リユニオン   作:やわらかな土

9 / 10
久野きらら

 彩未と入れ替わりできららがやって来た。まるで機をうかがっていたようなタイミングだ。

 

「やっときららの順番になった。リーダーは人気者だからきららはいつも後に回されちゃう」

「待たせて悪かったよ。埋め合わせはするから今回は許して」

「先っちょが乾く暇がない?」

「そんな言葉をどこで仕入れてくるんだ?」

「でもいいの。きららとリーダーはプラトニックな関係だから」

「別になにも始まってないだろ」

「ハッ!」

「今度はなに!?」

 

 きららは口を三角に開いて大袈裟な声を出し、ぱたぱたと足音を立てて部屋から出て行った。そして閉めた扉の向こうに立ち、こんこん、とノックする。

 

「どうぞ!」

 

 俺は投げやりな気分で返事をする。待たせてしまったのだから小芝居にくらい付き合ってやらないと、そんな気分だ。けれど、こんこん、と再び扉が叩かれる。

 

「入っていいいよ!」

 ――こんこん!

 

 しかしきららは俺の声に被せるように扉をノックしてくる。俺に開けろと言っているのだ。正直気が進まない。が、このままでは埒が明かない。すりガラス越しにきららの姿がぼんやりと透けている。どうにでもなれという気持ちで扉を開けた。

 

「来ちゃった♡」

 

 扉の前できららが上目遣いで言い放つ。頬を染め、前髪で隠れていない方の目まで潤ませる周到さだ。

 

「なにが」

「だから、来ちゃった♡」

「わかんないって」

「お。みにくくあがく浮気男のロールプレイ。リーダーも乗ってくれてきららは嬉しい」

「なに言ってるかわからないし、俺は別に乗ってないし。っていうか浮気男って」

「リーダー、中に入ってもいい?」

 

 きららは俺を無視して体を左右に揺らし、俺の体の脇から室内を覗き見ようと激しく動く。これではまるで中に入らせまいと、俺がきららを食い止めているみたいじゃないか。

 

「だから、なんのつもりなんだ?」

「急にやってきた彼女のまね。リーダーは部屋に愛人を連れ込んでいるから、これから修羅場になる。リーダー、たのしみだね」

「なんだよその嫌なシチュエーション。最低なイベントだな……って、いいから早く入れって」

「くんくん。なんだかこの部屋から知らない女の匂いがするわ!」

「そりゃあするだろうな」

「リーダー、正直に言って。きらら以外の女を抱いたの!?」

「しないって、うるさいなあ。いいから早くはじめるぞ!」

「他の女を抱いた手できららに触らないで!」

「言いたい放題か」

「ハッ――! 悪い男に力で無理やりわからされてしまうシチュエーション……惚れた女の弱み……それもまたいい……」

「馬鹿な妄想でみなぎってるんじゃないよ」

「ほんとにしちゃう?」

「しないから。さっきからどうしたんだ? もったいぶるような真似ばかりして、きららも自分と向き合いたくない系か?」

「ううん、違う。きららには必要ないから、はじめたらすぐに終わっちゃう」

「どういうこと?」

「こういうこと」

 

 そう言ってきららが沖を指差した。その瞬間に大地が鳴動し、海から巨大な鳥居が迫り上がってきた。鳥居に続いて巨岩が、そして深い森を携えた急峻な山がそびえ立つ。

 

「きららは神様と深いところで繋がっている。だから同じチャンネルで神様に話しかければ、こんな風になるのも予想ができる」

「そういえばきららは本物の巫女だったね」

「きららは純潔だよ。リーダー、嬉しい?」

「それは好きな人のためにとっておきなよ」

「リーダーは若いのに感性がおじさん。若い子はそんなこと気にしない。知ってた?」

「きららが聞いてきたんでしょうが!」

「リーダーは穴ならなんでもいいのねッ!?」

「さっきからセクハラ三昧じゃないか。ココロトープが出せるならさっさと行って来いって」

 

 俺はあえて軽く突き放すように言った。きららが何を考えているのか、なんとなくわかってしまった。別れを惜しむ気持ちは俺も同じだ。きららは黙って席に着き、椅子に座れと俺に目で合図した。

 

「リーダーは大丈夫?」

「大丈夫って、なにが?」

「きららはリーダーがいなくなったらさびしい」

「静かになってせいせいしますよ。まあ、その後でちょっとさびしくなるかもね」

「お手紙たくさん書くからね」

「そういえばサンタさんへの手紙はフィンランドに送るらしいね」

「神様にお願いするから大丈夫。きっと届く。リーダーも神様にお返事するんだよ」

「まあ、たまには」

「きららたちはみんなリーダーのことが大切」

「俺もそうだよ」

「だからさびしくないはずがない」

 

 きららが席を立ち、俺のとなりに立った。俺はなんだか拗ねたような気持ちになっていて、きららを突き飛ばしたい衝動を感じていた。

 

「いいこ、いいこ」

 

 きららが俺の頭に触れた。

 

「いつも通りでいてくれてありがとね、リーダー。よくがんばりました。もうなんにも心配いらないからね。大丈夫だから、あとはきららたちにまかせて」

「なにが」

「ぜんぶ。ぜんぶ大丈夫。これからなにが起きても、リーダーは大丈夫だよ」

 

 不意に、俺の目から涙が落ちた。なんだこれ、と言おうと思ったが、声にすると嗚咽になってしまいそうで、俺はなんとか首を縦に振った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。