仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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6.真実に行き着き、理想に至る

 一路は、現実に戻された自分が転移させられた場所を、その病院を見て回った。警察官と言う立場を上手く利用して。

 一部病棟には入る余裕がなかったが、得られた情報だけで憶測が確信に代わり、恐れが痛恨に転ずるには十分過ぎた。

 

 日が暮れて後、中庭に戻ってきた彼は、力無くベンチに、明日を投げ出して座り込んでいた。

『ワイターの姿は消えたみたいだが……いったいどうやってやり過ごした?』

 あちら側に戻って同じように諸々を確認していたらしいクスミが、怪訝そうに問う。

 それを無視して、ドライバーを手にした一路は

「こいつはもう、煮るなり焼くなり、俺の好きにして良いよな?」

 と問いかけた。

『……ご随意に』

 少しばかりの沈黙の後、クスミは画面越しに返した。

「分かった」

 必要なのは、その許可だった。

 

 一路は強張った手で、彼自身の携帯を取った。

『あぁ、良かった! やっと出た』

 画面に、五乗駆の映像が映し出された。安堵したような笑みを浮かべるかつての相棒に、

 

「悪い悪い、ちょっと立て込んでてな」

 と平かな声音で詫びる。

『あぁ、聞いたよ。何でも署内で化け物騒ぎだって? 捕まえた窃盗犯が変異したって言う』

「ん、やっぱそうなのか? だとは思ったが……その情報、どっから仕入れた?」

『坂上。ほら、あいつも巻き込まれたんだろ?』

「そうだったな……でも、もしそうなら不思議なんだよな」

『ん、何が?』

「だって、昨日今日の話で公表もされてない事件の犯人だぜ? ましてや、留置所の場所なんて知るわけがない。一体何処から漏れた?」

『その辺りも含めて、捜査開始ってところだな。たまには直接顔を出せよ』

「あぁ、そう思っているんだよ。今、()()に」

 

 沈黙が続いた。

 

「若林総合病院。何の偶然か、今いるんだよ。で、ついでなんで顔見せようと思ったんだけどさ……そんな五乗駆なんて入院患者は、いないんだと」

『……その受付、新人だったんじゃないか? ほら、ここ入れ替わり結構激しいから』

「ていうか、中庭で座ってんだわ。お前と同じ中庭に。同じベンチに」

 

 送られてくる映像。そこと同じ位置、同じアングルを作りながら、そこに座る『相棒』を苦笑と共に、質した。

 

 

 

「じゃあ、そこは一体何処で……お前は誰なんだよ」

 

 ~~~

 

 

 完全に、思い出していた。

 あの異空間に入り込んでから。そこで元凶を目撃してから。そして悪魔に呑まれかけてから。

 まるで自分というフォルダの中を精査(サルベージ)するように。

 外に求めるまでもなく――答えはそこにあった。

 

 それは悪夢の答え。現実の続き。

 あの英都銀行での発砲は、狼狽の果てに見当外れの方向に飛んでいった。

 

 立てこもり犯が悲鳴をあげ、そのまま喪心して崩れ落ちる。

 だがそんなことさえどうでもよく、己は膝から下に力が入らず、立ち上がれない。

 

「一路……」

 そんな情けない自分の目線に合わせて、

「そこに……何かいる、のか?」

 と、五乗駆は呟くように問うた。

 

「御名答。信頼されてるなぁ、相棒?」

 と、影が嗤う。

「が、見えてないんだな。じゃあ――お前は、失格だよ。可哀想に」

 嘆くように目を覆うようなジェスチャーの後、その怪物の手が一路にしたのと同じように駆の上半身を貫いた。

 

 ひとつ違うのは、その相棒の身体が跡形もなく消滅したこと。

 きっと、自分が何故殺されたのかも、どう処理されたのかも、いや死のうとしているその事実さえも、認識できないままに。

 悲鳴も遺言も残さず、呆然とした表情のまま、悲鳴もあげず。

 

 それが五乗駆の核だと言わんばかりに中空に残されたのは、ひとひらの断片。

 蝶のごとく舞う青き鬼火とプテラノドンの横顔、そして『Ash Go-Round』なる銘。

 それらを会社のロゴのように組み合わせたそれを指に挟みこんでひらひらとさせながら、

 

「これからはお前が俺のバディで、家族さ――エンジン沸かして愉しくやろうぜ、兄弟」

 そう、悪魔は告げる。

 

 その絶望に打ちひしがれて、今度こそ意識が薄れ、一路は失神した。

 そうだ――つまるところ、なんてことはない。

 

 

 五乗駆は、すでに死んでいた。

 二年前のあの日に。

 

 

