仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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2号の話:それは、イカなる手立ての脱獄者

 ――年、改まり。

 ジィダ・ガラーシュは数人の部下を伴い、ある施設を訪れていた。

 箱型のそこは、グループ企業における、彼が担当する部門、そこの研修施設とされている。

 

 表向きは、されて、いる。

 

 だがその実態は、一族や会社に、危害や損失を与えたものを監禁するために存在する、いわば私的な牢獄である。

 そこのさらに地下。研究機関を兼ねたその場所に、そこに囚われた男に、用があった。

 

 男は、許された範囲での自由を謳歌していた。

 自らを囲う壁を板書がわりに文字や数式で埋め尽くし、脚を投げ出してパイプ椅子をゲストの分も並べてベッドがわりにし、そこで学術書で顔を覆っている。

 水回りなどの、最低限の生活空間は保障されているものの、収容者への配慮や尊重はあってないようなものだ。

 

「あけましておめでとう」

 そのガラスの向こう、書籍の下から声が絡んできた。

「でも良いのかい、家族でホームパーティとかした方が良いんじゃないの?」

五乗(ごじょう)湧良(ユーラ)

 その挑発じみた物言いを無視して、ジィダはその名を呼んだ。

 

「無駄話をするつもりはない。それに、呼びつけたのはお前だろう」

 開けたページの下から失笑が漏れ聞こえる。

 ややあってその本を取り外し、眼鏡を耳からかけた。

 背丈や歳頃は、ジィダに近似する。

 だが、鼻っ柱の強さを想わせる傲慢さと、それを和らげる飄々とした佇まいは、彼には無いものだった。

 

「フリーのエンジニアでありながら、パンデモニウムに行き着いた技量を評価しているからこそ、その所業を許して生かしてやってるんだ。成果を出さなければ処分するしかない」

 努めて冷静に、だが確かな実行性を感じさせる恫喝に、五乗なる男はその手に白い弓のごときものを掲げてみせた。

 触手か、あるいはハープのような装飾が何本も施されたグリップとトリガーの先には白い槍穂のようなものが、さらに突き出ている。

 

「『プリズンブレイカー』」

 唱えられたその名を耳にした時、ジィダの眉は神経質気味に逆立った。

「皮肉か、それは?」

「特に意味はないって。ただこいつは、本来ユーザーと紐づけされているマリスチケットをロンダリングし、潜伏するウイルスプログラムを除去し、誰でも使える状態に出来る。で、これで仮面ライダーとやらにとられる一方のチケットを奪回できる。いわば、一種の『解放』だろ?」

 そう肩をすくめて銃器を上下させたが、ユーラの置かれた身の上を想えば、その命名の意図を疑いたくもなる。

 

「……あらためて言っておくが、この程度ではこの状況を抜け出せると思うな。命を長らえられるだけありがたいと思え」

「そんなことは望んじゃないさ」

 

 ただ、とそこでユーラは、レンズの奥底の目を眇めた。

 

「兄貴の居場所や状況、それを知りたいだけさ。今更生きているとは思えないが――あんなバケモノどもを飼ってるんだ。おたくらがその件で関与してると疑るのも無理ないっしょ」

「……あぁ、行方不明の警察官の兄君か? 可哀そうなことだとは思うが、残念だが何も知らないし、してやれないよ。それだったら、一緒に居合わせたっていう刑事に聴けば良いさ……会うこともままならないだろうがね」

「いやいや、憐れんでもらう必要はねぇさ。そこにはいずれたどり着く」

 

 そう宣い終えるや彼は、その銃口を翻し、ガラス越しにジィダへと向けた。

「無意味なアプローチは止めておくことだ……寿命を縮めるだけだぞ」

 色めき立つ周りの部下たちとは対照的に、ジィダは冷静で、冷酷である。その所以は、すでに手に収めたデバイス、チューンフィンガーとマリスチケット。

 

「バカだねぇ」

 肩を揺すって笑いながら、ユーラはしかし、その銃口を下げもしない。

 

「いずれってのは、口にした瞬間から始まるのさ」

 そう言うや、トリガーを絞る。

 一瞬間後、ジィダは脅しで済むと思っていたがフィンガーを、あらためて構えた。

 

