。この問題の最たるところは…」
「ところは?」
「あのセキリティーガードの硬さだぁぁあ!」
うっわ。なにコイツガチ泣きしそうなんだけど。……お前色々だいじょうぶ?固定ファン減ったりしねぇ?
「泣くな泣くな!こんなとこで泣いたら、それこそ男が廃っちまうぞ!」
「………ないてない。ヒロ。…おまえはしらないのか。これはがんきゅうをほごするための、たいえきだ…」
「それを【涙】っていうんだよ!少なくとも俺が知る、世間の一般常識じゃあ!」
………俺がお前より先に死んだら、ぜってえ化けて出てこの恨み、耳元でねちっこく呟き続けてやるからな!覚悟しとけよキルシュ!