 ~~~

 

『ふ、ふふふ……ハハハハハ!』

 画面の中で、『五乗駆』は笑いだした。

 その表情が歪む。比喩ではない。事実、その顔は頭部は、首は、ゴムでできているかのように、四方八方、関節や骨格を無視した変容で、波立つように歪んでいた。

 

 それだけにとどまらず、背景の草木も建物も、融けて輪郭や境界が曖昧になって、『五乗駆』と一体化していく。

 

『なんだお前、今更気づいたのか!? せめてもうちょっと早く、病院に顔を出してりゃ気づけたもんだがなぁ。直接会うのが怖くて日和ってたんだよなぁ? 心の底じゃあ相棒のことも含めて全部忘れたかったんだよなぁ?』

 

 かつての相棒そのものの声音の裏から、誰か別の男のものが貫通してくる。

 

『だがまぁその場合は、お前の命も無かったけどな、命拾いしたな』

「……なんでだ」

 

 何故、二年も、相棒に擬態していたのか。何故、自分たちだった。

 答の有無に関わらず、募る疑問が、その四文字に集約されていた。

 

『ある人から、お前の監視を頼まれていたんだよ。なんで生かされたのかは知らないが、お前は見ちゃいけない現場に居合わせた。もしそのことを表に出すことがあるなら――口封じされてたんだろうな』

 もはや、画面の向こうには絵具を混ぜて塗りつぶした、混沌が渦巻くだけだった。それが、男の音声に合わせて流動のパターンを変えて行く。

 

『もっとも、お前はオレの正体に気づきも疑いもしなかった。動画も画像も簡単に改ざんや偽造できるこのご時世に、画面越しの相棒の何が信じられたんだか。そのうち、お前がオレ以外の誰かと連絡や行動をとるようになってからは、その相手を探るため泳がせてたってわけさ』

「……なんだったんだ」

『はあ?』

「こんな、こんなクソッタレの真実を捜すために動いてた俺は、この二年間は、なんだったんだ……?」

 一路は笑った。笑うしか、なかった。

 

『まっ、良く言って――身内を殺されてんのにも気づかず、その仇の一味をそいつと思い込んで泣き言垂れてた、マヌケなガキ。そんなところだろうさ』

 何の感慨もなく、無慈悲に言い渡された。

 だが、この相手のすべてが欺瞞だったとしても、その言葉は事実だろう。

 

『で、そのガキのお守りもこれまでさ』

 

 混沌の渦の中、『駆』の眼が、飛び出て画面に張り付かんほどになる。そして記憶の中、五乗駆より抽出されていたあのチケットを、叩きつけた。

 

〈アッシュゴーランド!〉

 という音とともに、液晶の裏に紅葉が如き足跡が刻まれた。

 やがてそれは巨大な亀裂となって、その亀裂が画面より外へ浮かび上がる!

