仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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7.観戦・乱入

 我が身を憎むべき怪異がひとつに変化させ、真紅の鎧をその身に纏い拳を握る。地を砕かんばかりに蹴る。

 疾走ならぬ、蛮走であった。

 呼吸を推し量らない、喚声。間合いを弁えない、突貫。

 だが、その暴威のままに繰り出されたパンチは敵の機の先を制し、文字通りの出鼻を挫く。

 

「くっ、この……!」

 もたげかけたプテラの頭を、ふたたび拳が襲う。

 何度も。幾度も。感情の猛りのままに重ねられる。

 

 咄嗟に前面に押し出した刃の腹で、拳を防いだ。

 金属音が止むより前に、プテラアルタールはその身体を翻し、その敵……仮面ライダーの鳩尾に叩きつけた。

 

「入った……!」

 その嘴より優越の声が漏れる。

 そう、確かにその刃先はライダーの身に直撃した。その衝撃で、苦悶の声も押し出された。

 

 だが、その剣は脇で固められる。装甲が顎のごとく喰らいつき、押し引きの一切が適わない。

 

「ぐ、おぉォォッ!」

 獣じみた咆哮とと共に、一路は肘と膝でその剣を挟み込んだ。

 そして柄の根本より、叩き折られた。

 刃が宙を回り、壁に突き立つ。

 だがそれには一瞥さえもくれず、一路は腕を引き、拳をなお叩き込む。

 

 断末魔をあげながら、叢を転げるアルタール。

「この出力(パワー)……まさか、本当に、『あのお方』の……!?」

 だが、ダメージと引き換えに反撃距離は得た。己の当惑はかまけている暇などない。

 そう判断したのか、プテラの両腕に生えた双翼を上下させ、風を起こしてそれに乗る。

 

 入院客の眼もある。

 想定外の長期戦を避けんとする思惑もあってのことだろう。その場を離脱せんと高度を上げていく。

 だが、その飛行の先、上空より降り来る輪形の影が、行く手を遮りプテラへと激突した。

 

 バランスを失い失墜するアルタールをすり抜けて、右手に収まった。ホイール部分に編みこまれた、回路を握りしめる。

 それは、一路の胸に印を刻んだタイヤ型のデバイスーーロードスタンパー19。名と使い道は、刻まれ、同化した遺伝子(情報)が伝えてくれる。

 

〈フレアロード〉

 その回路に直結した、トリガーを押す。そして起き上がったプテラアルタールが反撃を開始する。

 一瞬の交錯。怪鳥の爪が真紅の装甲に叩きつけられ、一路の身が傾く。そして、タイヤの帯びるオレンジの閃光は、怪人の胴をかすめたのみだった。

 応酬の勝者は、明白。一矢報いた満悦の呼気を、プテラアルタールは漏らす。

 

「むっ……!?」

 だが、自らの胸部に、オレンジのタイヤ痕がくっきりと残されていることに、当惑する。

 そして――その痕跡がひとりでにドリルめいた音を鳴らし、赤熱を帯びて『走り』始める。彼の電脳体を火花を散らして擦り削っていく。

 襲い来る激痛に、プテラは甲高い悲鳴をあげて悶絶した。

 

 それに自らの態勢が立ち直り切らないままに、息を荒げながら、ロードスタンパーを握りしめてにじり寄ってくる。

「ひっ!?」

 引き吊った悲鳴を発するプテラに、輪形の得物が何度も叩きつけられる。

 肩に、翼に、股に、引かれた轍が、火花と共に爆ぜる。

 

「おのれぇ……!」

〈ミラーハウスベノム〉

 それでもなお、プテラアルタールは諦めない。否、明智一路を打倒せねば、逃れられぬと腹を括った。尖った口より、奪取したマリスチケットを飲み込むと、爆炎によって不自然に曲がっていた右腕が、紫色に塗りつぶされた毒蛇の鎌首へと変異する。

 

 それが伸び上がって、その得物ごとに一路の腕を拘束する。

 万力が如き締め付けで、そのまま引きちぎらんばかりに。

 だが、呻きながらも、一路は懸命に指を動かした。

 

〈スパイクロード〉

 と、甲高い男の声で、別のモードを起動音がそのトグロの内より鳴り響く。タイヤより突き出た緑の突起が、蛇を腹や胴を食い破り、寸断する。

 