 だが、障壁の向こう側から発せられたのは、ガラスを叩いて砕く弾丸に非ず。それを貫通し、中途で十本に分化しながら伸びてくる、白き光帯。

 

 呆気に取られるジィダの意識と視界は、そのままその輝きの中へと呑まれていく。

 

 〜〜〜

 

 光が収束した後、男が二人、四肢を投げ出すようにして倒れている。

 先に起き上がったのは、牢の外側にいる人間。すなわち、ジィダだった。

 

「ジィダ様!」

 部下が助け起こす間も無く、むくりと身をもたげた彼は、チェッカーを戻し、左右に視線を配り、最後に牢の中を見た。

 その眼差しの向こうで、ユーラの肉体は、倒れたままだった。『彼』の肉体には、覚醒の兆しは見えない。

 

「……大丈夫だ」

 わずかにバランスを崩しながらも、ジィダは起き上がった。

 

「ただの悪あがきだ。問題はない」

 そう言って、彼は自身の衣服や身体を弄った。

 やや手間取った後、懐中のカードケースを取り出すや、そこからIDカードを抜き取った。入口横の認証装置に通し、自身の顔をスキャンさせた。

 

 そして中に入り、あらためて倒れる男と対峙する。だが、突然に起き上がって襲いかかってくることなどまるで気にしていないかのような不用意さで、彼に近寄り、その手元に転がるメガネと、デバイス、プリズンブレイカーを持ち上げた。

 

「引き続き収容しておけ」

 それを腰に納めつつ、命じる。

 だが、

 

「あ、そーだ」

 

 直後に、ふと思い至ったように声を上げると、なお困惑する部下たちに、

 

()()()()()まで、それは丁重に、丁重に扱ってくれよ?」

 水平に並べた十指を上下させつつ、まるでホテルに荷物を預けるような気軽さで、彼らに言い置き、軽い足取りでその場を後にしたのだった。

 

 〜〜〜

 

「ここまでで良い」

 日常的に用いる高級社用車から、帰社の途上、ショッピング街の傍らでユーラは降りた。まず、いつもの彼ならあり得ない行動に、運転手は面食らったようだった。

 

 そのままスキップまじりの歩みと共にブティックに入り、十数分ほど後に、彼は装いを一変させて店を出た。

 太めのストライプが入った濃緑のシャツに、墨のように黒いダウンジャケット。

 クレジットカードでそれを買い揃えて着こなしたジィダは、牢で拾い上げたメガネを己に目元に。度数は問題ない、というよりも、元々それは伊達だった。

 浮かれに受けれた様子で、店先で腕を回したり、指を鳴らしたり、挙句両腕を掲げて腰を揺らし、ダンスをしたりしている。

 到底、普段の彼らしからぬ行動であり、周りにとっても理解し難い光景だった。

 

 奇行は続く。

 ゲームセンターへ赴きクレーンゲームやパンチングマシーンに挑む。

 独りカラオケ。

 ネットカフェに入り込み、そこで漫画を読み耽ったり、ネットサーフィン。

 陽が沈みかけた頃には、初見の大衆居酒屋の暖簾を躊躇すること無くくぐり、そこでイカリングなどの揚げ物に舌鼓、ビールで喉を潤し、嘆を発する。

 

 その間にも、この奔放に振る舞うVIPに対して、護衛はついていた。部下たちは別れた後も密かに尾行し、監視していた。

 そして、ジィダの変わりように当惑し放しであった。

 

「……何か、おかしくないか?」

「あぁ……」

「まさか、気づかれたんじゃないだろうな?」

 飲み屋の片隅で彼の様子を窺いながら、三人の護衛たちは囁き合う。

「……動きを悟ったがための、挑発だとでも?」

 一人の問いかけに、他はすぐには答えなかった。だが、厳しい眼差しの間に、暗黙の了解が存在していた。

 

「……仕掛けるのを、早めるべきかもしれんな」

 発言者はそう独語する。

 

 無論この会話は、カウンター席で彼らからは背を向けているジィダには、気取られないように、声をひそめて行われている。

 だがそんな彼らの異変の方をこそ、『ジィダ』はグラスジョッキの反射を介して見澄ましている。

 

「おぼっちゃまも、大変だぁ」

 眼鏡越しにその双眸が、揶揄に歪む。

 

 〜〜〜

 

