仮面ライダーラプラス(リクエスト作品:ドライブ+リバイス オマージュライダー)   作:大島海峡

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7.クズの本懐

「で、他になんか良いネタ無いのかよ。なんかこう、テキトーな詐欺グループとかで良いからさ」

 なお車内で燻る一路がそう問いかけても、クスミからの反応は無かった。

「おい、タコボーズ、何黙ってんだ?」

 押し黙った画面の中の赤フードは、虚空を見上げて、ポツリと、

『――動いた』

 と呟いた。

 

「あ? 動いた? 何が?」

『悪魔の話をすれば、悪魔が現れる、ってコト』

 煙に巻いた言い方をしたクスミに、訝る前に、車内の無線に通信が入った。

 

『緊急通報、緊急通報……、北港……署内で暴動が発生ッ』

 暴動。耳慣れないその二字に、一路は眉をひそめた。

『暴動……いえ……怪物が突如として出現っ、付近の警官は至急応援求』

 そこでブツリと、連絡は途絶えた。

 そのあまりに唐突な切断に、一路の背に冷たいものが奔る。

 

『だってさ』

 クスミが画面の中で促した。

()がね、来たんだよ。旦那』

「……いや、暴動って」

 一路は半笑いを返した。

 何かの間違いだ、そうに決まっている、と己に言い聞かせて。

 

 だがその間際、助手席に突然同期の桜、坂上順那が乗り込んできた。

「おわっ、なんだよお前!?」

「どーせまだいると思ったよ」

 慌てて『タコ入り端末』を押し込み隠す一路のことなどお構いないし、シートベルトを巻く彼女は、

「今の無線、聞いたでしょ。なんか、お宅でヤバいこと起こってるみたいじゃない」

「い、いや」

「ほら、行くよ」

 有無を言わさない強い目。使命感の焔を、静かに燃やし続ける眼差し。

 自分からはすでに失われているそれに気圧されて、一路は運転手をさせられたのだった。

 

 〜〜〜

 

 首都圏にあるその所轄署は、すでに改築して数年。そろそろ外装に汚れが目立ち始めたが、そんな汚れなどもう関係のない有様になっていた。

 

 ところどころで残骸が焼け、壁は割れ、裂け、内側から吹き飛んだらしい窓ガラスの破片がロータリーに散乱し、数人ばかりの警察官が転がっていた。生きているのか死んでいるのか不自然に手足が曲がったままぴくりともしない。

 

 遠巻きにそれを見ている野次馬を散らして入り口に乗り入れると同時に、順那はその地に降り立った。

 とても法治国家とは思えない、尋常ならざるその光景に、さしもの彼女の横顔も強張っていた。だが気後れする様子もなく、拳銃の入ったホルスターに手をかけつつ、ゆっくりと進み始める。

 

 ……だが、一路は動かない。実際の惨状とは別に、彼には視えてしまっている。

 あの銀行や、地下と同じ痕跡(モノ)。あるいは気配と言い換えても良い。

 警察署を荊の如く巻き取る、オレンジ色の悪意。

 常に、何者かに覗かれているかのような心地に、全身がすくむ。

 

 あれは、尋常の人が近づいてはいけないものだ。

 それを知覚できるのは、この場においては自分だけらしいが。

 

「――君はそのまま車を確保しておいて。あと、本庁への連絡係もよろしく」

 そんな彼の引き吊った顔を見ての判断か。この状況では及び腰になっても無理はないと見てのことか。

 ついてこい(フォローミー)とは容易に言わず、順那は単身建物の中へと乗り込んでいった。

 

 その姿が見えなくなったのを見計らって、一路はキーを回した。

『何してんのさ』

「逃げるに決まってんだろ……!」

 片隅に追いやった端末に、再びクスミの姿が浮かび上がり、

 

