仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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第二話:それは真実に至る回路
プロローグ:フロントドア


 五十年前――南米某ジャングル。

 かつて古代王朝が栄えたこの場所も、すでに遠き夢の跡。

 ある若き考古学者が率いるグループが、その遺跡の発掘調査に乗り出していた。

 文字通り、野を越え山を越え、屈強なボディを持つジープで深い草木を薙ぎ倒し、それを以てなお侵入が不可能なエリアに踏み入れ、洞窟を越える。進むにつれて従来の人類社会から離れていく。あるいは毒蛇毒沼のたぐいで、あるいは風土病で、またある時は恐怖に駆られた逃亡で、一人また一人と脱落していく。

 その果てに、彼らはそこにたどり着いたのだった。

 

 そしてその遺構の中、原型の多くを留めているのが、天を衝かんばかりに築き上げられた石段と、その先にある神殿らしきもの。おそらく当時の民が神と崇め奉ったモノが、そこに眠っているはずだった。

 

 だが、明らかに当時のものとはかけ離れた異物が見つかった。

 それは、槍を携えた二人分のミイラに挟まれた、魔性ともいうべき非人間的な像と、印璽(スタンプ)らしきもの。

 目にした瞬間、言い知れない歓喜と陶酔が彼らを包んだ。

 

 だがそれは――数瞬のことだった。

 調査員の手が入る前に、外気に触れたそれは、朽ちて自壊した。

 まるでその時を待っていたかのように。

 そしてそれに付き従うかのように、ミイラたちも崩れ去ったのだった。

 

 〜〜〜

 

『――そこに眠っていたモノは、かろうじて残っていた組織片から外宇宙より飛来した生物だというのが定説だ。【ギフ】、と誰かしらが呼称したものがそのまま通名となっている。なんでも、天からの授かり物(Gift)と言いかけた直後にそれが喪われたことがきっかけだとか』

「……そんな半世紀前の探検ごっこが、今の俺のっ、この状況に! 何の関係があるってんだ……!?」

 

 電子の魔界『パンデモニウム』、その異常な空間の中で神経が焼き切れる寸前のところを、一路は声を震わせながら問いかける。

 声を大きくできないのは、他の『悪魔』たちに存在を気取られないよう、物陰に身を潜めているがためだった。それでなければ、あらんかぎりの面罵をドライバーの画面にぶつけていたことだろう。

 

『物事には順序があるんだよ、旦那。あんたがその順序ってのをすっ飛ばしてドライバーを強制終了してくれたせいで、そんなところに迷い込んだんじゃないか。今、現実(こっち)でリンクの再構築をしているから、まぁそれまで退屈しのぎに聞いてくれ』

 今もってなお、自分に代わって現世に留まり続けているらしいクスミは、ナチュラルな調子でそう宥めた。

 

『まず始まりがそこだった。本来、彼――ギフは生きてこの地球に降り立つつもりだった。だが、その間際に隕石群と衝突し、即死。かろうじて残ったその遺体や遺物が、当時の現地人によって神格化され、祀られた。実際、その骸やスタンプには特殊な力があったそうだ。人の悪しき魂を具現化したとかそれを喰らったとか、どんな傷や病さえたちどころに治癒させたとか、そんな文献が残っている』

「……眉唾物だろ」

『ただ、残った組織片は人間に近しく、かつより高位の遺伝子を持っていたことが確認されている。あるいは食事を必要とせず、他者の脳波や生体パルスからエネルギーを摂取したり、それを細胞組織の修復や変質に還元することも、出来たんじゃないか……と、当時の発見者、若きリーダー、タジュン・ガラーシュは考えていた』

「そりゃあ残念だったな。隕石で粉みじんに吹っ飛んじまってなけりゃ、その辺りも奴さんとお話できたのに」

 皮肉っぽく口を挟むのに、平然とクスミは、

 

『そう――だから、彼はそいつを、蘇らせようとした』

 と返した。

 閉口する彼に、小気味よいタイピングの音をバックミュージックに、クスミは続けた。

 

『なんの関連性があるかは知らないんだが――その発見以降、タジュンは学会から姿を消し、代わりに数年で莫大な財産を手に入れた。何の前触れもなく、唐突に。商才と商機に恵まれて。それを資本力に、独自に研究を続けた』

「待て、その話……聞いたことがある。ガラーシュって、あのガラーシュ財閥!?」

 一代で他を圧倒する財を成した、中東を拠点とする富豪一家。その影響力は欧米、アジアにさえ及ぶとされる。

 あまりに不自然なその躍進に時折、不正が疑われることがあるが、今もってなお訴訟や一家が逮捕されたということは聞いたことがなかった。

 

『そう、そのガラーシュ』

「バカバカしい、復活した宇宙悪魔と取引でもしたってのかよ」

 そんなモノが復活していたら、今頃世界は混沌のるつぼだ。

(二年前の、オーバーなんとかって天使が降りてきただとか、去年の創世のなにがしがどーのっつー与太話でもあるまい)

 

『さて、そういうオカルトはともかく、当然失逸したギフの細胞は回収できたとして微々たるもので、修復なんざ到底望むべくもなかった。だから研究は難航し、時ばかりがいたずらに喪われた。だが二〇一五年、彼に天啓が降って来た』

 オカルトはともかく、と言いながら天啓と来たか。皮肉な冷笑を、一路は浮かべた。

『比喩だよ』

 と、そんな彼の反応を見もせずわずかな沈黙から読み取ったクスミは、そう捕捉した。

『あっただろう、シグマサーキュラー』

 一路の表情は、耳に届いた固有名詞によって別の冷たさを帯びる。

 世界を静止させるグローバルフリーズを起こし、無抵抗となった全人類をデータ化することで恣意的に支配しようとした、ある科学者の悪魔の研究の結晶。

 

『肉体をデータ化するシグマサーキュラー、精神をデータ化してネットワークに転送するアニマシステム。どこかしらからその二つの技術を手に入れた彼は、ギフの細胞片をデータ化して送り込むことで、生体コードをネットワーク上で復元しようとしたのさ――その最後の研究所にして保管庫こそ、今が旦那がいて――普段オレ様が閉じ込められている世界、仮想空間『パンデモニウム』だよ』

 

 ――ふと、背筋に悪寒のようなものを感じ、一路は恐る恐る顧みる。

 背を向けていた絢爛さのその先、闇の中に在る異形の巨像。他のどのアトラクションよりも大きなそれの中心に、目のごとき宝玉が嵌められている。

 そしてそれは、まるで何かしらの意思を示すかのごとく、閃いていた。

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