 退店したジィダはあえて、人気のない裏道を選んで進んでいく。余人ならまず、空気の違いを感じ取って引き返すような空間である。

 

 

 言葉はない。ただ、彼らの主人であった青年に対する、殺意だけがあった。

 そんな中を臆することなく、中途まで突き進んだあたりで、

「……もうそろそろ、仕掛けてもいい頃合いじゃないの」

 と、ジィダは顧みた。

 

 その声に反応したらしい人影が、前後より一人ずつ。

 それは、彼らは、ジィダの護衛だった。

 

 言葉はない。ただ主人だった青年に対する、明確な殺意だけが、黄昏の中、両目の内で浮かび上がっていた。

 

「ひーふー……ン、一人足りねぇなっ……と!」

 わざとらしく指を双方に振り向けていたジィダはおもむろに身をのけぞらせた。

 反らした半身のすぐ手前を、破壊的な勢いを伴って、狂風が通り過ぎて行った。

 その正体は異形の影。廃棄されていたモニターから飛び出した、外皮たる茶褐色のテクスチャは、カンガルーを模したそれ。赤緑一対の分厚いグローブが、対面のショーガラスを打ち砕く。

 本来袋にあたるその場所には、

『Smash Box』とリングネームが縫い込まれていた。

 

 その登場に倣って、ほかの二人もそれぞれ、鉄片を取り出した。

 マリスチケット。人体を介して電子のアバターを実体化、物質世界に顕現させる、悪魔の方舟。

 

 それを握る力に手を込めると、それぞれの背後にネオン閃く異界の扉が開かれた。

 同じく異形の衣が覆い被さり、同化していく。

 

 前門には、雲のごとき皮衣を、両腕と融合した黒い翼爪の上に着込んだカラス。

 後門には、黒頭巾を被った屈強な四肢を持つ猿のような魁偉である。

 

「ガラーシュ家次男、ジィダ。そりゃあ仕事柄、恨みなんざ山ほど買ってるだろうが――主人を売る護衛にアルタールって、カタキトが消えた今、雇い主は限られてくるだろ」

 そうせせら笑うも、またも返答は無し。

 

「……ぶっちゃけ()()()()()、振りかかった火の粉は払わせてもらおう」

 仕方なさげにチューンフィンガーを取り出す。バットカンパニーのマリスチケットを、その間に挟みかけて……その手を止める。

 

〈バレルロードライバー〉

 代わり、その身に帯びていた新型のデバイスーー五乗湧良の開発したプリズンブレイカーを取り出し、そのトリガーを自らの腰に向けて絞る。そこから発せられた濃緑の光線が骨子を組み上げる。

 まるでベルトコンベアのような形状のアクアブルーの帯となる。その前面に、コンソールのようなバックルを造成する。アップダウン式のレバーが右の腰に展開し、その逆サイドに作られたホルスターに、ブレイカーを納めた。

 

〈イカイロウ・ロンダリング〉

 そして、『仮面ライダー』とやらからの戦闘データを基に製造したマリスチケットをその機材の横から挿入すると、野太い人工音声で、認証音が響き渡る。

 

 と同時に、何処かに通じた地中より、迫り上がるように転送されてきた巨大なドラム缶から、墨のようなものが吹きこぼれる。それは彼の背に蠢く何か重量あるものを、透明な何かを黒く色付けする。それは、十本触手を持つイカのホログラムだった。自らに振り掛けられた黒き液体を滴らせqながら、その多脚でもって『ジィダ』の周囲に檻を作る。

 

 問答に応じなかったアルタールたちに、軽い動揺が見受けられる。

 その彼らの前で十指を絡み合わせて前へと、腕の筋を伸ばすように突き出してから、

「変身」

 と、誰に教えられるまでもなく、また誰に聴かせるでもない静かで低い声調で、そう唱える。

 

〈スクイードア・システム! ユリイカ〉

 

 糸を撚るがごとくに触手がジィダの肉体を中心店に、ねじれ巻かれる。他のアルタールと同様にそれと一体化した時、現れたのは白いと黒とで構成された戦士。三角の頭巾を被ったかのような頭部。右端をイカの脚の如きモジュールと、同じモチーフによって編まれたマフラーが首筋を保護し、口元の梯子状のクラッシャーが呼吸を確保する。

