仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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11.俺たちに出来ないことを

 後日――警視庁会議室が一。その戸には、『第二次特殊状況犯罪事件 合同会議』と銘打たれている。

 あの長い一日を終え、今度は正しく現実世界に帰された明智一路は、何故だかそこに招かれていた。

 

 所属先そのものが破壊された彼は、本庁勤務に戻されていた。

 一時的な措置なのかそれとも恒久的な人事かは知らねど、誰の根回しによるものかは推し量る必要もない。

 

 あの署で順那を逃がした後、逃走したライオンを追跡していた。そして事件の異常性からパニック状態あったせいで、自分でも訳の分からないまま、気づいたらあの場に居た。

 事情聴取にて話したのはそれぐらいである。証言も、身の潔白を立てるような証もない。だが、そもそも事件の全容自体が雲をつかむような話なのだ。幸か不幸か、深くは追及されなかった。

 

 事前に手渡された資料に目を通すと、あの日、プテラアルタールの撃破と同じくして、一人の、その筋では割と有名なハッカーが近所のネットカフェで死体となって発見されていた。

 

「これって……」

 オクトフォン8を耳に当て、通話の素振りを見せながらその内に潜むモノに問いかける。

『あぁ、十中八九、パンデモニウムから逃走(ログアウト)したプテラアルタールの変身者さ。おおかた、一族に口封じされたってとこかね。いや、だったら死体はデータ内でバラバラにするだろうから、他の部下に対する見せしめってとこか……なんにせよ、別にあんたが殺したわけじゃない』

 同じようなものだ、という言葉を、一路は喉奥へ押し込んだ。

 

『そしてお察しの通り、奴はあくまであんたの相棒の形見を悪用していただけの、末端でしかない。本当の相棒の仇は、別にいる』

 なのに、と咎めるような口調で言う。

『この後のことを何もかも放り出してそいつを出すのは、違うんじゃないかね』

 と。

 

 一路はその資料に、栞代わりに退職届を挟んでいた。

 

「悪いが、新しい相棒は他を当たれ。俺は自分なりにケジメはつけた。もうこれ以上深入りするつもりはない」

 五乗駆のことを考えるに――その死の偽装が、二年もまかり通っていたことを考えるに。

 そして、最初の襲撃事件があの場に窃盗犯が拘留されていたという情報を知っていたこと想えば。

 

 ――警察関係者に、ガラーシュ家への協力者がいる。それも、生半の権限ではない相手が。

 

『――あんたの、あのチケット。どこから手に入れたものかは知らないけど』

 と、クスミは言った。

()()()()()を切っちまった以上、あんたはもう戻れないところまで踏み入れちまったのさ。腹括りなよ、旦那』

「知るか。もうお前の口車には乗らねぇ」

「誰と話してるの?」

 

 そこに、世界で一、二を争う話をしたくない相手が割り込んで来た。

 坂上順那は、華奢なその身に余るほど資料を抱え、無遠慮に一路のパーソナルスペースを侵してそれら一切をテーブル上に置く。

 一路は順那の質問には答えず、舌打ちとともに、ゆうに一人分の余分を作って離れた。

 

「あ、そうそう……やっぱ五乗くん、あの立てこもり事件以降、消息を絶ってた。入院先もデタラメで、しかもカバーに使われたのが今回の二回目の怪物による乱闘事件の場所……これ、どういうこと?」

「さぁな。偶然、俺がいた場所があの病院だったんだよ。で、入院患者の中にあいつがいないことに気づいた」

 

 気づけたのは、偶然だった。転移先が、あの若林総合病院でさえなければ。それは本当だった。

(――本当、なのだろうか?)

 奴らが削除した五乗駆の偽りの入院先を、あの病院に設定したのは。

 母親に会って来たというクスミが居合わせたのが、あの病院だったのか。

 

 あそこには――まだ別の誰か(ひみつ)が、眠っていたのだろうか。

 

「ていうか、ずっと調べてたんなら言ってくれても良かったのに。察しは良いくせに、昔っから要領悪いよね、君。いい加減、馴れてないの丸出しの三下ムーブも止めたら?」

「ほっとけ」

 

 どのみち、辞めることになる。

 警察官としての、職務ごとに。

 

 そして、定時となって会議が開かれた。

 進行役は、当たり前のように坂上順那が務めた。

 

 といっても、一路にとっては、プテラアルタールの変身者が死んでいた以上の、新しい発見はないものだったし、もはや意味も興味もないものだった。

 

「――で、その病院の敷地内で撮影された映像が、これです」

 そう仕切る順那の操作で、プロジェクターからスクリーンに、一路の初戦闘、およびクスミと幹部との継戦が並列して映し出されている。

「若林総合病院に出現したのは三体。警察署を襲撃した獅子型とは異なる二体の怪物。そして、注目すべきはこれらと戦闘した赤い二形態。――骨格、身長からして別の存在かとの見方も出来ますが、使用する装置が同型のものであり、かつ入れ替わるようにこちらのタコ型怪人が現れた、という目撃情報から同一個体と推察されます……が」

 

 その時点で、参加する関係者の間で困惑のざわめきがあがっている。

 そんな様に、順那は、首肯してみせた。

 

