仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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2.悪徳刑事、出勤

 大捕物の夜から明くる朝、そのまま家に帰っていた一路は重い頭を抱えて起き上がった。

 携帯を見れば、何度か呼び出しがあり、その合間に上司から脅しめいたショートメールが届いていた。

 下着同然の姿でシーツから這い出ると、のそのそと着替え始める。

 

 背広は見事に無数の靴跡がついていた。クリーニングに出している時間はない。放り投げて、代わりに以前、缶コーヒーの懸賞で当てたスタジアムジャンパーを羽織る。それに合う色のものがないから、ノーネクタイ。

 

『良いのかねぇ? そんなだらしない恰好で』

「仕方ねぇだろ」

 揶揄するように問いかけた『誰か』の声に、ごく当たり前に一路は応答した。

 

「……それより、お前のタレコミ、何の役にも立たなかったじゃねぇの」

『心外だなァ。リークは当たってたでしょ』

「そんでも、手柄を横取りされちゃ意味がねぇんだよッ、それもよりにもよってあのオンナに! 坂上にッ」

『それはそっちの不手際。だいたい、タダで働かせようって魂胆が気に食わない。オレ様との契約、忘れてないよな』

 

 契約。その二字を叩きつけられて、車のダッシュボードに放り込んでいる『玩具』を思い浮かべる。それだけで、苦い物がこみあげてくる。

 

「――あぁ、まぁ、その時になったら考えてやるよ」

 と言葉を濁し、一路は部屋を出た。

 今日もくだらない、下り坂の人生が始まる。

 

 ~~~

 

 呼び出された現場につくと、そこは繁華街の片隅にしがみついているかのような、簡素なオフィスビルだった。

 バブルに取り残されたかのような、ほぼ廃墟じみたその一室は、内装だけはきっちりしていて、電気も通っている。部屋に入ると、冷房が異様に利いていて、その空調の音と、点けっぱなしのパソコンの起動音だけが無機質に響いていた。

 

「ちょっとあんた、ここは立ち入り禁止だよっ」

「お前、目ぇついてんの? つか、一般人がこんなとこ来るわけねーだろ」

 現場のテープを超えようとすると、見張りの警官に咎められる。彼からは死角になっていたらしい、刑事課の腕章を突きつけつつ、半ば強引にくぐる。

 

「遅れて来ておいて当たらないでよ、巡査部長」

 その前に立ちふさがったのが、件の坂上順那だった。

「あー、ごめんね? コイツ、こんな奴だから」

 と美人に気づかわし気な目を向けられれば、大抵の男はコロリと機嫌を直すというものだ。

 ……それでも、周りの刑事たちの、一路に対する目自体は冷ややかな侮蔑に満ちていたが。

 

「で、昨日の今日で本庁のエリート様が、こんな所轄のシマまでなんの御用ですかね」

 顔を引きつらせながらイヤミたっぷりに言う彼に、順那は苦笑を浮かべた。

「せめて同期の桜には良い顔してくれても良いんじゃない? その本庁の超有望なエリート様に媚びといた方が、やりやすいと思うけど?」

「ふざけろ、誰がテメーなんかに」

「そうそう。で、この被害者なんだけどさ」

 

 と、半ば一路を無視してペン先で彼女は自身の目下、鑑識に囲まれたその男を指した。

 キャスターつきの椅子から半ば崩れるように倒れた男は、白目を剥いて青ざめている。素人目からも、すでに生命活動を停止していることは明白だった。

 

「こいつ、すでに身元が割れてるっていうか、昨日の窃盗グループの一人でさ。奴らが使ってた連絡システムを作ったのも、彼」

「お抱えのプログラマーか、システムエンジニアってことか」

「ただ、数か月前には半分足抜けみたいな状態だったみたい。なんでも『他に良い働き口が出来た』とかなんとかで」

 元々そちらで動いていたことを差し引いても、初動の時点でホトケの素性を掴んでいるのは流石というか――と思いさしたところで、舌打ちし、意識を反らす。

 ふとその目線の先、カーペットの上に転がるメモ帳を、一路は認めた。

 そこには何かのコード表らしき数式の羅列と、そのすぐ下に、

「『悪魔の囁きに耳を貸すな?』」

 と、謎めいたダイイングメッセージが殴り書きされていた。

 

「にしても、ずいぶん綺麗な死に方だな」

 死に顔こそ、現職の刑事たちでさえ距離を置くほどの凄惨なものだが、目立った外傷がない。プログラマーという職業を選んでいるにも関わらず、身体つきも健康そのものだ。

「詳しいことは司法解剖してみないと分からないけど、椅子の操作を誤って体勢を崩して頭を打った……ていうのが今のところの見解かな」

「ねーな」

 一路は即座に断じた。

「椅子が倒れてない。そもそもカーペットに、キャスターが擦った跡がない。不意に倒れたにしては、身体を無理に動かしたり着地行動をとろうとした様子がない。つまり、転ぶ前に何かしらの要因で死んでたんだよ、このガイシャ。ていうか、なんだってコイツ、こんな場所で……なんだよ、その顔は」

 ニコニコと、薄気味悪い笑顔を貼りつかせて、順那は覗き込んでくる。

「良い読みしてるねぇ。どう? マジメに働いてくれるなら、私の下で本庁に戻してあげるけど?」

「冗談じゃねぇッ、何が悲しくて同期(テメー)の下につかなきゃなんねぇんだッ……駆ならまだしも」

 ぞっとしながら、一路は後退した。

 

「――確かに、良い読みをしておられる」

 そんな彼らの間に、大柄な男の影が割って入った。

 その男は、一九〇を超える長躯を屈して、遺体に近づき、

「そう、彼は何かしらの理由で倒れ込んだ。事故や自殺の可能性が低く、目立った外傷もない。では、その『何かしらの理由』とは、なんなのでしょうか。いえ、だからこそ我々が来たのですが」

 まるで子ども相手の謎かけのように、栗毛の髪を巡らせて、男は一路を見た。

 見たところ四十そこそこか。彫りの深い顔つきと、高い鼻筋。眼光が異様に強く、全体的な印象は日本人的ではない。

 スーツはカフスボタンの角度まで寸分の狂いなく整えられていて、であればこそ、血のように赤いネクタイがとかく目を惹いた。

 

「……おいちょっとアンタ、ここ立ち入り禁止」

「うわっ、ブーメラン発言」

 裏で何事かを順那が突っ込みつつ、その侵入者の横に回った。

「あのねぇ、素人がここに来るわけないって言ったのジブンでしょ。この人は」

「いえ、良いんですミス坂上……たしかに、いきなりで失礼しました」

 

 穏やかに目を細めつつ、男はその太くもしなやかな指先で、顔写真つきのパスを一路の眼前に差し出し、そして名乗った。

 

「本日付で国家防衛局に出向となりました、インターポール実働班『Forest1』の捜査官、ハンジ・カタギリです」

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