『言ったでしょ。今がその時なんだよ。コアドライビアシステムが凍結された現状、警察内で中に現れたであろうモノに対抗できるのは、奴らのサインを知覚できるセンスを持つ旦那と、そのダッシュボードの中にあるモノだけだ』

「ふざけんな、こんなモノと戦うなんて聞いて……!」

『聞いてないとは言わせない』

 有無を言わせない調子で、画面の中の赤フードは遮った。

『あんたは、知っていたはずだ。気づいていたはずだ。二年前、あんたとその相棒を襲った不幸が、人の踏み込めざる領域からの使者のせいだったことも。そしてオレが、奴らと関わりがあるということも。近く人類が、その脅威にさらされるだろうということも。だが目を背け続けてきた。そのツケを清算する時が来たのさ』

 無慈悲な正論の刃が、一路を追い立てていく。

 

「ふざけんな、ふざけんなふざけんな。クソがッ!」

 車内でその手足をひとしきり暴れさせた後、彼は頭を抱え、身体を丸めた。

「なんでだよ……なんで……ッ」

 あの時も、そして今も。

 それにふさわしい気高さを持つ人間はいた。坂上順那、五乗駆。この重責を担う器量と正義感の持ち主だったはずだ。

「なのに、なんで、俺なんだ……」

 

 その問いかけに、クスミはしばし画面の中で沈黙を続けた。

 ややあって、

『たしかに、あんたは、クズだよ』

 と容赦なく告げた。

『人としての正義感も無くし、警察官としての責任感も忘れて上司に媚び、部下や同僚には横柄に振る舞い、その行動は浅薄そのもの。日常的にサボリ、いざ窮地となればそうやって逃げだす。投げる。もし飛ばされたのが風都(ふうと)署だったら、ほぼ間違いなく自分に負けてドーパントになっているような男さ》

 一路は蹲ったまま言い返さなかった。その予想が、自分自身でも想像がついたがゆえに。

 

『――でも、そんな99%不純なあんただけど、残る1%は、決して揺るがない』

 そうクスミは言い添えて、フレームに肩を寄りかからせ、彼の顔を覗き込む。

『それは、二年前のあの事件に対する真摯さだ』

 そして一路は、その姿を見返した。

 

『オレと出会ったあの時、なんでセンタービルにいた? 痕跡を追った?』

「……」

『捜査をしてたんだろ。たった一人で、すべてを喪ったあの時から。サボっているのはこの件に時間を割くためだ。上司に媚びるのは自らを警察官という立場に繋ぎ止めるため。他人から嫌われるのは、自分ではなく、五乗刑事の復帰を周りが待ち望むようにするため。刑事としての魂だ」

「……知った風な口きくんじゃねぇ」

 ハンドルを握りしめて、底まで落ち込んだ声で一路は呟いた。

「俺はただ、納得のいく真実(こたえ)が欲しいだけだ。正義のためだとかデカ魂だとか、まして()()()()()と戦いたかったわけでもねぇ。理不尽に奪われたままじゃ、俺の人生はあまりに惨め過ぎる下り坂だ」

『それも違うな』

 目線を下から合わせながら、クスミは言った。

『あんたは二年前に踏みとどまってるだけなのさ。あの時から、一歩も前に進めていない。そしてその一歩を進める瞬間が、今ここだ。その先が下り坂がどうかは、あんた自身が決めることだよ……いや、この物言いは一方的過ぎるな』

 モニターの中で、深く息を吸う。実際に酸素をあらたに取り入れているかのような、動作と息遣いだった。

『――危険で理不尽な目に遭わせようってのは、たしかにそうだ。だからここからは、契約じゃなくてお願いするしかない……頼む、その1%でも良い。一瞬一秒でも良い。なってくれよ、ヒーローに――仮面ライダーに』

 

 一路は漫然と、その車内のスペースをこじ開けた。

 その中には、まだ一年前と変わらない光沢を帯び続けた真紅のドア。

 閉ざされていたそれは外気に触れ、陽の光を浴びて、一気に輝き始める。

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