無類の才能粒ぞろいと名高い、某巨大犯罪組織若年層の中でも、ひと際輝かしい未来を約束されているメディスンブレーン。……それが若干二十歳にして、異例のコードネーム持ちとなった【シェリー】こと【宮野志保】の立ち位置だった。
世間一般。同年代とされている有象無象の少女達より、遥か数段合理的かつ論理的思考を、きちんと働かせることが出来る彼女は知っている。……自身が両親に望まれ愛され、生み育ててもらった一個体であるという真実を。
(……ただ…)
……そう。ただ。ただ現在。ほんの少しだけ特殊な環境下にある今、自分の現状はそんな両親のちょっとした、不幸の延長線上にあるのかもしれない。
徹夜続きで破綻寸前の
その画面を見た瞬間、無意識下で吊り上がったのは自身の口角。確かに揺れ動いた感情の名前を彼女はまだ知らない。
◆◇◆◇◆◇
「………こんな夜更けに、一体何用かしら機械音声さん?私、まだ今週1度も領収書受諾申請メール出してない筈なんだけど」
【ワァ。今日ハ初ッ端カラ辛辣辛口山椒風味…。……サテハ連轍ノ猛者デスナ。…差シ支エナケレバ記録日数ヲオ聞キシテモ?】
「3日目。……まだ序の口だわ…」
【…労働基準法ッテゴ存知デス?……ツイコノ間、夜行性超究極最終形態。SSSランクノワタシニ向カッテ、散々寝ロ寝ロ言イマクッテタシェリーサントハ、到底思エナイオ言葉ー。特大ブーメランー】
「……生意気なのよ。キルシュのくせに…」
【ンー?劣悪ナ電波状況ノセイカナァ。シェリーサンノ美声ガヨク聞コエナーイ。モウ1回言ッテモラエマスー?】
「…こ、こっちは新しいマウス実験を、色々手広く始めたばっかりで心底忙しいの!茶化すだけなら後にしてもらえる!?」
【ワー!待ッテ待ッテ!タンマ!ストップ!コノ電話切ラナイデ!……ソンナ、オ疲レモードノ零地点。臨界点突破状態ヒャッハーナシェリーサンニ、トッテオキノ癒シヲオ届ケ出来タラナ、ト思ッタ次第ナノデアリマシテ!何卒ゴ容赦頂キタク!】
「……癒し…?」
【ハイ!】
「…なぁに?最近その噂を聞かない日はないってぐらい、各方面大活躍なスーパースター様は私に、新薬開発パラドクスの真髄でも授けてくれるって訳?」
【………】
「………」
【……アー…】
「キルシュ?」
【………非常ニ申シ上ゲニクインデスガ今回、オ届ケシタイナッテ思ッタノハ、所謂ソッチ系ノ素人着眼点的アイデア癒シデハ断ジテ無ク…】
「でしょうね。………私もちょっと言い過ぎたわ。ごめんなさい」
【…話ニヤヤコシイ含ミヲ持タセテタ、ショッパナワタシニ原因ガアルノデ!シェリーサンニ謝ッテ頂クナンテソンナ!全力畏レ多イ!コチラコソ、コミュ糞祟ッテ誠ニ申シ訳…】
「ストップ!」
【へ?】
「…実はだいぶ前から気にはなってたんだけど…。キルシュ。貴方って事あるごと一人称【コミュ糞】っていうのによく変えるわよね?……それって一体どういう意味?」
【タ、例エ意味ヲ知ッタトシテモ、絶対ノ絶対ニ笑ワナイッテ約束シテクレマスカ…?】
「はいはい。…ちゃんとする。ちゃんとするから、勿体ぶってないでさっさと教えなさいよ。気になるじゃない」
【…コ…】
「コ?」
【【コミュ糞】トハ、ツマリ【コミュニケーションツールに必要なその総てを、多分恐らく母親の胎内にまるっと丸々忘れ生まれ落ちてきてしまったが故、最早その回復を望むことすら叶わぬ糞野郎】ノ略。……ソノ昔、SNSデビュースルゾッテ時ニ、ワタシ自ラガ血反吐ヲ吐キツツ自己捻出シタ、PR用造語ノ一節デス…】
「……それは、ふふっ。……また、なんとも……。ふふふっ。言い得て珍妙な紹介文ね…」
【ア!ヤッパリ笑ッタ!ソレドコロカ、モシカシナクテモメッチャ笑ッテル!……絶対ノ絶対ニ笑ワナイッテ約束シタノニ!コレハ極メテ重大重篤ナ契約違反!】