 

『危ないッ』

 クスミの鋭い声に、思わずベンチからずり落ちる。それが幸いし、亀裂から突き出た剣先から逃れることができた。

 次いで這い出てきたモノ、それは広く幅をとる帽子。そしてその下の、異形感で満たされた怪鳥の肉体。

 

「――やはり、どこぞのアルタールがお前に味方してるな。そしてお前が音信不通になったタイミングと照らし合わせれば、そいつとお前、どっちかがライダーだってことも推察できるが……こうなった以上は、もう尋問の必要もないな。お前からマリスチケットを引き抜いて、そっから解析すればいいだけの話だ」

 

 そう言って、手にした無骨な鉄剣を振りかざす。

 寸でのところでそれを転がり躱し、膝をつく一路の腰に、自走するシフトロードライバーが取り付き、展開する。

 

「……こいつは俺の好きにしていい……さっきそう言ったよな?」

『けど、チケットはオレ様のものだ。またオレ様がそっちに行くしか、変身の方法はない!』

 

 ――(いいや)

 一枚のチケットがすでに、一路の手中に在る。それをバックルの右へ滑り込ませた。

〈レックスサーキット!〉

 吼えるがごとく、甲高く声が鳴る。

 バックル上部に、カートゥーンチックなピンクのティラノサウルスが黒いタイヤを齧る、タイヤ型のアーチが精製された。

 その背に立体的に妖光で繋がれた回路が組み上がる。

 右の頬を引きつらせ、唇を震わせ、それを抜き取ると、振り上げたプテラアルタールの剣筋が停まった。

 

『まさか――その、マリスチケットは』

「馬鹿な……っ! 何故お前がそのチケットを持っている!?」

 困惑する怪人たちに、返す答えはない。自分が聞きたいくらいだ。

 

 だが、一つ確かなことはある。

 行き着いたのがろくでもない真実だったとしても。

 愚かな自分がどれだけ迂遠な回り道をしていても。

 それでも、自分が追い求めていた答えは、今目の前にある。

 

 一拍子遅れて、剣閃が頭に迫る。

 その切っ先を、握りしめて止めた。刃に血が絡む。

 

 それに刺激されてか、心臓が跳ねる。そこに絡んでいた鎖の如きコードが溢れ出す。

 背の回路の陰が、融ける。融けて、一路の全身を漆黒に沈ませる。

 彼は、人とも恐竜とも、あるいはこの影ともつかぬ異形の姿となった。

 人ならざるその頬に流れる回路は、涙にも似ていた。

 今まで感じたことのない充溢した力を感じる。己が人ならざるモノに変わっていくのを肉体の内より感じる。

 

 ――皆が求めているのは俺なんかじゃなくて、お前なんだ。

 ――それに俺だって思ってるんだよ。お前なら、あの(とまり)進ノ介(しんのすけ)に続く刑事になれるんじゃないかって。

 

 だが、もう五乗駆は、相棒はいない。戻っても来ない。

 彼に託した夢も理想も潰えた。

 

 ――だったらっ! せめてこの一瞬だけでもッ、俺がなってやるよ!

 内なる己が叫ぶ。

 なるより他、ない。

 

「変身……!」

 

 敵とその刃を、尋常ならざる力でもって退かせる。そしてベルトのアーチを掴み、力任せに回した。

 背で交錯する回路の上を、無数の小型化されたレーシングカーのごときものが駆け巡っる。

 それらが紅蓮の装甲となり、一つ固まって肉食恐竜のごとき機械となる。

 威嚇がごとく唸りながら、背を曲げた一路。その頭の上から噛り付くがごとく覆い被さり、合一する。

 突き立てられた牙の接点から流れる、血かインクのごとき粘性ある液体が、そこに微細な調整を加えていく。

 

〈ナビゲーション!〉

 そしてサーキット自体は、悲鳴のごときスリップ音を響かせながら一つの巨大な輪形物と化し、その胸部に掠めながら飛んでいく。

 『R−』という記号とも、T-Rexの横顔ともつかないラフなエンブレムを、タイヤ痕のごとく刻み残して。

 

〈フロントドア! レックスサーキット!〉

 その眼で青く閃くLEDの点灯を、そして全体的によりシャープに、かつ凶暴になっている様相を除くならば、その基本となった姿は、まるで――

 

『ドライブ……?』

 と、クスミが元となったその刑事で、仮面ライダーの名を挙げた。

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