仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
そして『クスミ』がオフにしていたオクトフォン8を開けると、不通未読のまま溜まれていたメッセージが堰を切ったかのように画面内を流れていく。
通話が出来ない状況にあって、ドライバーが一路の発する言語を文字に変換して、彼の近況を報告するための機能だが、そのどれも断末魔に類するもので、ノイズまみれだ。
「……まぁ、今もってなお流れてるってことは、生きちゃいるか」
その落ち着きない叫びの数々に、クスミは案ずるより先に呆れた。我が境遇をあらためて痛感し、それを嘆き悲しむ暇もない。
それを音声通話モードに切り替え、フードの下に潜らせて耳に当てる。
「どうしたよ、旦那」
『そりゃこっちのセリフだ……っ、今まで、お前……何して、ゲホッ!』
繋がるなりあらん限りの罵声が飛んでくると身構えていたクスミだったが、殊の外一路は冷静だった。
ただ、全力疾走したかのように、咳き込んでいる。
今の彼はあくまでデータなのだから、疲労も有酸素運動もあったモノではないはずのだが、まぁそこは心理的な問題だろう。
「悪かったよ。ただ……母に、会ってた」
『はっ、そりゃ……いいおふくろさんなんだろうな。こんな時でさえ会いたくなるような母親だもんな』
「…………」
『なに黙ってんだよ。言っとくが、イヤミだぞ』
「分かってるよ。でも……ありがとう」
『あ?』
己のことを卑下して、かける言葉もなかった自分に代わり、『良い母親』と言ってくれて。
意識してのことでなかったとはいえ、逆に気落ちしているところを励まされるとは思っていなかったクスミは面食らい、そして咳払いする。
「で、旦那の方はどうしたよ?」
『お前に切られたあと、妙な奴に追われてんだよ! なんか、変なボール野郎に!』
『ねーねー、ソレ、誰と繋がってんのぉー?』
『ぎゃあっ、出た!』
変なボール野郎。そしてこの浮ついた声音。
何者と遭遇したのかは、クスミにとってはすぐに察しのつくことだった。
「まさか、ドン・ワイターがいるの!? うわ、サイアク……普段はそんな低階層のとこなんてまず来ないはずなのに、なんで今日に限って……ほかに大物でも来てたの?」
『ごちゃごちゃ言ってねぇでなんとかしてくれよっ! つかなんなんだこのふざけた野郎は!?』
「そのふざけたのが、パンデモニウムの管理運営を任せられているAIだよ」
『はぁっ!? コレが!?』
「あと、ギフの解析もね。なにを考えてそんなAIモデルにしたのかは謎だけど」
しかし、まずいことになった。口の中でそう毒づく。
と同時に、中庭に降り立った彼女は、手にしたドライバーのスペアを手早く起動させた。
『ねぇねぇ、無視しないでちょーだいよ! ほら、チケット拝見!』
『は?』
『車掌さんが来たら、切符を見せるのがルールでしょーよ。じゃないと、食べちゃうぞ?』
『おい、コイツ……なんだって?』
「うーん……かなり特殊で雑多な言語だけど……つまりは『非正規アクセスの疑惑あり。正式ユーザーの証明たるマリスチケットを要確認。確認出来なければ、不当なデータとして削除処理を行う』とまぁ、そんなところかな」
『……いや、なに?』
「――『マリスチケットを見せろ。出せなきゃ殺す』」
今度こそ、パニックの上の一路の叫声がクスミの耳を衝いた。
『ジョーダンじゃねぇぞ! おい、お前のチケットこっちに寄越せねぇのか!?』
「オレ様と紐付けされてるから、無理。たとえ出来ても、イレギュラーはオレ様も同じだから通用するかどうか」
だから自分も、アルタールになってから、極力接触を避けてきた相手だった。
「とにかく今は時間を稼いでくれ。今から再転送かけるから」
不運体質か、それともそういう星の下に生まれたせいか。
次から次へと、クスミ自身も含めて厄介ごとを引き寄せてる男に口早に言い放つや、自らの触手をドライバーへと伸ばした。
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何事かを始めるなり、クスミは再び通信を切った。