 墨汁の飛沫の如く、四肢の要所、マスクの中央が黒くアクセントとして塗り潰され、青の瞳がその塗炭より浮かび上がる。

 

「お見せしよう、プリズンブレイカーの――ユリイカシステムの力を」

 

 そう宣う彼に、起き上がりざまカンガルーが飛びかかる。半身分の動きでそれを躱し、通過ざまにプリズンブレイカーを抜き撃つ。

 

 液状とも気化したガスともつかぬ、独特の影響力をもってして再び彼を退かせ、その時間的間隙に、腰のレバーを拳で上下させた。

 

 一往復、二度、三度…展開バックルの側面から太い円筒のごときもの……すばわち小型のバレルが排出され、ベルトの側面に運ばれていく。

 

 その内の一つを取り上げると、のけぞるアルタールの足下に、転がせた。

 そプリズンブレイカーを弾き、黒い弾丸を着弾させた。

 

 ……その表面に書かれていた、ポップな爆発のロゴの如く。

 誘爆したバレルが、火柱をあげる。

 断末魔と共に、望まぬ浮遊の後に、カンガルーアルタールは手足をばたつかせた後に地面に叩きつけられた。

 

 その眼前に、再びバレルが転がってくる。そこには、『Spear』の染め抜かれた塗料より文字が逆抜きされて、浮き彫りになっていた。

 

 瞬間、そこにも弾丸が射当てられる。

 転瞬、内蔵されていた鋭い突起物……言うなれば短槍や大釘の類といったものが、無秩序に弾き出された。

 それは周囲の敵を打ち据え、火花を散らさせ、

 

「あっぶぇ!」

 (ユリイカ)のすぐ横の壁やガラスを穿ち、自身も危うくさせる。

 咄嗟に身を捩りつつ、すでにベルトを操作して同バレルを『製造』している。

 

「やっぱこう使うのが確実かなー」

 と声を伸ばしつつ、そのバレルを抜き取って、ブレイカーのマズルへ。

〈バレルロード! スピアー!〉

 合わせてドライバーよりマリスチケットを銃床に相当する部位へ装填すると、アルタールの一体に向けて引き金を絞った。

 

〈ヤリ×イカ! クロスファイアーフィニッシュ!〉

 射出されたのは、円錐に形作られた、高次のエネルギー弾。今度は散乱することなく一直線に、カンガルーの中央を貫く。

 

 誘爆と断末魔と共にアバターは剥離される。倒れ込む裏切者から分離して、所在なく浮き上がったそのチケットを、他二体からの反撃を潜り抜けつつ手中に収め、それをドライバーへ。

 

〈スマッシュボックス・ロンダリング〉

 そして再びレバーを押すと、背後に四つのドラム缶。それがコーナー形づくり、墨がロープのようにそれを繋ぎ合わせる。そうして出来上がった即席リングに、ユリイカはすでに上っている。

 

「ほら、来いよ。タイマンでやろうぜ」

 ユリイカは背からロープに拠りながら、噴き上げる墨を全身に被る。それを腕と掌を使って拭うと、その頭部はオレンジ色に、カンガルーの立った耳の形に変化していた。

 そして左手に嵌めたグローブを前後させると、焦り、いきり立ったサルーーもといゴリラのアルタールはそれに乗じた。

 (クロウ)のアルタールもそれに続こうとしたが、漆黒のロープを境とする不可視にして絶対の隔壁が、その侵入を阻み、弾き飛ばす。『ジィダ』の宣告した通りのルールが、布かれた。

 

 軽くシャドーボクシングをしてみせて相手を誘う、ユリイカ。対峙するゴリラアルタールも、その名と長い手足の示すとおり、肉弾戦を得手とする。そのことを姿勢そのものより押し出して、その肥大化した筋肉を振るう。

 

「なんちゃって」

 とぼけたように独語しつつ、ユリイカは腰のベルトより、さらにバレルを取り出し、ブレイカーにセットした。

 

〈バレルロード! アーマー!〉

 そして再射撃を行うと、甲のごとき防壁が、彼らを隔て、猛攻もろともにゴリラアルタールをロープ際まで弾き飛ばす。

 これは、ボクシングに非ず――技術や射撃を使ってはいけないなどというルールは存在せず、また告げてもいない。

 

