仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
目下、知りたいことについて。
「じゃああの怪物は、つーかこいつらは、一体何だ? そのデジタル悪魔の眷属か何かか?」
『……ギフを電子再生化するにあたり、もちろん最初は難航していた。そりゃそうだ。一つしかないパズルのピースから、全体像を復元しようってんだから、その困難さは例えデータ上であっても違わない。そもそも、タジュン自身が本来そのテの技術は門外漢だ』
だから、と座椅子が軋む音と共に、クスミは続けた。
『彼は、自分も中に入り込むことにした』
と。
「……そいつは、また」
一路は頬を引き攣らせた。
『元々、アニマもサーキュラーも人間を電子化するための技術だ。素人考えだが、画面越しより直接的なアプローチの方が効率的だと判断したんだろう。そして、ギフは人の悪意に強く反応する。それは解析を進めるAIでは遠く及ばない分野で、それは【生】の感情が好ましい』
「……そのための、『コレ』か」
眼前に蠢く異形の影たちを、苦々しく見つめながら一路は見当をつけた。
よくよく観察すればその挙動、漏れ聞こえる会話の内容ははいたって理性的であり、社会的で、尋常ならざる彼らの
『察しが早くて助かるね。そう、そのために作られたシステムこそが、パンデモニウム内に入って活動するための電脳体アルタール。そしてその身体を物質化させて現実世界における『悪意』を収集するためのデバイス、マリスチケット。そして解析・管理を担当するAI、ギフの生存時の習性や体組織を再現するための参考とする。例えるなら、ギフというゲストに栄養と血肉を与えるべく、現実という狩場で人間を狩り、
「……そんな秘密の遊び場にしちゃ、ずいぶんとお客さんが多いようだが」
相手が自分と同じく人間ということは分かっていくらか安堵した一路だったが、それでも物々しい数と風体であり、まず軽々しい接触が許されないことに変わりはない。
『二年前、肝心のタジュン氏がシステムの完成の直前に病死してね』
それは知っている。欧米は言うに及ばず、こういって情勢に疎い日本でも取り上げられた。
『その研究を、三人の遺児に委ねた。長男カタキト、次男ジィダ、長女ヴァニク。そしてギフの秘密を完全に解き明かした者に、自らの遺産を与えるとね……けどその遺言から数日後、こうも言い残した』
――もっとも大事なのは、最後の一瞬。その一瞬に悪魔の囁きに屈さぬ者。
「その、意味は?」
『さぁてね。なんにせよ、子供たちにとってはもう死を前にして前後不覚となった老人の戯言でしかなかった。その遺産は単純な富や利権だけじゃない。ギフの力、マリスチケットやアルタール、パンデモニウムそれら一切を手中に収めることを意味している。元々野心家だったヤツも、以前は良識的だった人も、その力に魅入られたか、あるいはタジュンの業が乗り移ったか。皆、徐々におかしくなっていった。そして奴らがギフ解析や悪意の集積のために招き入れたハッカーや無頼者によって、パンデモニウムはあっという間にこのザマさ』
あまりにスケールの大きな話に、一路は絶句し、閉口する。
『で、あんたはそんな悪魔の坩堝にほぼ生身に近い状態で放り出された、哀れな仔羊ちゃんってとこかな』
「……そう思うのならさっさと引き戻してくれませんかね」
そして我が身に立ち返って、それどころではないと思い知らされる。
『いや、それが中々に難しい。何しろ、相当イレギュラーなことが起こってる。シフトロードライバーを使っていたとしても、ほど生体情報そのままがパンデモニウム内に転移するなんてことは、本来だったらありえない。強引にベルトを外した瞬間、エラーを起こしてデータの藻屑になってもおかしくないのに』
などと、タコの音声から語られるのはぞっとしないことばかりだ。
『まぁアンタには、もともと見込みがあった。アルタールの干渉を視認できる一種の共感覚の持ち主だからね……それとも、別の要因があるのか』
――面白ェ、センスあるよ、お前
――ウン、良いぞ兄弟。やっぱお前は見込みがある!
