仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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8.必要なのは

 その出現は唐突に、なんの前触れもなく。

 警察署地下奥から待合室に乗り込んで来たのは、二本脚で立つ、異形の獅子だった。

 まるで円形闘技場の壁のような石づくりのたてがみに、険しい顔つき。

 全身を未完成のCGのような、角張った表皮(テクスチャ)が覆い、石柱の如きその腕には算盤のごとき数珠つきの手甲を帯びている。アーチ状のベルトがかかり、そこには

〈GeGeRu Colosseo〉

 また体の中心の鎖には、古代のレリーフにも似た、獅子の顔のバックルが、牙を剥いている。

 サイバーチックと古代的、二つの風情を併せ持つ、類を見ない(タイプ)の怪人だった。

 

 その場に居合わせた警察官は、即時拳銃を抜いて応戦した。

 法令以上に、危機感と生存本能が彼らの脳内を支配し、そうさせた。

 

 だが、豆鉄砲ほどにその攻撃は効かず、代わり大きく振られたその腕が、彼らを四方八方へと吹き飛ばす。壁にめり込ませ、あるいは窓ガラスから外へと吹き飛ばす。

 予期などしようもない凶事の挙げ句にそんな有様であるがために、士気はまたたく間に崩壊。

 数を恃んでその怪物を囲っていた警官隊は、瞬く間に算を乱して一人、また一人と逃げ出していく。

 

 そのうちの一人に狙いを絞った獅子の怪物は、地を踏み砕き、鋭き腕の爪で彼を貫いた。

 断末魔があがる。周囲から悲鳴があがる。だが血が出ることは無く、その身体は光の粒子となって、その算盤に吸い込まれていく。珠が弾かれ、持ち上がる。

 

 そうして、一人、また一人と消えて、飲み込まれていく中で、一度上がり切った数珠は元の位置に戻り、代わりそこから弾き出るようにして一枚の薄い欠片(チケット)がはじき出された。

 

〈Feather Museum〉

 本能か、プログラムか。青黒い下地に刺繍が如くオレンジ色の猛禽類と題字が縫い込まれたそれを、自らの胸に押し込み、沈ませる。その肩甲骨の辺りから石の翼が突き出て、それを大きく羽ばたかせるとかろうじて維持されていた戦線も、その風圧で突き破られた。

 

 坂上順那が突入してきたのは、ちょうどそのタイミングであった。

 

「どのデータベースにも照合しない……なに、この怪物は……?」

 当惑する彼女は、賢明かつ懸命である。

「逃げてくださいっ!」

 迎撃よりも先に居残っていた人々の避難を優先させる。その鋭い声の発破を受けて、市民は逃げ、生き残りの警察官たちは彼らを保護し、誘導する。

 

 それから、自ら拳銃を抜いて応戦した。

 弾道射角ともに容赦なく、皆急所である。だが、それも威嚇にさえならず、わずらわしげな腕の一振りで生じた烈風が、彼女の身、武器をあらぬ方向へと飛ばす。

 ソファを倒して横転した彼女に、その妖獣はにじり寄る。

 

「オ、前……覚え、あル……」

 と、言葉の通じないかと思われた怪人が、ノイズ混じりの声を発した。

「オレを、パクった……デカ……」

「え……?」

「ウアア、頭が……心臓ガ、痛い、焼ける……ゥ! 誰か、オレを笑顔にしてクレェェェエッ!」

 

 だがそれはコミュニケーションがとれることと同義ではなかった。

 むしろますますに理性を失い、身もだえて暴れ狂い、彼女へと駈けだした。

 

 ――拳銃を、拾い上げる。

 両手で構える。

 銃口を持ち上げ、自分に無防備な背を向ける順那たちへと向ける。

 

 だが引き金を絞った時には、浮き上がった弾丸は彼女たちの真上へ。スプリンクラーへ。

 弾丸によって穿たれた箇所から、水が吹き出て怪物の気を逸らした。

 

 自らにも雨のように降り注ぐ水の中、怪物を拳銃で牽制しながらも、明智一路は順那に目を配る。

 

「一路くん……」

「始末書」

「え?」

「お前の銃なんだから、お前が書けよ」

 ふてぶてしく押しつけがましく言ってのける彼に、

「あのねぇ、もうちょっと気の利いた言い回しで助けてくれないかなぁ?」

 順那は呆れつつ返し、怪物の間合いから逃れた。

 だがその代わりに注意を惹いた一路の方へ、その攻撃をかろうじて回避し、二撃目に潰されそうになりながらも決死の抵抗で防ぐ。

 