取り残されたのは電脳世界に、悪魔と己、一人と一匹のみ。すなわち、振り出しに戻る。
「時間稼ぎって……」
何をすればいい、とはもはや訊かない。訊く相手もいない。頼れるのは己の才覚のみである。
「仕方ねぇ、やるしかねぇ……っ」
と腹を括る。
そしてことそれのみについては、一路にも自負があった――。
「……どーもどーも! これは管理者様とつゆ知らず、失礼を致しました!」
一転して相好を崩して愛想笑い。手を揉み、相手の背後に回って、肩に相当する部位を揉み、ひたすらに低姿勢。
「巡回お疲れ様です。さぞ大変なんでしょうねぇ」
「お? お? お? そーぉ? 分かってくれる?」
「いや自分もね、そりゃあ現場は足で稼げとかコキ使われた身なんでね、そりゃもう分かりますとも! あ、せっかくなんで風送りますね」
「いや、初対面のひとに、こんなことさせちゃってなんか悪いねぇ」
「いえいいぇいいぇ、とんでもない! どうぞお寛ぎくださいな。よろしければ椅子にもなりましょうか?」
「それより、チケット」
「はい?」
「ハイ、チケット」
「…………はい」
そして、見事に無駄に終わった。
流石に管理AIと言ったところか。そのナリと言動に反して、融通がきかない。
元より不意に放り出された徒手空拳。空手形を切ることさえも許されない。言葉と対処に窮し、後退する一路に、ムフフという含み笑いと共に、ワイターがにじり寄ってくる。
「持ってないじゃんねー?」
「いーや、それは……」
「それじゃー、約束通り……いっただっきまーす!」
うきうきとした調子でそう言うや、その顔面が前へと伸び上がり、グネグネと巨大化し、巨大なハンコ状へと変形する。
そして一路を抵抗する間も無く頭から丸ごと呑み込んだ。
痛みも苦しさもない。ただ、言い知れない恐怖があった。
自分が毛の先まで解析され、そして分解されていく錯覚に……いや、間違いなくそうなのだろう。
それに抗おうと手足をバタつかせるも、ワイターの内部を手応えなく掻くだけだ。
末期の走馬灯か、それとも解析結果の反芻か。
これまで己の身に起こったことがまざまざと蘇る。
初めての変身。奪われた質量。
そこに現れた未完成のアルタール。
貫かれた自身。そして相棒に迫る魔手。その顛末を……客観的に、見せられ、そして記憶が完全に定かなものとなる。
心臓の中で、何かが蠢くイメージ。何か鎖の如きものが回路のように絡み合い、締め上げる。
その蠢動を、この世界の果て、異形の
「おえっ!?」
ワイターが突然、一路を吐き出した。
勢いそのままに壁に激突した一路もまた、気分の悪さに濁った呼気を漏らした。
その手元に、硬く平べったい感触の代物が、転がっている。
地を掴むが如き溝のついた鉄片。紅く塗られたボディに、黒く楓の葉のごとき文言と、『R』の文字が刻まれている。
そしてそこには回路のように線を交錯させる塩梅で、
『Rex Circuit』――そう、銘打たれていた。
「マリス、チケット……?」
起き上がりがけ、恐る恐る手に取った一路だったが、それが空恐ろしいぐらい己に馴染むことにすぐに気がついた。理屈無しに、それが自身のものだという確信が脳裏に刻まれる。
「ははぁ、なるほど。そーゆー事ね」
と、ドン・ワイターは勝手に一方的に合点したように、しきりに頭部、もとい全身を上下させていた。
「もうっ、なんだよなんだよ!
何が『そーゆー事』なのかは語らないまま、宙を漂い回り、その身をぶつけてくるボール型の怪物。
「――なぁ」
その彼に問い質さんとする前に、
『よーし、繋がった! 段取り飛ばして転移開始!』
タイミング悪く、腰のドライバーからクスミの声が響く。と同時に、その視界が揺らぐ。またしても身体がバラバラになるような衝撃と共に、世界が暗転した。
闇と光、両極端に激しい明滅を浴びた後、浮遊感が彼の足下を、そして総身を包む。
「でっ!?」
そして、それが収まった後、彼は地面に軟着陸し、腰と尻を打ち付けた。
だが、その下肢に敷いているのは、柔らかい草と土の感触。確かな踏み応え。
目を刺すのは、白日の閃き。
開けた視界は、どこその大病院の、中庭のようだった。