「すでにお気づきの方もおられますが、この装甲は、かつての仮面ライダードライブとの類似点も多い。それが模倣的なものなのか、偶然なのかはさておいて」

 

 両方だよ、と椅子にもたれながら内心で一路は悪態をつく。

 伝説の刑事になれる。そう五乗駆に託した想いは、同時に己の理想でもあった。

 変身の間際に脳裏を掠めた、その正義と警官魂の体現者の姿が、反映されたのがあのライダー態なのだろう。

 

「また特状課が関与している可能性は?」

 誰かが、当然浮かんでくる疑問をそのまま口にした。

 

「すでに元メンバーには確認をしました。が、はっきりと関与を否定しています。目下、もっとも疑惑の強い沢神(さわがみ)りんな氏には特に追及を行いましたが、助手のジョージ・狩崎(かりざき)初芝(はつしば)(まこと)も含め、不審な供述は見られていません。彼らの大半はすでに警察関係者ではなく民間人であるからして、確たる証もなく取り調べはできません」

「まさに五里霧中だな。で、そんな手探りの状態で今後どうするのかね」

 

 ゆえに、と。

 強く机をたたき、揶揄した刑事、そして隣の一路を含めた周囲を刮目せしめる。

 

「分からないからこそ、知らねばならない。もしこれが、グローバルフリーズないしそれと同等の人為的災害の兆候だとするならば、初期の段階でそれを把握し、未然に防ぐことこそが肝要です。ゆえに私はっ」

 

 いったい誰に触発されたものやら、いつになく強く気丈な姿勢で、何かに挑むが如く弁をふるう彼女は、スクリーンに既知のそれによく似たロゴマークと、それを改めて文字に直したチーム名を表示させた。

 

「私はここに、第二次特殊状況下事件捜査課の発足を宣言します! かつてのメンバーを含めて官民一体となって、内に外に、この事件に立ち向かわなくてはならないと踏んでいますっ。そして、その最初のパートナーとして推薦したいのが」

 

 と、おもむろに順那は隣でふてくされている、その男を見遣った。

 

「すでに二年前より同様のケースが存在していたことを訴え、それを妄想と断じられながらも独自に調査を続けていた執念の刑事……この、明智一路巡査長を推薦いたします!」

 

 と、一同の注目を、己からその男へと遷させつつ。

 

「…………は!?」

 一路は、彼女に負けないぐらいの声量を、頓狂に張り上げた。

 

 ~~~

 

「というわけで、よろしく」

「何がだよ、ふざけんなッ」

 会議が終わるや、真顔で差し出された順那の手を、一路は振り払った。

 

「どうせ、お前のこった。なんか魂胆あってのことだろ」

「当たり前でしょ。そもそも私、貴方に対しての諸々の疑惑を解いたわけじゃないから。今回の二件に対する関与や前後の事情とか、ね……だから手元に置いておきたいってのが、本当のところ」

「そんなの俺が知ったことかっ……たく、なんでどいつもこいつも……!」

 

 人の事情や繊細な心持ちなど知ったことかとばかりに、ずかずかと踏み込んで危ういステージに自分を引き上げようとするのか。

 

「ともかく、俺はやらねぇぞ! たとえ誰に何を言われたって……ッ」

 と言いさしたところで、長い影が、踵を返そうとした一路に行き当たりかけた。

「って、あぶねぇな!」

 と、感情の勢いそのままに怒鳴った一路は、その刑事の面貌に、姿に、炎のように赤いネクタイに、立ちすくんで静止した。

 

「あー、悪い悪い」

 と、その男がむしろ、当たり障りのない感じで詫びてきたが、口蓋に舌が張り付き、一路は上手く返すことができなかった。

 

「あぁ、その節はどうも」

 と、固まった一路に代わって順那が彼に頭を下げた。

「しかしお前、大胆な賭けに出たな」

「えぇ。とりあえずガムシャラでも手あたり次第に叢を打って、中に潜んでるはずの『蛇』がどう動くかを見たくて」

「そうか。ということは……お前も()()踏んでるんだな?」

「当然でしょう。そっちは、何か心当たりは本当に無いんですよね? 例の電脳死の件とか」

「あいにく俺自身はオールドタイプでね、一人だとデジタルがらみはさっぱりだ……が、こっちはこっちで動いてみるさ」

「助かります」

 

 互いの気脈に通じ切った会話が一旦切れるや、二人の意識と目線は、フリーズ状態にある一路に向けられた。

 

「で、そっちが例の?」

「はい。明智一路刑事です」

「そうか、君が……」

 

 その刑事は、あらためて一路と向き合った。

 感慨深げに、かつ曰くありげに目を細め、そしてその肩を叩く。

 

「色々と話には聞いている……今の俺に――俺たちに出来ないことを、君たちがやってくれ」

 そう言い置いて、彼は通り過ぎていった。

 

 その足音が遠ざかっていく。

 さして力がかけられたわけではないのに、肩にその感覚が熱をもって、残っている。

 それを上からそっと押さえながら、一路は漫然と呟いた。

 

「刑事……もうちょっとやってみようかな」

『いや、チョロイな』

 上着のポケットから、ボソリとツッコミが入った。

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