「…ふふっ。……ふふふっ。…だ、だからごめんなさいってば。謝ってるでしょ。さっきから」
【イーヤ!誠意ト言ウ、イッッッッッッチバン大事ナ根幹部分ガ、最早悉クヲ凌駕スルレベルデ欠落シテイルノデアウトデス!……ホラ!謝ルナラモットチャント謝ッテ!ジャナキャ許シテアーゲナイ!】
「…こんなに笑ったの、久しぶり過ぎてお腹痛い。……で?なに?謝ればいいの?私が謝ればそれで満足?」
「ナンデ!?…ナンデシェリーサンガ【渋々謝ってあげなくもない】【しょうがないから謝ってあげる】ミタイナ溜息スタンスニナッテルンデスカ!?……契約違反被害ヲ被ッタノハ、紛レモナクワタシノ方ノ筈ナノニ!コンナノオカシイ!異議申シ奉リ候ー!」
◆◇◆◇◆◇
「で?」
【デ、トハ?】
「……キルシュ。貴方まさか本当に私の寝不足、茶化すためだけに電話してきたとか言わないわよね…?」
【アァ!ソウダッタソウダッタ!シェリーサントノ、久方ブリ会話キャッチボールガ楽シスギテツイウッカリ!本懐ヲ忘レルトコロデシタ!テヘペロ☆】
「…………テヘペロ☆とかそういう語句は、あくまで文面的に使う言葉。日常生活、音を伴って口から出すものじゃないと思うけど」
「エェー。ソウデスカァ?ワタシ結構愛用シテルンダケドナァ…。……デ、本題デスケド【ブルーベリータルト】ト【シフォンケーキ】【クレームブリュレ】ノ中カラ1ツダケ選ブトシタラ、何ガイイデスカ?」
「……は?」
【アレ?聞コエナカッタ?……音声伝達率ハ、エェットチャント98
「え、えぇ…」
【【ブルーベリータルト】【シフォンケーキ】【クレームブリュレ】コノ3ツノ中カラ、1ツダケ選ブトシタラ一体ドレヲ選ビマス?】
「………」
【………】
「………」
【……オーイ!シェリーサーン?モシモーシ?】
「………それってラムが時々たまに。突貫抜き打ちで封切ってるっていうストレス耐性テスト。その開口一番1問目とか、まさかそういうんじゃないでしょうね…?」
【エッ】
「どうなの!?」
【……ワタシッテバタダ単純ニシェリーサンノ、好キ
「………いいえ。違うならいいの。これは私の一方的な、被害妄想みたいなものだから。…続けて」
【ハァ。デハ素直ニ甘エサセテ頂ク所存。………ブルーベリータルトカシフォンケーキ。ハタマタクレームブリュレ。ドレニシマス?】
「…そうねぇ。今聞いたその中で、1つだけ選ぶとするなら……」
【スルナラ?】
「ブルーベリータルトかしら。……ピーナッツバター&ジェリーのサンドイッチってあるじゃない?私あれ、嫌いじゃないのよね」
【ホゥホゥ。ナルホドナルホド。…ブルーベリータルト、デスネ。了解デスデス。……ジャ、ゴ協力アリガトウゴザイマシタ!ワタシ、コレカラ色々準備シナキャナノデ、今日ハコノ辺デ失礼サセテクダサイ!マタ連絡シマース!】
「えっ?…ちょ、ちょっと!待ちなさいよキルシュー!」
◆◇◆◇◆◇
数日後。___まだまだ完成には程遠いものの___自身が自身の頑張りに納得出来るギリギリの及第点。その結果を指し示す文字数列に漸く出逢うこと叶い、貪るか如く眠り続けていた若干二十歳のオーバーワークメディスンブレーン。……そんな彼女の心地よい睡眠は、此度1つの小包襲来によって突如終らせられることとなる。
「…まさか、これって…!」
【ジャッジャーン♪サプライズ大成功ー♪】……最早耳新しくもなんともない、棒読みAI音声データを伴って届いた冷凍便のそれの正体とは通信販売限定。しかも予約は数年先まで埋まっているという伝説級に特別なブルーベリータルトで。
一体絶対どんな
勝手に送られてきたブルーベリータルトは、シェリーが数回に分け美味しく味わい尽くしましたとさ。よかったね。めでたしめでたし。