仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー) 作:大島海峡
所轄署――留置所。
そこに、件の窃盗グループの首犯が拘留されていた。
秘中の秘であり、誰にも気取られるはずのなかった今回の犯行計画が露見した今、心折れた彼にできることと言えば、知るべきことはすべて打ち明け、それ以外の時間では力なく虜囚となって壁にもたれ、大人しく正式な起訴を待つことだけだった。
だがその獄中の彼のもとに、一人の男が訪れた。
いつしかそこには、見張りの警官の姿さえない。そうさせる権限が、鉄格子越しに対峙した彼にはあるというのだろうか。それとも別の要因に由来するものか。
「誰だよ、あんた」
そう誰何の声をあげた瞬間、その盗人の眼は限界まで開き、息を詰まらせた。
それほどまでに、男の発する気は圧倒的で、魔的で、常人には耐えることができなかった。
相手の手の届かないところにいるはずなのに、見つめられるだけで、全身の水分が干上がってしまいそうだった。
人の形をしているはずなのに、明らかに違う、猛獣めいた何かと対峙させられている気分になる。
なのに、目を逸らすことができない。許されない。
「ここから、出たいか?」
中腰に身を屈めながら、その男は甲高い声を伸ばして言った。
「分かるよぉ、窮屈だよなぁ。息苦しいよなぁ。ニイちゃんもなぁ、色んなしがらみに縛られてるのよ。職場は右も左も、ズルい奴でウンザリすることばっかりで、家族は家族で俺の足引っ張ってウザってぇし、それが嫌で嫌で、嫌で嫌で嫌で嫌で――」
くつくつと、地獄の釜でたぎる湯のごとく、喉奥を鳴らし、
「そんなことを想ってたら――いつの間にか
その男の表面を、濃いピンクと赤の、コードのようなものが滑っていく。それはまるで糾えるDNAのごとく。雑に張られたテクスチャのように……いや、この男の姿こそがガワであり、中には本物の悪魔でもいるのではないかとさえ思えた。
悲鳴をあげようとするも、喉はカラカラで声も出ない。ただ硬い壁に背中をぶつけ、これ以上は下がれないと分かっているのに必死に後ずさる。
「そうビビんなくて良いって、俺がここから出してやる! いや、マジで! 信じろって!」
そう熱弁をふるうも、
(信じられない……)
という想いがついて脳裏を巡る。
いや、本人は間違いなくその気であろうことは、語気の迷いのなさ、力強さから感じて取れる。だがよしんばこの牢屋から出してもらえたとして、それは、この男に支配されることに他ならないのではないか、と。
「そのための『チケット』を、用意したんだ」
そう言って差し出したのは、薄い断片。
なるほどチケットと言えばそう見えるかもしれないが、それにしては質感は金属で、厚みがある。
溝のついたその形状としては何かの割符のようだった。
「このマリスチケットを使えば、お前はどこへだっていける」
ローマの円形闘技場を背景にライオンの横顔と足跡が刻まれた、異形の紋様が電子回路のようだった。
それに男の親指が押し当てられると、『D』に似た烙印が浮かび上がり、
〈ゲゲルコロッセオ〉
などという、地獄から響くがごとき不気味な声が、その先端より発せられた。
己の立てた理屈以外、信じるものなどないという男の、長らく捨て置いていた本能的な部分が警鐘を鳴らす。
――これは、良くないものだと。恐ろしい何かだと。触れれば、最後。おそらく己の理性は飛散してしまう。
だが、それでも。
この男との対峙を続けるという、耐えがたい苦痛に居続けるぐらいなら。
砂漠の中で一杯の水を求めるが如く、震える手でそれに手を伸ばし――
「契約は成った。これで晴れてお前は自由……あー、ダメだコレ。一発でトんじまったわ、適性あると思ったんだけどなぁ、『あいつ』のようにはいかねぇか」
身体中の血管が沸騰する感覚に襲われ、悶絶し転げまわる中、
「まぁ自由ってのは代償がつきもんだ、こうなった以上はとことん楽しんでいこうぜ兄弟、ハハハ」
それが人として聴いた、最後の言葉となった。