仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
通信が切れてから、数秒後。
その端末代わりに使っていたシフトロードライバーを所在なさげにまさぐり、目につかない範疇で物陰をうろつき、貧乏ゆすり。
「――って、なんで勝手に切ってんだよ!?」
そしてワンテンポ遅れて、声を張った。
「こんなトコで一人にするなよ、心臓バックバクがぁ……っ」
と、情けない声をあげる。
信じられない、と宣告したことなどすっかり頭から抜け落ちた彼だったが、今その信頼置かれざる蜘蛛の糸、もといタコの触手一本で、現と繋ぎ止められているだけに過ぎないことを思い知らされる。
「……結局、どれだけイキがったところで。ネットだろうとリアルだろうと、誰かに首根っこ捕まってなけりゃなんでも出来ないってわけか」
そう自嘲する一路だったが、その背に強い電流のようなものが三発、叩きつけられたかのような錯覚に陥り、大きくつんのめった。
見てはいけない。顧みてはならない。
そう直感しつつも、独りでに身体はその方角へと向けられる。
おどろおどろしいピエロの顔看板。それに不釣り合いなポップな字面で『Happy you』というロゴ。
その方形の小屋、ないし何処へ通じているともしれぬ入り口から、四体の
先行するのは黒いスーツ、スリムなシルエットのボディスーツとアーマー、そして腰にまで達するマント。そしてそれらテクスチャの関節部に毒々しい緑を施した、蝙蝠の怪物。
SFチックな胴体部とは裏腹に、ゴツゴツと無骨な質感で膨れ上がったコウモリのマスクの額に、脳のような刻印が捻じ込まれている。
中盤に陣するのは、蛇の異形。
その脚部は異様に細く、直線的で、妙に艶めかしい質感である。
その正体は蛇の巣のように絡まり合って補強された、無数のパイプ。しっかりとした足取りで進む度、その奥底で青き光が明滅する。
その胴体には泡のごとき鱗が張り付き、顔面は蛇の顔と女の顔がないまぜになったかのよう。ギリシャ神話のゴーゴンやヒドラなどは、かくのごとき者ではなかったかと想起させる。
黄色い目を取り巻くアイシャドウが、如何にも変身者の反骨精神を表すかのようだった。
そして、三番目。
巨躯である。だが、迸る熱波めいた存在感が、それさえ霞ませる。
太古の恐竜、あるいはハートマークのごとき、頭頂を二つに枝分かれさせた異形の頭部。噛み合わさるギザギザの牙を模したバイザー。
そのインパクトに負けることなく支える、骨格の剥き出しになったボディ。たくましい爪によって膨れ上がった四肢。いずれも、パステルカラーと真紅が入り混じる。
にも関わらず、ナプキン、あるいは巻かれたマフラーのような生地が分厚く首元胸元を覆い隠し、如何にもそれが想像に出てくるような悪魔的だった。
その造形に、直接的な覚えがないのに既視感がちらつく。
――おいおい、すげぇ
いや、間違いない。
あれは、
――そっちは、どうかな?
あいつは――!
想像上の五乗駆に、その腕が伸びて。
それから。
それから。
「……ん?」
おもむろに、その恐竜の化物が一路の方を顧みた。
一路は、こぼれそうになる吐き気と悲鳴を口を押さえて押し殺し、死角に身を屈ませた。
「如何しましたか?」
最後尾にいた、怪鳥のようなアルタールが声をかける。こいつには画面越しに見覚えがあった。クスミが取り逃した、プテラノドン型のアルタールだった。
「……別に?」
と、恐竜のアルタールはそっけなく返し、首を戻した。
「話を戻しますが」
と、コウモリが言った。
「正体不明の強化型アルタールが、被験体を撃破。精製されたマリスチケットを二種、奪取された。そうですね?