「一路くん!」

「エリート様が……ノコノコ前線に出てんじゃねぇ……! こんな場末の案件にかかずらってないで……さっさと本庁に戻りやがれっ!」

「……応援呼んでくるっ! 殉死なんてらしくないことしないでよッ」

 

 何か言いたげな様子だったが、逡巡している暇はない。

 持ち前の切り替えの早さでもって踵を返す。

 

「それで良い」

 ――とても恥ずかしくて、見せられたものではない。順那になど、特に。

 殉死も、そして変身も。

 

 床に溜まる水を切るようにして、駆けるモノ。それは目にも留まらぬスピードで獅子も足下に潜り込んで体当たりでその巨体を払い、そして車輪が回る音と共に、拳銃を捨てて空けた、一路の手に収まる。

 

 ミニカー、というには、あまりに大きすぎる、真っ赤な車の模型。造形。

〈シフトロードライバー!〉

 油滴がごときものがついたそれを腹の前に据えると、軽妙な男の音声と共に分離。丸みを帯びたモニターを中心に据え、一枚のドアと挿入口。それらを前面に押し出して、一本のベルト型の装置(ドライバー)へと置き換わる。

 

『――そう、必要なのはそっち側の承認(パス)だった』

「あ?」

 

 ベルトと化したドライバーのモニターより響いたのは、正体不明の、聴き慣れた声。

『悪魔ってのも面倒なもんでね。「アルタール」を物質世界に持ち込むために必要なのは、そのための契約だ』

 などと誰にともなく説く声は、クスミ。その画面で、ドットのタコが蠢き、そして光り輝いた。

 

「あッ」

 ――という間に。

 一路の肉体は、その光に呑まれて飛散し、ベルトを残して粒子に分解された。

 

「悪いね、旦那。でも言っただろ。あんたの協力は、一瞬一秒で良い、ってさ。ちょっとの間、あんたの質量借りりとくよ」

 代わり、虚空に浮かぶそのベルトを基点に再構築されたのは、赤いフードの小柄な人影。

 まさしくVtuberだのタコだのと、さんざんに揶揄された、クスミのグラフィックをそのまま立体化させた姿だった。

 

『なんだ、おい!? どこだここ!?』

 と、代わりにベルトからの声は一路のものへと変化し、明滅をくり返す。

 

 だが、相手の姿がどう変化しようと、理性失いし獅子の怪人には関係がない。

 体勢を立て直し、剛力に物を言わせて突撃してくる。

 

「お前の『マリスチケット』、もらい受ける」

 そう嘯いたクスミは、おもむろに腕を持ち上げた。ローブの袖口から這い出た赤い触手が、再び注意の疎かになった両脚を絡め取り、壁に向かってスイングバイ。。

 自重と遠心力で壁を砕き、開けた中庭へと躍り出た獅子は、唸り声をあげながら

 

〈オクトパスホイール!〉

 その彼の前で、蛸足のような溝の鉄片をベルトの左側へと滑り込ませ、自らも庭へ。

 『L+』という印字の施された、コマンドキー。それが反対のドアの溝と噛み合うことで反応し、声が轟く。その背に、どこからともなく巨大な影が沸いて出た。

 それは、ネオン閃く、半透明の観覧車だった。

 ゆるやかにゴンドラを巡らせるその前で、ベルトの上部にもまた車輪にも似たユニットが合体する。蛸足絡む観覧車という、異質、悪趣味極まりない造形となっており、その真上に『Octopus Wheel』というアルファベットがネオンで煌めく。

 

「変身」

 触手を引っ込めた腕を自らの手前に這わせながら、一路が唱えるはずだった、最終起動コードを唱え、ベルトの車輪部分のみを回す。

〈ナビゲーション・フロントドア! オクトパスホイール!〉

 

 背の観覧車の陰が、墨のごとき海と化して荒れ狂う。そこから伸びた触手がホイールを絡め取り、操舵輪のごとく勢いよく回す。

 大きな波が生じ、触手も、観覧車も呑み込み、溶解する。

 真っ黒な墨状のものと化したそれが、クスミの身体にまとわりつく。

 それが色変え形変え、影を、姿を変える。

 

 白い二筋のラインが入った、頭部は本来のそれよりさらに鋭利に角が尖り、その下に黄色いアイライト。

 胴体部に斜にかかるのは、墨で引かれたような水玉(ポルカドット)模様のライン。そして、ゴンドラのような円形。右の肩に巻かれたマントの裾は、細く八筋に分かれ、最低限それと分かるよう極力シンプルに描かれたゴンドラは吸盤のようだ。

 

「さぁ――ひとっ絡み、付き合えよ」

 その足下に触手のような影、否、コードの羅列を蠢かせ、その戦士――仮面ライダーは腰を沈めて呟くように言ったのだった。

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