仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
「ケッ、なーにがインターポールだ。お高くとまりやがって」
順那とハンジを送ったその後で。
媚び媚びの態度から一転、自身の車両の中、ハンドルに踵を乗せながら苦々しく毒づく。
そんな彼の様子に、苦笑めいた呼気が正面に据え置かれたスマートフォンから聴こえてきた。
『でも、安心したよ。オレがいなくても、なんとかやっていけてるじゃないか』
その画面には松葉杖を肩に寄せてベンチに座る、同年代の男が表示されていた。その背には、彼が起居しているらしい真っ白な病棟も見える。
五乗駆。二年前の英都銀行立てこもり事件で負傷し、休職中の刑事。一路の相方で、今もなお、
元気なように見えるが、あの事件から一度もちゃんと会えてはいない。
今もってなお、画面越しの面会しか許されてはいなかったのだ。
もっともそれも、今までに数回あるかないか。しかも基本は相手からの連絡待ちだ。自分が傷つけてしまった相手に、なお友人として変わらない接し方が出来るほどの厚顔さは、さすがにない。相手もそういう微妙な気持ちを察してか、こうして会っても会話はぎこちないものになる。
「バカ言え。あの時から、俺の人生下り坂だ」
俺の人生下り坂。それは、一路が一人か、あるいは駆に腐す時に出る口癖だ。
キャリア形成の時期に順那や駆に大きく水を開けられ、あの事件が決定打となって警察官としての栄達の道は完全に断たれた。あるのは暗闇に真っ逆さまに続く下り坂だけ。それをブレーキをかけて抗いながらゆっくり進んでいるだけに過ぎない。
「とっとと戻ってこいよ、駆」
か細い声で、一路は言った。
「皆が求めているのは俺なんかじゃなくて、お前なんだ。それに俺だって思ってるんだよ。お前なら、あの
その名は、今や日本の警察官で知らない者はいない。
仮面ライダードライブとして、刑事として。法のみでは太刀打ちできない機械生命体や、凶悪犯たちから市民を守った警察官の亀鑑とも言うべき人物。
ロイミュードが撲滅され、ドライブシステムが凍結して十年にもなろうが、今の世代で、彼に憧れて警察官になったという声は少なくない。
『買い被りだよ』
笑みを含ませながら、駆は言った。
『それにお前だって最近
「さぁ、どうだろうな」
『いつか紹介してくれよな』
「いたとしても、先方の都合でね。俺以外とは極力接触したくないんだと」
『慎重なイヌなんだな』
「いや――タコさ」
冗談めかしく返し、一方的に通話を切る。
本当は、こちらとても訊きたいことはある。
あの銀行での顛末は、世間で語られている通り、一路の不祥事だったのか。それとも、あそこで自分だけが目撃したことは――あの怪物は、本当にいたのか。
時間を経るごとに、曖昧になっていく。目を逸らしたまま、無かったことと過ぎたことになっていく。
だからもう一人の当事者に尋ねたい。だが自分が諸々に秘したままにそれを問い糺すのは、ムシの良い話だ。
「せめて打ち明けてやれれば、こっちもやりやすいんだけどなぁ?」
『それは言わない約束だ』
ぼやきを拾う声がある。
承知の上で、嫌味ったらしく言った。
今まで駆と会話していたものとは別の、私的な形態端末が、座席の右の小物入れに置かれている。どこの電話会社も携わっていない、それだけに連絡が通じる特殊な機種だ。
その紅と黒のツートーンのボディを雑に摘み上げれば、厚みある画面の中に、闇が広がる。その中を、赤き影が狭そうに漂う。
正確には、全身を覆う朱色のローブを頭から膝まで覆いかぶせている。その裾は、まるで触手のように枝分かれしている。彼が『タコ』と揶揄したのはその風体のためである。
そのフードの下から、切り揃えられた白髪が垂れる。目元を隠す、髑髏めいた黒いマスクが嵌められている。
さながらそれは、異世界からやってきた悪魔か殺人鬼のようだが、平面的に、アニメチックにデフォルメされているから不気味さだとか異形感は薄れている。
だが、絵とは思えない微細な動きでもって、自らの裾を弄びながら、
『オレ様の存在を他者には明かさない。その正体やいきさつを、こちらから打ち明けるまでは詮索しない。それも契約に含まれてただろ、旦那?』
男とも女ともつかない、小悪魔じみた声調でもって、挑発的な物言いを返したのだった。