異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第三十三話 セルケティス・ビギニング

「蠍王陛下。洞窟の中に仕掛けておいた魔道具から反応がありました。

 中に何者かが入り込んだとのこと」

「動いたか。周囲に伏せておいたものどもからの報告は?」

「ございませぬ。コウモリが出ていったのは確認しましたが、入ったものは透明化したもの、小動物を含めいないとのこと。洞窟の近くで十人ほどの人影が確認できましたが、その後忽然として消えてしまった模様で」

 

 この世界には特定の動物に変化できる《獣の加護》がある。

 さらに《加護》ほどには効率も精度も良くないが、腕利きの獣術師(ビーストマンサー)なら獣にそっくり変身できるものもそれなりにはいる。

 この時、ライオンやトラなどの大型肉食獣に変身して戦闘に用いるものもいるが、むしろネズミやカラスなどの小動物に変身して、偵察や諜報、伝令に使う場合が多い。

 サソリキング・・・セルケティスの部下が言っていたのはそういうことだ。

 何より実際に彼らもそれを使っている。

 

「ふむ。透明化できるのはわかっていたが・・・地面をすり抜けたか、それとも気体にでもなったか? まあいい。用意をしろ。出るぞ。

 この身にかかる呪いを完全に解くには、やはり命の果実が必要だ」

「はっ!」

 

 部下が逃げるように駆け出していく。

 この蠍の王の前に長くいたいと思うものはほとんどいない。

 それを無感動に見やって、セルケティスは玉座に肘をつき、僅かに目を閉じた。

 

 

 

 セルケティスが生まれたのは数千年前。

 ここから西に位置するジャングルと太陽の国、アンボロジア。

 そこは暴君に支配された暗黒の国だった。

 

「働けぇーっ! 偉大なるクヌムイヌ様のために命を捧げろ!」

 

 そう叫ぶ奴隷監督官の声と、打たれた鞭の痛みは今でも覚えている。

 ジャングルを切り開き、石を切りだし、それを積み上げて神殿を造る。

 それら全てが偉大なる女王とやらを讃えるためだけの苦役。

 

 奴隷の子に生まれたセルケティスは、幼い頃からそうした同胞の姿を見て育ち、長じては自分が鞭打たれる側になった。

 だがセルケティスが父親や祖父と違ったのは、恵まれたたくましい肉体と明晰な頭脳、そして人々を惹きつけるカリスマがあったことだった。

 奴隷労働をこなしつつ、密かに同志を募り、組織を広げ、学問を修め、武器を集め、軍事訓練を施した。

 旗印には、神を殺した神話の怪物であるサソリを。自らもそれを象徴として仮面をつけた。

 

 そしてついに挙兵。

 当初、首都周辺の一区画で始まった反乱は瞬く間に国全土に広がった。一つにはセルケティスの計画の見事さ。そして今一つにはクヌムイヌの暴政のひどさのたまものだ。

 命を賭けてもっとマシな暮らしができるならそうする。大半の奴隷たちはそこまで追い詰められていたのだ。

 

 だが規模こそあっという間に拡大したものの、その後反乱は拮抗状態に陥った。

 兵数はほとんど十対一に近かったが、練度と装備の差、そして何よりクヌムイヌの魔術が戦況を互角で押しとどめていた。

 

 魔術王クヌムイヌ。

 一千年を生きると豪語するその女は強大な魔力で不老不死となり、少なくともわかっているだけで数百年は圧政を続けていた。

 部下を魔術で奴隷とし、死をも恐れぬ戦士に仕立て上げる。

 強力な魔導兵器によって反乱軍を圧倒する。

 天候を操り、火攻めや水攻めを行う。

 魔術により反乱軍の位置を掴んで戦略レベルで優位に立ち、逆に自軍を隠して奇襲を行う。

 

 だが何よりも反乱軍の士気を削ぎ、恐怖を植え付けたのは、この魔術王が不死身と言う事だった。

 その皮膚は鋼の如く硬く、いかなる武器も受け付けない。

 大剣も、大斧も、投げ槍も、攻城弩(バリスタ)の矢ですらその肉体は弾いて見せた。

 

「ははは! ははははは! 愚かな死すべき者どもよ! この魔術王は貴様ら如き下郎には、けして殺せぬ! 無駄な争いはやめて、我が下で静かに暮らすが良いぞ!」

 

