仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
「はぁッ、はぁ、はぁ……」
画面から這い出た元・プテラアルタール、偽・五乗駆は、そのままカーペットに手足をつき、身体を引きずる。
その姿はもはや、そのいずれにも似ない。頬にエラの張った、目鼻のコントラストが濃い、童顔の中年男だった。
間一髪、所有するマリスチケットの権限を放棄することでパンデモニウムから強制ログアウト出来たようだ。
辺りは薄暗いが、無数の端末が台座に据え置かれている。どこぞのネットカフェか、あるいはオフィスか。
とにかく、どうにか命は助かった。戦うことを放棄することで、罪から免れることができた。
今は、姿を消す。明智一路からも……そして、あの男からも。
だが、部屋から出て、高級感さえある廊下に倒れ込んだ彼は言葉を失った。
目の前にあるのは、一面のガラス張り。その先の眼下に広がるのは、見慣れた闇のアミューズメントパークーー未だ、パンデモニウム。
「本当に、もうバーチャルとリアルの垣根なんて、無いに等しいよなぁ」
と、絡むように語尾を伸ばし、すぐ隣の壁に、一人の男がもたれかかった。
「ここは、リアルとパンデモニウムとをつなぐ中間地点。人為的に設けられたポータルだ。まぁ、雇われハッカー風情には知らされてない専用口でな。せっかくだから、逃げたお前をとっ捕まえて、ここに連れてきたってワケ」
「あ、貴方、は……」
自分と同じく、その男――ガラーシュ家長兄カタキトもまた、人の姿だった。
察するに表で、仕事の合間だったのだろう。きっちりとネクタイを締めた、スーツ姿だった。
「……何故、そのような場に私を連れてきたの、ですか……?」
恐る恐る、彼は雇い主の一人に尋ねた。
つい口から出たが、内心答えを聞きたくない問いだった。だが問わずにはいられなかった。その極秘裏の場所に己を招いたその意味に思い至るのならば。
「いやー、約束したからな。ついさっき」
と、カタキトはさも無念かつ不本意そうに言った。
「『お前が今度しくじるようなことがあれば、そん時はフォローしてやる』――てな」
そのフォローとは。
その、方法とは。
「ついでにお前は、見ちゃいけないモン見ちまったし。警察だとかヴァニクだとかにそれ話されると、ちょっとまずいのよ」
見てはならないもの、それが意味するものは、ことは、すなわち……明智一路が所有していた、あのチケット。
「い、いやだ」
本能的に、拒絶の言葉が吐いて出た。己に今待ち受けている、運命に対しての。
「嫌だ……俺は生きるんだ……! 人間として、アルタールとしてェッ」
そして決死の想いで立ち上がり、ふらつきながらその場を後にしようとする。
「遅ぇ」
その後ろで男は無慈悲に宣告する。
悪魔の指先にも似た強化・認証装置――チューンフィンガーと、二枚のマリスチケットを抜き出した。
「地獄の釜は、もう沸いてるぜ」
そう嘯くと血のように紅いネクタイを緩める。
矢次早に、装置にチケットを通していく。
〈デッドヒートダイナー〉
と、そのネクタイと同じ色の、肉食恐竜を模したチケットを。
〈レックスサーキット〉
そして――明智一路が使っていたものと、まったく同一のチケットを。
逃げるハッカーの背後で、ただでさえ他を圧する長躯はより大きく伸びあがり、より気配を強くしていく。
ゆったりと後を追う影が、哀れな敗残者をその絶叫ごと呑み込むまで、さほど時を要さなかった。
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「……了解」
坂上順那は、警視庁からの入電を切るや、重い吐息を覆面パトカーの中に落とした。
そのドアの窓ガラスが、小気味よくノックされた。
見れば、男が立っている。
「あぁ、お疲れ様です」
順那を気を持ち直して、その窓を開けた。知らない顔ではない。が、会いたい顔でもない。少なくとも、今の心境では。
「どうか、しましたか?」
男はにこやかに尋ねた。
「分かり切ったことを訊かないで欲しいですね。どうせ知ってるから来たんでしょう?」
「と言いますと?」
「完全に出遅れました……ていうか、こんなもん先読みできるもんでもないですけど……郊外の総合病院内で、例の化物の別タイプと思しき個体が三体突然出現。そのままどこかに姿をくらませたと」
「そして――行方不明だった明智刑事が、その付近で発見された。今は事情聴取中ですか?」
状況自体はもどかしいものの、かつての友人が無事だったことは素直に喜ぶべきか。様々な感情が、順那の中で錯綜していた。
「その一連の事件に関連するかどうか分かりませんが、近くのネットカフェで、中年男性が意識不明の状態で発見。目立った外傷がないにも関わらず、運び込まれた病院で死亡が確認されたと……これも、今朝のケースに酷似している」
「まったく――何が起ころうと、いや起こっているのだか……この国で、また」
そう嘆く順那の目がふと、男の襟元にいった。
「そっちも、やっぱ忙しかったんですか?」
「ん?」
順那は自身の首筋を指して答えとした。
「あぁ、これは」
と、男は己の身体のその辺りに目を落とした。
「ちょっと楽しいことがあって、つい……ね」
彼――インターポールの捜査官『ハンジ』は、どことなく弾んだ声調で答えた。
血のように紅い、ネクタイを締め直して。