〈ミッドナイトロード〉

 そして無造作な突起は、一旦格納され、代わり四方に紫紺の諸刃が展開される。

 あたかも巨大な手裏剣のような様相をそれが、力任せにプテラへと投げつけられる。

 その投擲の荒々しさとは裏腹に、旋回と共に腕の先より再生しかかっていた蛇の胴を輪切りにして、正確に追い立てて、切り刻む。

 

 ~~~

 

 ……悪魔が二人、病院の敷地で戦っている。プテラの守秘的な思惑がためか、それとも一路の配慮の結果か。被害がそこに一極化し、戦場が拡張されていないのは、幸か不幸か。

 

 実のところ、そこに来ていたのは、もう一体。

 屋上からその様を、観戦している男が居る。

 その男も万一に備えて人の姿を捨て、悪魔化していた。

 

 ――そしてその姿の基本構造は、装甲の有無こそあれ、今の一路の素体と酷似していた。

 レックスアルタール。

 二年前に試験体のひとつに過ぎず、明確な実体を持っていなかった彼は、今や現存するアルタールのうち、頂点(ギフ)にもっとも近い存在とされる。

 レックス。それと同類と化した明智一路。五乗駆の成れの果て。

 運命がふたたび交錯し、動き出した。

 

「おぉ、ほほッ」

 と、圧倒的なその『仮面ライダー』の攻勢に、恐竜の悪魔は手すりに肘を寄りかからせ上体を乗り出し、喜悦の声を漏らした。

 ()()()()()()()()はあれど、その『兄弟』の姿こそまさに、レックスの望んだ有様だ。

 

「っと」

 だが彼は、すぐ身を引いた。人の姿に戻った。

 向かいの棟の扉が、荒々しく駆け上る見知った姿を、その途上で認めたからだ。

 

 ドアを破るようにして現れたのは、知性と驕慢をその眼鏡の奥底に宿した、細面細身の、十分に青年と呼ばれる資格を有する年頃の外国人。身なりも、レックスの『正体』に負けず劣らず、大層なものだ。

 

「さすがにここに居たのを見られるのはマズいかぁ……?」

 と言いつつ焦りの一つも見せず、まるでかくれんぼでもしているかのような調子と共に、彼は退散していった。

 

「あれが……仮面ライダー?」

 その青年――ジィダは隠さず舌を打った。

「しかし、なんてザマだ。情報統制にも限度があるんだぞ」

 長期化による存在の拡張。それは今この時点でのアルタールにおいては、忌むべき事態だ。

 

 そしてただでさえ、一族外の、()()()()()()()()()のパンデモニウムへの参入を、ジィダは歓迎してはいなかった。すべては異母弟の参入ゆえだ。

 

「仕方ない」

 嘆き、ぼやき、彼が取り出したのは、二つ。

 一には、黒鋼で出来た、何かの爪、鋏がごとき器具。先端が丸みを帯びている代わりに焼き鏝のごときものがついている。

 そしてもう一つには、マリスチケット。黒い地金にジャングルの秘奥に生える毒々しく濃い緑で印字と足跡のイラストが施されている。

 

 その焼き鏝で、マリスチケットを挟み込んだ。

〈Bat Company〉

 と、読み取り器具から地の底から響くがごとき音が鳴る。

 活性化(ブースト)したチケットが。そのシンボルの輝度を上げる。

 

 そのチケットを手元の扉に突き立てた。

 すると、ドアに亀裂が奔る。翼を広げた、コウモリの輪郭(バットシグナル)を形どって。

 その先にネオン明滅する悪魔たちの巣窟――パンデモニウムが広がっている。

 

〈Bad Confirmed! Bad Confuse! Bat Concentration! Bat Company〉

 その空間に保管されている黒き異形――アバターが自律的に這い出て、そのユーザーたるジィダに憑りつき、一体化する。傍から見ればそれは、人間を喰らう悪魔のように視えただろう。

 

 リアルとネットの垣根を超越し、電脳の怪異――バットアルタールとして現界したジィダは、その腕に黒翼を(ひろ)げ、屋上を飛び降りた。

 

 ――悪魔が戦地に、また一匹。

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