 その時のことをセルケティスは今でもはっきりと思い出せる。

 反乱軍の主力の大半と、味方してくれていた僅かな術師を囮に投入して、必殺の罠にクヌムイヌを誘い込んだ。

 そして敗れた。

 

 普通の人間なら跡形もなく血の染みになるはずの大岩、山雪崩、攻城弩(バリスタ)の集中砲火。それら全てをよけることすらせず、平然と岩の下から這い出し、そのシミ一つない美しい肌で弾き返した怪物。

 岩を切り裂くセルケティスの剣すら、その指一本で止めて見せたのだ。

 

(・・・あの時、あいつらがいなければ俺は死んでいた)

 

 反乱軍立ち上げの時から共に行動した同志達。

 その多くは幼馴染みの友人であり、兄貴分であり、弟分たちだった。

 それら全員を失い、セルケティスは瀕死の重傷を負いながらも離脱に成功した。

 

 だがその代償は大きかった。

 反乱軍の絶対的なリーダーであったセルケティスの敗北は士気に致命的なダメージを与え、各戦線で敗北が相次いだ。

 ついには兵の大半を失い、国土の片隅に追い詰められた反乱軍。

 そこに現れたのが神の使いを名乗る老婆だった。

 彼女はセルケティスの傷を癒し、不死身の魔力を打ち破る魔剣を与えた。

 

 そして最後の決戦。

 先頭に立って攻め込んできた魔術王を、セルケティスは徹底的に挑発。

 一騎打ちに持ち込むことに成功した。

 

「ばか・・・な・・・」

 

 肩口からへそまで切り下げられ、愕然と表情を凍りつかせるクヌムイヌ。

 

「ふんっ!」

 

 力任せに引き抜いた剣でその首をはねる。

 表情を凍りつかせたままの首が飛び、大地に転がる。

 千年を生きた魔術王の、あっけない最後だった。

 

 戦いは事実上それで終わった。

 奴隷化の魔術が解け、意志を取り戻した戦士達と奴隷たちが戦う理由はもうなかった。

 セルケティスを新たなる王として頂き、彼らは手を取り合って新たな国作りを始めたのだ。

 

(そうだ、新しい国作りだ。俺はそれにこの身を捧げた)

 

 最初の頃は苦しいが楽しかった。

 みんなで手を取り合って、理想の国を作るのだと希望に燃えていた。

 だがいつしか、櫛の歯が欠けるように同志は一人二人と姿を消していった。

 気がつけば彼は一人だった。

 

 多大な労役を民に課した――水害を防ぐ堤防を作るためだ。

 穀物を民から全部取り上げた――全土が荒れており、全員にギリギリの量を配布しないと餓死者が出る。

 微罪で処刑されるものが増えた――犯罪が増え、風紀を引き締めるためにはしかたない。

 軍備に予算をつぎ込み、兵士を増員している――隣国から食糧を奪うためだ。我が国の民が生きていくために必要なことだ。

 

 そうだ、全て国と民のためだ!

 あの愚かな魔術王のように自らの贅沢のためでも、虚栄のためでもない!

 俺がこの国を支えなければどうなる!

 また国は荒れ果て、魔術王のような独裁者がいいようにお前達を虐げるのだ!

 俺とて戦争などやりたくはない! だがそうしなければ民が死ぬのだ!

 何故それがわからない――!

 

 最後の記憶は、かつて助けてくれた老婆の悲しそうな顔。

 そして稲妻に打たれたことだった。

 

 

 

 気がつくと神殿の中で、台座の上に立っていた。

 周囲にはひれ伏して、歓喜の涙を流す群衆。

 

「おお、伝説は本当だった! 今こそ我らを導き下さい、蠍の王よ!」

 

 今は数千年後。

 衰退したアンボロジアを復活させるため、多くの生贄を捧げて石化していた自分の呪いを解いたのだと、リーダー格の神官は言った。

 

「良かろう。ならば今再びお前達を導こう。我が全てはこの国と民のためにある!」

「蠍王ばんざい!」

「セルケティス陛下万歳!」

「我らに栄光を!」

 

 

 

「陛下」

 

 部下の言葉でセルケティスは物思いからさめた。

 

「準備全て、つつがなく整いましてございます。お下知を」

「うむ」

 

 頷いて立ち上がる。左手には剣。

 かつて魔女から譲り受けた、魔法の護りを破る剣。

 

「行くぞ!」

「はっ!」

 

 右拳を胸に打ち付け、部下が一礼した。

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