「アルタールじゃねぇさ」
「ではなんだと?」
「決まってるだろ? 人々の自由の平和のために戦う戦士――仮面ライダーさ」
「馬鹿々々しいですわね」
蛇のアルタールが、よく通る女の声を響かせて口を挟んだ。
「アルタールの存在は、未だ現実には認知されていない。ドライブを失った警視庁に、対応手段があると思えない。どこぞの野良ハッカーの仕業か……もしくはどこかの誰かさんの仕業かしら?」
そう言って、トパーズのような目が恐竜を射抜く。
「おいおい、俺の自作自演だってのかよ?」
大仰に肩をすくめる彼に、畳み掛けるようにコウモリ――言うなればバットアルタールが言った。
「そもそも、兄上は粗忽な行動が多すぎる。今回のライオンの件だって……暴走させるなど」
「良いじゃねぇか、どうせいつかはバレるんだ。だったらド派手に楽しもうぜ」
「貴方は遊びでも、我々はギフの遺伝子を完全再現し、人類の遺伝子を次の段階へステップアップさせるという、崇高な目的のために行動していますの。足を引っ張らないで欲しいものですわね」
「やれやれ、愛する兄様に冷たいねぇ。たとえ半分以上は趣味でも、マジメにやってんだぜ、俺は?」
「兄?」
蛇――いや胴体の模様を含めて考えれば
冷笑を含ませて、返した。
「リアルで素顔で会うことがあれば、殺し合いを始めそうな面々が、今更家族とでも?」
恐竜――レックスアルタールは返答をしない。しかし、マスクの造詣から声を忍ばせ笑っているようにも見えた。
「……とにもかくにも、自重いただきたいものです。『彼』に監視をさせて正解でした」
と、バットアルタールはプテラノドンのアルタールを顧みた。
「おう、その節はどーもどーも」
いかにもおどけた調子で深々の頭部を下げる。
「詫びに、逆にお前が今度しくじるようなことがあれば、そん時はフォローしてやるよ」
「いやいや、そのような時があるかどうか」
それこそ、その電脳体にふさわしい甲高く鼻につく声調で、プテラアルタールは返した。
「実はその仮面ライダーとやら、心当たりが少しありまして」
「ほう?」
興がそそられたように、レックスが頭をもたげた。
「すでにその関係者らしき男を手札として押さえておりますれば、『タコ』の触手を掴んだも同然」
――え、と。
知らず、一路の口から刹那的な声が漏れた。
「それは重畳至極。ま、ぬめって取りこぼさないように頼むわ」
と、本気か冗談か分からない調子で言う彼を冷視しつつ、バットアルタールは
「では今回の件、君に一任しよう。早々に処理するように」
と返したのだった。
そしてその四体の悪魔たちは――いわゆるログアウト的な処理か。天より注がれた光の柱、その中へ吸い取られ、呑み込まれるかたちで、姿を消した。
直後、言い知れない解放感と脱力感が一路を襲い、彼はその場に崩れ落ちた。
限界まで肺腑にため込んだ息が、吐き出される。だがまだ、毒素に似た何かが腹の底に淀んでいる気がする。
会話の、他を寄せ付けない圧倒的気配から推察するに、おそらくは、あれが件の三兄妹。
長兄カタキト、次男ジィダ、長女ヴァニク。
そして彼らに雇われたハッカー、といったところか。
だが。
だがあの、言葉の意味するところは――
「わぁお、なんだかタイヘンなコトになっちゃったみたいネー」
ふと顔の真横で、声が聞こえた。
職業はラッパーですと言われれば、さもありなんと言った具合の軽妙な声。
そしてそこにもまた、悪魔なるものがいた。
蓬髪は白く、肌は黒く、眼は白目も黒目もなく、青一色でシャープに塗りつぶされている。そして口だかマスクだか分からないだんだら模様が、顔面の下半分を覆っている。
それ以外は、無い。
鞠状のその頭部以外、身体らしい身体が存在していなかった。
「どーもー、管理AIの、ドン・ワイターでぇーす」
と元気よく跳ね上がるその異物に、今度こそ一路は悲鳴をあげた。