仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
パンデモニウム、内部上空。
その両脇の下に皮膜を張り、それをはためかせてプテラアルタールは滑空する。
「ここまで、逃げれば……!」
あとは地上に降り立ち他の悪魔に紛れ、アトラクションを遮蔽に使い、逃げ切るだけだ。
どうせ一路はこちらの素顔を知らない。あとはどうとでも、雲隠れするも奴が油断した日常の合間に不意打ちを仕掛けるも思いのままだ。
そう、自らの戦略的撤退の確信した瞬間だった。
〈バックドア! レックスサーキット!〉
耳障りな、その声が頭上より鋭く轟く。
雷鳴の如き光と音の波動と共に、空が割れる。そこから現れたのは、ドアを模したベルトのバックル。それを起点に人型の輪郭を形作るが、最早それは人ではない。恐竜と自動車を掛け合わせた、復讐の鬼。
「お前だけは、逃がすか……ッ!」
と低く唸るように呟くと、例のタイヤ型のデバイスを振り下ろしてくる。
驚愕したのは、一瞬のことである。
むしろプテラは、追跡者の無思慮無謀を嗤った。
「バカが! こんな
そう挑発しつつ、飛行速度を上げる。
そして彼の見立て通り、哀れ一路の攻撃はプテラが通り過ぎた後の虚空を裂くのみで、そのまま落下していく。
その様を声を甲高く上げて嘲るアルタールだったが、すぐにその嘲笑を凍らせることになった。
〈トライドロード!〉
その手にし輪形の兵器から、鋼鉄の性質を帯びて肥大化する。
それに合わせて中央の回路が伸びて分離する。
――道が無ければ、作れば良い。
絡み合い、接続し、組み上がり、パンデモニウム上空に完成したのは、高架の道路。
遊園地のジェットコースターにも似たその上に、車ともバイクともつかぬ、紅き巨大な機体が乗り上げる。
それを片手で操るのは明智一路。彼が手にしたタイヤは、その役割を操縦桿に変える。
「おぉぉぉ!」
道は、一路は、プテラに通じる。あらゆる勾配やカーブを越えて、追い上げてくる。
「なんだと!?」
プテラは今度こそ驚愕し、その心胆を冷たく震わせた。
その瘧のままに背を向け、逃走する。
その途上、妨害を忘れない。己が笠を振り、発せられたエネルギーの粒子はチャフグレネードのように爆ぜて、その追撃路と視界を塞ぐ。
だが、雄叫びと共に鉄騎を駆る一路は、先と同じく、被弾しても揺らぐことなく突破し、ますます距離を詰めてきた。
ならば、と。
プテラアルタールは、ひときわ大きな火焔を己の手の内で集め固め、そして彼の前方へと投下した。
追跡者自身ではなく、その進むべき道を、断つために。
その期待通り、生じた亀裂から一路はコースアウトした。
しかし投げ出されたその先に、新たな道が用意される。自動車のフェンダーアーチに相当する部分から、太い鉄の爪が飛びてそのカーブを掴むと、復帰し、ほぼ直角ともいうべき道を駆け上る。
〈必殺承認!〉
ハンドルを投げ捨てた手で、己がマリスチケットを強く押し込むと、そしてプテラの背の真上に達した彼は、その車体から直立した。
闇の空を照らす煌めきが、紅蓮の炎が、突出させた右脚の爪先に集約されていく。
それに目を奪われた刹那、硬い感触がプテラの横っ面を叩いた。
向き直れば、一路によって作り出され、かつ彼を支えていた道路は、今度は平面に編み上げられて己の前方を塞いでいた。それに、激突したのだった。
「馬鹿な……俺が、この俺が、こんなところでぇ……ッ!」
クチバシから裏返った声をあげ、所在なく浮き上がったプテラの身体とライダーの途が、開通する。
敷かれた下り坂を滑走しながら、一路はベルトのバックルを回す。右の足を一路は突き出す。
〈レックス×オクトパス! スピードスクランブル!〉
それはさながら、一条の彗星の如く。
光帯の尾を引いて、一路の脚がプテラの身体を捉える。
それはさながら、怒れる恐竜のごとく。
楔として食い込ませたまま、その腕を振り下ろし、挟み込む。
そのまま捩じ切るように道路に叩きつけ、突き破り、パンデモニウムの地上へと投げ込んだ。
断末魔とともに炎の柱があがる。そこから弾き出された二枚のチケットを掴み取る。
居合わせたアルタールは、着地した一路をさながら降臨した悪魔のごとく恐れ、退散する。
だがそんなことは、一路にとってはどうでも良かった。
奪われたものは――取り戻した。
たとえそれが、一片か残されていないものだとしても。
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特撮映像の陰陽師が、式神を操るように。
黒き紙片たちが、再び仮面ライダーを捕捉する。
彼の者を終着点として殺到し、そして鬼火となって焼く。
だが、それを介して伝わってくる応えがないことに、バットは軽く呻いた。
〈ナイトサファリ・ガンマ!〉
という声がどことなく響き、空気を震わせる。
爆炎の届かぬ範囲にある壁に、くっきりとオレンジ色の、巨獣の足跡が押し当てられる。それはジィダの周囲を巡り、続いていく。着実に近づいていく。
そして、至近、死角にて。
同じ色のアイライトが閃き、消された、否、姿を消していたクスミは再び実体化した。
黒き
鬱蒼とした草木を再現した、ベルトのバックル。
サイのシルエットを主軸とした無数の動物の目と影がひしめく、不気味なアーチ。頂く題字は『Night Safari γ』
額に単眼を取り付けられたクロサイ型のボットと融合した腕が、その先の一角が繰り出された。
「くっ……!」
呻きながら、寸でのところでバットアルタールはそれを防いだ。
(相手はどうであれ……こっちは彼の手の内、気質を知っている)
それでもなお、尋常ならざる反射神経で奇襲自体は防がれたが、次なる対処法は知っている。
「バットアルタール」
と、あえて呼ばわり、クスミは言った。
「すでにプテラのマリスチケットは取らせてもらった。どうやらこちらの勝ちだ……良いのか? それなのに、このまま人目にその姿を晒しても」
と。
不測の事態、不確かな事案と相対した時……彼は保留、停滞を優先させる。
そして、今少なからざる数の入院者が、死の恐怖より好奇心を勝らせ、各々の端末を窓から向けている。
――ここをこれ以上戦場としたくないのは
「……」
しばしの沈黙の後、その引け目を気取らせまいと本気を込めて組み打ちを仕掛けるクスミを、力づくで弾き飛ばし、コウモリの怪物は、
「憶えていろ……いずれ貴様の、いや――貴様
と捨て台詞を残し、天高くへ飛翔し、加速度的に上昇して姿を消した。
「その時に、せいぜい目を剥かないようにね……
と、クスミもまた、同じような調子で吐き捨てたのだった。