「一パイ食わせてやった」

 と宣いつつ、

〈バレルロード! バーン!〉

 さらなるバレルへとマズルのものを換える。そのうえでプリズンブレイカーを腰へと戻すと、

 

〈ヤキ×カンガルー! バーンストライカッ!〉

 左拳のグローブに、焼けつくような火薬の気配が宿る。そして掬い上げるように繰り出したアッパーが、体勢整わぬうちのゴリラの胴部を殴り抜く。

 

 激しい爆風が彼を吹き飛ばし、そのまま火花と散らせる。

 落下してきた宿主を放り投げ、そのチケットをもぎ取る。

 

〈星猿忍者屋敷・ロンダリング〉

 リングが、墨となって地に吸われて溶けていく。

 自分たちを遮るものが無くなった隙を、すかさずカラスは突いた。

 

 瞬発性を最大限に活かした、超高速の低空飛行。それをもって姿を変える間際のユリイカを突き上げ、その胴体を貫く。そして急上昇、急降下の末、地面へと叩きつける。その衝撃で、体液と共に四肢が千切れ飛んだ。跡形もなく、潰れた。

 

 否……

 墨跡は残り、人たる形は消えた。いっそ不自然なまでに。

 

 違和感の拭い切れないクロウアルタールの背後には、ドラム缶。

 その蓋を開けて、腕組みしたユリイカが現れた。

 ロケットの尾翼の如く、あるいは猿耳の如く、黒い頭巾から突き出た長耳。体に刻まれた帷子のごとき刻印。それが今の彼の装いである。

 

「イカは海の忍者って、言われてるらしいな」

 と問い掛けるが早いか。無防備な怪人の背に、銃撃を浴びせ、つんのめったところに補強された両腕から矢継ぎ早に発せられる星形の手裏剣が、中距離から強烈な連撃となりて黒翼に叩き込まれる。

 

 こんなライダー、こんなアルタール、こんなジィダ・ガラーシュ……知るべくもない。

 相手の正体を見失い、恐慌にも似た精神状態に陥ったアルタールは、独り羽を打って離脱を図る。だが、その上空は、つい先ほどまでとは様相を変えている。まるで猿園のように天に張り巡らされ、プラネタリウムのようにドーム状に囲む……檻。

 

 その網目の一角がクルリと反転しその裏から、網を掴んだ体にて、地上にいたはずのユリイカが、唐突に現れたのだ。

 そして片腕でぶら下がった状態で、ブレイカーからの射撃で追い撃つ。

 

 持て余した勢いで止まれることなどなく、そのまま全弾命中。そのショックで、失墜する。

 

 かくして、最終局面に入る。

〈イカイロウ・ロンダリング〉

 基本の形態(フォーム)へと戻るに合わせて、網が溶けて消える。四肢を投げ出すようにして自由落下していくユリイカは、その過程でバレルを精製した。

 

 ――『Finish』。

 まるでゲームのエフェクトのように、派手目の字体で染め抜かれ、強調されたそのバレルを揺らしながら、マズルにセット。セットしたブレイカーを、さらに腰に納める。それが、最終承認の合図である。

 

〈シメ×イカ! クロスアタックブレイカッ!〉

 滲む薄墨のごときものがユリイカの足先に渦巻く。それは相手を縛す黒縄となり、彼自身の脚を武器として鋭化させる。

 

