「唐揚げが食べたい!」
ある日の夜中、今から眠りに就こうと目を閉じたユニだったが、己の心の奥から湧き出た激情に釣られ、目をカッと見開いて言った。
「ダメね。目を閉じると唐揚げのことしか考えられなくなる。寝る前にNeptube Shortなんて見るんじゃなかったわ。何が最高の唐揚げの作り方よ、飯テロはそろそろ法律か何かで禁止するべきだわ」
ユニは頭の中に悶々と広がる唐揚げの誘惑を断ち切ろうと唐揚げのことを考えないようにするが、逆に脳内を巡る唐揚げのヴィジョンが明確なものになっていく。
それだけでなく、カリカリと唐揚げが揚がる音や、揚げたての唐揚げの熱や匂いすらも感じられるようだった。
「嗚呼……唐揚げが食べたい……っ。サクサクの衣とジューシーな鶏肉が織りなす味のエグゼドライブ……さしづめ、今のアタシは唐揚げの女神候補生といったところね」
もう既に誇り高きラステイションの女神候補生ユニの姿はなく、唐揚げに取り憑かれた唐揚げの女神候補生ユニの姿がそこにはあった。
「というわけで、深夜だけど作るわ! 唐揚げを!」
ユニはベッドから飛び起き、キッチンへと向かった。
簡単に述べるなら、ユニは飯テロによる空腹と深夜テンションでおかしくなっていたのだ。
「過去のアタシはバターチキンカレーでも作ろうと思ってこの鶏もも肉を買っていたようだけど、残念ながら
まず手を洗い、フリフリのエプロンを身につけたユニは、まるで自らの過去に決着をつけるかのような鋭い表情で冷蔵庫から鶏肉を取り出し、一口サイズに切り分け、ボールに入れていく。
「流石に深夜だからニンニクは………………入れちゃうのよねぇこれがッ‼︎」
そして、ユニは狂気に満ちた表情で調味料などを入れ、鶏肉に揉み込んでいく。分量は全て目分量、自分に最適な味の濃淡を自分の感覚で判断する、これが『適量』ということなのだ。
充分に揉み終わったら、
その手捌きは、まるでユニの得意とする銃に弾丸を装填する速さの如し。
「肉の都合はついた……次は油ね」
ユニが棚から取り出したのは、小型の鉄鍋。底が厚く、揚げ物に最適なものだ。
そしてそこに油をトプトプと注いでいき、適量に達したら鍋を火にかける。
「アタシほどの唐揚げの女神候補生となれば、油の温度を計測する必要はないわ」
その言葉のとおり、数分後に油が約170℃に熱されたことを感覚で察知したユニは、鶏肉を油の中に入れていく。
「さぁ……奏でなさい……!」
ユニが命じたように、ジュワジュワパチパチと音を立てて上がっていく唐揚げ様子は、まるで一つの音楽を奏でているようだった。
「さて……」
二分ほど経ち、一旦唐揚げを全て油から掬い上げたユニは、横に用意していた網の上で、揚げた鶏肉たちを
一度目の揚げで肉に火を通し、二度目の揚げで衣をきつね色に仕上げるのだ。
「例えるなら……コンボリンクのようなものね。アタシには使えないし、そもそも最近のやつにはスキルの存在すらないけど」
そして二度揚げが完了し、粗熱を取ってから皿に盛ったユニが食卓に向かおうとすると、そこには既に箸を握ったノワールが座っていた。
「お、お姉ちゃん……っ⁉︎」
「随分と楽しそうに作っていたわね。丁度、夜食でも欲しかったところなんだけど、私もいただいていいかしら?」
優しい言い方であるがその真意は、自分にも分けるならばこんな夜更けに唐揚げを作ったことは不問にしてやる、ということ。深夜に揚げ物というのは中々に業が深いのだ。
とはいえ、ユニが作った美味しそうな唐揚げを自分も食べたいという純粋な思いもあるだろうが。
「……六個あるから、アタシが四でお姉ちゃんが二ね」
「え〜、そこは半々じゃないわけ?」
「作ったのアタシだもん。お姉ちゃん座ってただけでしょ」
「箸とお茶出したわよ。それに私が変に手伝うより全部ユニがやった方が美味しいじゃない。ていうか唐揚げの女神候補生って何よ、ふふふっ」
「はい、アタシが五でお姉ちゃんが一ね」
「ちょっと!」
結局、突発的に食べたくなって揚げた唐揚げの半分を姉に奪られたユニだったが、その唐揚げは一人で食べるよりも倍くらい美味しく感じられたのだった。