蘇る、二年前の悪夢。
ショックで記憶が曖昧なままだが、遺伝子レベルで刻まれた呪詛が、心臓を締め付けるようだった。
……もっとも、今は締め付けられる心臓そのものがデータ化してしまっているという、笑えない状況だったが。
だがそれでも、今の説明と、あの時起こった出来事がなんだったのか、ゆるゆると細い糸で繋がりそうだった。
「関係ねぇだろ」
だがそれを
冷たく突っぱね、話題を転じる。
「つか、お前も要するにアルタールってのでマリスチケット使ってんだろ? それ使えば実体化できたんじゃねぇの?」
『オレ様のはダミー品なの。今回初めてホンモノのマリスチケットを手に入れたんだけど……使ったところで無駄だしな』
「あ?」
『なんでもない』
どことなく拗ねたような、まず間違いなく不機嫌な調子で、画面のタコは言った。
『とにもかくにも、あの時はアンタの質量を転換して、オレ様が現実世界で変身するしかなかった。出来れば今後も
「どうかなもクソもあるかっ、今後なんてねぇ! テメェとはココ出たらそれきりだ!」
『いや悪かったとは思ってるよ。でも、人々を守るためにはこの方法しかなかったんだ。一時の怒りは水に流して、最後まで力を貸してくれよ、相棒』
しれっとそんなことを言ってのけるアルタールに、
「ウソくせぇ」
一路は冷たく返した。
『え?』
「こんなやり口の奴が、人々を守るためだとか言ったところで信じるに値しないんだよ。てゆーか、そもそも守れてねぇだろ。どうせ他に魂胆があるんだろうが、それを打ち明ける気のない野郎に相棒呼ばわりされたくないね」
肉体はないはずなのに、口の中に沸く苦みは、本物だと感じる。
「俺にとって信頼に足る相棒は、ただ一人だけだ」
と呟くように言う。
『それは、五乗駆刑事?』
「あぁ」
一部関係者からは、二年前の『誤射』は彼の優秀さに嫉妬したゆえと思われている。たしかに、彼に負い目を感じ、嫉妬したこともあった。
(それでも、俺にとってあいつは憧れで、誇りだった)
自分に無いものを持っている。
他の刑事たちの『撃たれたのが明智であればどれほど良かったか』という酷薄な陰口も、理解できてしまうほどの、刑事としての良心、資質。
たとえ現場から退いたとしても、原因となった一路に恨み言ひとつ零さず、余計な詮索もせず、親身になって公私の相談に乗ってくれた。
「あいつがいたから……この二年間、あいつが生きていてくれたから、今でも俺はデカにしがみついてんだよ」
そこに寄せられた信頼の差は、聴こえの良い方便の一つ二つで、埋められるものではなかった。
『……』
そこにクスミは返す言葉もなく、奇妙な間を置くのみだった。
『何はともあれ、あんたには
そんな宣いつつ、通信は一旦切れた。
〜〜〜
「五乗駆、ね」
独りごちるクスミは、手にした一路の端末を弄る。
二年前の事件の日という、単調だが重いパスワードを解除し、直近の履歴を精査する。
鬼のような坂上順那からのメッセージ以外、特に目立った点はない。
だがそれを見たクスミは
「やっぱり……」
という一つの、確信に限りなく近い可能性に気づいた。
とは言え、今そのことを一路に伝える気はない。彼はその宣告通り、やむを得なかったとは言え、あの変身でこちらへの信頼を失っている。ほぼ事実とはいえ、言えば逆に彼の不興と不信を買って拗らせるのは目に見えている。
その盲を晴らすのは、一路自身でしかありえない。
「……さて、と」
クスミはラボを発った。
それはそれとして、己にもまた課題はあり、一時的にとはいえ現実世界に戻ってきた上は、顔を出しておきたい場所がある。
そしてそこにある