 そして互いに引き寄せられるように加速していき、交錯の瞬間、断末魔と共にカラスは、敗れ去る。

 散る電子の黒羽が、着地したユリイカの、丸めた背に降り注ぐ。

 その中に紛れ込んできていた一枚のチケット。カラスの横顔を刻んだそれを、掴み取った。

 

 ~~~

 

 気が付けば、ジィダ・ガラーシュは白い囚人服を着こんで、牢につながれていた。

 その状況に、目は白黒し、瞳孔は開き切り、しきりに瞼を瞬かせる。

 

「ここは……」

 仕切られた格子の向こう側、ビルの一角のようになっているそこから外を覗けば、あたり一面はネオンの妖しいきらめきで満ちている。派手な観覧車に、宙を踊るコースターのレーン。

 そして自身を足元から包むような、現実感の乏しさから察するに、ここはガラーシュ家が所有するデータ世界、パンデモニウム。その最下層のエリアである。

 

「まさか、仮想領域(リソース)を利用した自作サーバー……馬鹿な、生身の状態から転移されてきただと……!?」

 なぜ、こうなったのか。あらためて己を顧みる。

 

 直近の記憶では、地下施設で、その牢獄の中に捕えていた五乗游良に、プリズンブレイカーを向けられた。そこから、意識が絶えていた。

 

「……つぅっ……!?」

 そこからさらに記憶を辿ろうとした時、腹部を重く熱い、痛みが襲った。

 それは瞬く間に全身に回り、頭痛さえも呼び起こす。

 

「なんだ、これは……!」

 違和感の元たる腹部には、まるで工場のラインのようなベルトが、枷のごとく巻き付いている。

 

 それが呼び起こす痛みが、波のように押しては引くのを繰り返し、堪らずジィダは腹を頭を押さえて蹲る。

 そのたびに、リフレインする記憶。鮮明になっていく感情。

 

「僕は……僕は……ッ!」

 喘ぎ喘ぎ、喉を振り絞り、身悶えながら彼は誰にともなく、かつ己自身に、最後に問う。

 

「僕は、今までいったい――何、を……?」

 それに応える者は無く、ただ腰のベルトのみが、無機質な音声を、牢獄の中で響かせる。

 

 

 

〈クロウズドア・システムーーエウレカ〉

 

 

 

 ~~~

 

「……プリズムブレイカーに求められた機能は、ロンダリング。その役割は、果たしてやった。『洗浄』は、してやったろ」

 もっとも、と独りごちながら、現世(リアル)の『ジィダ』、もとい五乗游良は、朝焼けの中、大きく伸びをした。

 

「真実を知らされることが、幸福なことかどうかは知らんがな……だよね、兄ちゃん」

 そう呟いて、手を合わせるのは、間抜けなお坊ちゃんではない。

 英都銀行北五番支店。最後に兄、駆の生存が確定している場所。おそらくはもう生きてはいないだろう。ゆえに、ゲームセンターで獲得したぬいぐるみを儀礼的に手向け、兄に誓う。。

 

 必ず、そうした相手を白日の下に曝す。そして仇を討つ。

 真実を知らされることは、幸福なことかどうかは限らない。だからこそ、その傷を負う覚悟を決めて、自ら求めるよりほか、人生を前進させる方法ほかない。

 

 ――その姿を、遠目から目撃した人間がいた。

 刑事、明智一路だった。

 

「ジィダ・ガラーシュ……!?」

 

 唖然とし、思わず思考は白紙化する。ゆえに、黒い感情が彼の中で急騰し、塗り潰していく。

「ガラーシュ家の人間が、今更、何の墓参りだ……ッ!」

 そう言って彼は、シフトロードライバーをセット。そのサイド部に、マリスチケットを挿入する。

 T-REXが本来彼の使う向きとは逆の顔は、よりシャープでかつ狂猛だ。

 すなわち――『デッドヒートダイナー』。過日――苦闘の末についに撃破したハンジ、もといカタキト・ガラーシュより獲得したチケットだ。それが、フロントとバック、両サイドのドアを占拠した。

 

『待てっ! デッドヒートダイナーは危険だ! 解析不能な部分が多すぎる!』

 そうクスミが、オクトフォン8の画面越しに警告する。

 だが、何かに憑りつかれたかのように、飛び出した一路の全身を、吹きこぼれた泡のごときものが覆い、包み、そして変色させる。

 

〈ジャックドア……デッドヒートダイナー〉

 真紅の体に、黒い炎が渦巻くパーツ。そのラインを補強する鈍色のボーンが剝き出しになったラプラスの胸部に、『DDD』のイニシャルが焼き付けられる。

 

 仮面ライダーラプラス・デッドヒートダイナー。

 本来の倍する出力を発揮する半面、クスミサイドの介入の一切を拒絶する、ハイリスクハイリターンともいうべき禁忌のフォーム。

 

「ん?」

 それをもって飛び掛かったラプラスを顧みた瞬間には、ユーラはユリイカに変身し、

「新入り相手に、ずいぶん手荒い歓迎じゃないの――先輩」

 と揶揄しつつ、プリズンブレイカーでもって迎撃する。

 

 年も改まり、凶敵を打倒しながらも。

 舞台はあらたな段階に突入し、より混迷が深まっていくのだった。

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