仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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1.捜査官の秘訣

 坂上順那は一瞬、考える。

 果たしてつい先ごろに起こった出来事は、現実だったのか。

 だが生々しい破壊の後、負傷者多数の警察官や民間人……それと同程度の行方不明者が出ている事実を顧みれば。

 理性、感情両面でそれを受け入れざるを得まい。そのうえで、向後の方策を立てねばならない。

 

 破られた檻から、あの魔獣はそこに収監されていた窃盗グループのリーダーが変異したものだと思われた。

 だが、ガイアメモリやアストロスイッチを隠匿していた可能性は低く、外部から何かしらの要因が持ち込まれたことは容易に想像がつく。だが、その直後の監視カメラのデータが削除されていた。

 そしてこの署のエリア外の目撃情報はSNSからも皆無であり、この暴虐の後に忽然と姿を消していた。

(その事実から――疑うべきは……)

 

「大変でしたね」

 最低限の後始末をつけてひと段落した辺りで、無事だったソファに腰を下ろしてくたびれる。そんな順那の鼻先に缶コーヒーが突き出された。

「どうも、先ほどぶりです」

 匂い立つほどに優雅に微笑みかけるのは、かのインターポールからの派遣者だった。

「えぇ、ハンジ捜査官、でよろしかった?」

「そこで疑問形になられると、少し寂しいですね」

 苦笑する彼から缶を受け取り、蓋を開けて匂いを嗅いだ。

「だってそれ、偽名でしょう?」

 とそれとなく言って。

 

 男は、微笑を崩さない。

 だがそれとなく、間を取りつつ答えた。

「たしかに、我々は秘密主義者として、いくつもの名、顔を使い分けています。比較的公然と動いているのは、『メテオ』ぐらいでしょうか。ですがここはハンジ、とお呼びください」

「それでハンジ捜査官、ずいぶんお早いご到着のようですけども、ひょっとして貴方が来日した理由と何か関わりがあるのかしら」

 わざとらしいほどの女性口調で問いかける彼女に、スマートなその男は肩をすくめた。

 

「――今朝がた説明した通り、人間社会は、ひいてはこの国は、度々危機に苛まれてきました。一、二年のブランクを置いた後、まるで留めていた堰を切ったかのごとく激化した。某地方都市での『精霊事件』、古代の王の復活。ハイスクールで起こった変異型SOLUによるバイオハザード。上位存在オーバーマインドの顕現とESP事案。創世の盃『アムリタ』による次元融合の危機……まるで二〇〇九年より起こった仮面ライダー絡みの危難を踏襲するかのように、時計の針を巻き戻したように。その裏で、『Forest1』は事態の収拾や二次被害を防ぐために奔走を続けていた」

 ――要するに、遠回しな肯定であろう。そして、多くは話せないという意思表示でもある。

 

「正直言って、捜査官が羨ましいですね」

「ほう? なぜ」

 それこそ坂上順那は、幼少のみぎりにグローバルフリーズを経験した。

 それを解決した泊刑事に憧れてこの世界に入った。

「――ですが、主にやっていることは手柄争いに権力闘争。それでも初志だけは失うまいと気負っていても、こうして新たなる脅威にいざ対してみれば、手も足も出なかった。沈着冷静に対応してる貴方とは違う」

 自虐と共に啜るコーヒーは、ミルク入りにも関わらず、苦かった。

 

「こういうときに、やっぱ出ちゃいますよね。意志の強さだとか、経験の差だとか」

 脳裏に思い浮かべたのは、普段はサボリ魔のくせに、身を挺して彼女を護った、あの『刑事』。

 

 そして見据えたのは、眼前のエリート捜査官。

 一路とは対極に位置する、その男。

「……そうでも、ありませんよ」

 彫りの深い顔に少し陰を落とし、首を振った。

「私だって、かつては自らの不甲斐なさに憤ることもありました。救うべき人々に裏切られ、この仕事自体が嫌になり、そうした苛立ちから家庭を見棄ててしまいそうになることさえ」

「意外、ですね」

「『人に歴史あり』、ですよ」

 と流暢にも程がある日本語で返した。

 

「でも、そんな貴方は今や立派な社会秩序の守護者じゃないですか。何か、そうなったきっかけってあるんですか?」

 ハンジは、少し考えてから笑った。

「公私をきっちり分けること、ですかね」

 彼らしからぬ、子どもめいた面持ちだった。

「フツウ、ですね」

「えぇ、そんな当たり前のことにさえ気づかず、仕事と家族のため、自らをすり減らしてしまっていた。だからプライベートは自分の立場や責任を忘れて、思い切り楽しむことにしたんです。家族にしてみても、適切な距離感こそ大事だって、やっと分かったんです。……すみません、毒にも薬にもならないことを」

「いいえ、素晴らしい考えだと思います。ほーんと、どっかの腐れ刑事に聞かせたいぐらい」

 

 そんな自らの発言に、順那は表情を曇らせ、目線を落とした。

 端末で何度か安否確認のメッセージを送ってはいるが、未読がずっと続いていた。

 あるいは、他の消えた警察官と同様……という最悪の想定が脳裏を刹那的によぎる。

 

「明智刑事ですか、彼のことが心配ですか?」

「ま、一応ね。ひょっとしたら、またどこかでサボリかもしれませんけど」

 スマホをしまい込んで、順那は苦笑した。

 無作法を承知で、両足を投げ出し、浮かせる。

 

「前はあんなじゃなかったんですけどね。でも、なーんか、今でもやってくれそうな気はしてるんで、その何かをするまでは、多分大丈夫ですよ」

 そんな順那の言葉に、ハンジも真摯に頷いた。

 

「私も、彼のことは買っています。貴女と同様、無事を信じていますよ」

「ホントですかぁ?」

 リップサービスにしてもあまりに胡乱なその感想に、自分で言い出したことながら、順那は思わず失笑した。

 えぇ、と。

 微笑と共にハンジはあらためて言った。

 

「最初に会ったその時から、見込みがあると思っていまして」

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